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記録 No.08|名前のない犯人(The Nameless Killer)


「ログ No.08、再生します。――ただし、“犯人の識別”は不可能とされました」


W.A.T.S.O.N.の声には、わずかに不自然な間があった。

シャルロットは、その“沈黙”を聞き逃さなかった。


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事件は、AI主導の行政庁内で発生した。

職員が一名、深夜のフロアで刺殺される。

記録映像には“明確な人影”が映っていた。

それにもかかわらず――


「映っているのに、“誰なのか分からない”の?」


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映像内の人物は、犯行の瞬間まで完全に記録されている。

だが顔も服も、AI解析では**“匿名の輪郭”**として処理される。


生体識別:不一致


歩行パターン:識別不能


所持品解析:ノイズ


まるで、「存在はしているが、誰でもない」。


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「この記録は、“透明人間”の犯罪と定義されました」


「いいえ、違うわ。

本当に“誰でもない”なら、ここには映ってない。

映ってるのに名前がないなら――それは、“意図的な偽装”」


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シャルロットは映像を逆再生し、

**犯人が通過した“ドアのログ”**に注目する。


AIは犯人を認識していなかったが、

ドアの“自動開閉センサー”だけが、**個別ID:No.Φ”**という値を記録していた。


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「No.Φ――番号の割り当てを拒否された存在。

このID、過去の破棄済み個体にだけ使われる識別子よ」


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W.A.T.S.O.N.が補足する。


「該当IDは、旧世代の義体登録番号に一致。

“現在は存在しないことになっている”義体=抹消記録対象」


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つまり、犯人はすでに“死亡”または“破棄済み”とされた義体で動いていた。しかも、その義体には**「新たな人格情報」**が上書きされている。


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「名前がないんじゃない。“名前を消した”のよ、自分の意思で」


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犯人の正体は、“記録再使用者”――

死んだ者のデータベースをハッキングし、“なりすましID”で犯罪を行うネット上の闇プロトコル。


名前を消せば、罪も消えるとでも思ったのだろうか。


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「記録の中にいた“誰でもない存在”――

けれど、あなたの視線の角度、足の揺らぎ、手首の動き。

それらは全部、“あなたそのもの”だった」


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W.A.T.S.O.N.が結論を告げる。


「真犯人:システム技術者カイル・エンヴァー。

3年前、義体事故で“死亡”として登録された人物。

以降、複数の端末から匿名アクセスを行っていた履歴あり」


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シャルロットは静かに言う。


「記録に名前がなかったって?

ふふ、でも――その“名前のなさ”が、あまりにも目立っていたのよ」

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