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記録 No.07|残響する眼差し(The Echoing Gaze)

「映像ログ No.07、再生開始――」


W.A.T.S.O.N.の声が落ち着いた電子音と共に響く。


だが、シャルロットの椅子前に浮かんだホログラムには、

まったく“顔”が映っていなかった。


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「死んだのに、まだ“見続けていた”なんて、皮肉ね」


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事件現場はアーカイブ博物館の地下資料室。

被害者は視覚研究の第一人者、レオ・ハインツ博士。

死亡推定時刻は20時32分、死因は脳幹への一点刺突。即死。


ただひとつ不思議だったのは――

被害者が着用していた**AR視線追跡デバイス“EYE-ECHO”**が、

“死亡後”もなお、視線ログを記録していたことだった。


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「視線ログ、最終フレームまで再生します」


ホログラムに浮かぶのは、被害者の“見た風景”。

だが奇妙なことに、彼の視線は一切、犯人を追っていなかった。


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「これは……“視線をそらしていた”?

それとも、“そらさせられていた”の?」


シャルロットはコマ送りでログを解析する。

被害者の視線が“空中のある一点”に張り付いたまま、動かない。


「あえて“そこだけを見ていた”わけね。

……誰かに“見せられたもの”を、ね」


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W.A.T.S.O.N.の補足解析が入る。


「対象視線の固定先:空中ホログラム型ナビ端末。

事件発生時、そこに『初期化中』の光が表示されていた記録あり」


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「……犯人は、“見せたい情報”を目の前に出した。

そのあいだに――背後から刺した」


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被害者の網膜ログに、ある言葉が焼き付いていた。


『Your vision belongs to us.』

(お前の視界は、我々のものだ)


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「これは、“見る自由を奪う”殺人。

そして彼は、その奪われた自由の中で――

わざと、“犯人を見ない”ことを選んだ」


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シャルロットの瞳が、鋭く揺れた。

彼の最後の視線、それは恐怖ではなく、

“情報の保護”だった。


「視線が語ったの。

“私は誰にも屈しない”って」


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ワトソンが静かに結論を下す。


「犯人:ミリアム・ナシュ博士。

動機:被害者の研究データ改ざんを隠蔽するための口封じ。

手口:視覚同期型ホログラムを用いた注意逸らしによる隙突き」


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ホログラムが消え、シャルロットが静かに口を開く。


「見えなかったんじゃない。

見せなかったのよ。彼が――自分の意志で」

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