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記録 No.06|音なき密室(Code:SIRENE)

「映像ログ No.06、再生開始。……なお、音声データは存在しません」


W.A.T.S.O.N.の報告と共に、ホログラムの再生が始まる。

だが、部屋に流れるのは、いつもと違う“完全な静寂”。


シャルロットは、紅茶を手に取りながら眉をひそめた。


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被害者はセラピスト、カレン・イーサ。

密室となった“心音カプセル”――それは完全遮音・遮光のストレス除去ルーム。

依頼人ひとりとカレンが入り、施術を受けた後、

カプセルのロックが開いたとき――彼女はすでに絶命していた。


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「心音カプセルは、五感を遮断する密室。

音は記録できない。声も、叫びも、すべてこの部屋に吸収された」


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映像は淡々と流れる。

二人の姿。カレンが軽く頷く。

依頼人が座り、静かに深呼吸。

……次の瞬間、カレンの体が、わずかに“揺れた”。


それだけだった。

血も、動きも、音も、何もない。

だが――シャルロットの瞳が鋭く光る。


「“音”がないなら、“振動”を観るしかない」


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映像を反転し、細かくコマ送りで確認する。

彼女の椅子の足元。絨毯の繊維が、一度だけ震えた。


さらに、依頼人の首筋。

そこに、一瞬だけ浮かんだ“赤い筋”――


「……“叫び”ね。

音がなくても、恐怖は身体に出る」


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W.A.T.S.O.N.の補助解析が復旧する。


「検出。対象の眼球のブリンクパターンが、モールス信号に類似。

“Danger”のパターンを送っていた痕跡」


「彼女は、無音の中で助けを呼んでいた。

目で。身体で。皮膚の温度変化で」


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犯人は、依頼人ではなかった。

被害者は、「自身の持つ感情データを売買されていた」ことに気づいていた。

この密室内で行われたのは、“彼女の思考ログのコピー”。

セッションを装って、記録を盗み取る“AI型記憶スキャナ”が持ち込まれていた。


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「彼女はそれを知り、“カプセルの内側”から機器を破壊しようとした」

「でも、“言葉にできない拒絶”は、相手を怒らせた」


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最後に映ったのは、

依頼人が立ち上がる際、指先を軽く握る仕草。

その手には、“記憶抽出装置”の断片が残されていた。


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「……声がなくても、彼女の“NO”は、確かに聞こえていたわ」


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静かに、ホログラムが消える。


「シャルロット様。記録完了。

“声なき密室”における、確定的意思の存在を検出」


「ありがとう、ワトソン。

次は、きっと――彼女の声も、聞こえるはずよ」

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