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記録 No.05|虚像の椅子 (The Chair of Illusions)

「映像ログ No.05、再生開始――」


W.A.T.S.O.N.の声が、途切れた。


僅かに青白い光が瞬き、ホログラムの起動が遅れる。

シャルロットは静かに眉をひそめた。

彼女の前で、椅子がひとつ、空しく発光している。

だが、音も映像も、そこにはなかった。


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「ワトソン?」


返答は、ない。

ティーカップの温度が、いつもより2度低い。

それすら、彼の不調の兆候だった。


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システムエラーコード:Ghost.Seat[REVERB]

解析補助AI・W.A.T.S.O.N.、機能低下中。

デバイス干渉元:外部シートユニットによる同期衝突


--------------------------------------------------------


「……椅子が、もう一脚?」


事件現場の映像がようやく起動する。

薄暗いアパートの一室、部屋の中央に――重厚な、シャルロットのものと酷似した椅子。


そこに、誰かが“座っていた痕跡”だけが残されていた。


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「犯人は、事件を記録するために来た」

「観察するために、座ったのよ。私と同じように――」


--------------------------------------------------------


だがその椅子に備えられていた観察ユニットは、記録の前にログを破壊していた。

記録時間:9分17秒。観察者不明。

録画データ:0件。

ただひとつ、暗号化された警告が残る。


--------------------------------------------------------


“THE SEAT IS ALREADY OCCUPIED.”(この座はすでに“在る”)


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シャルロットは口元にティーカップを運んだ。

相棒の声はない。けれど彼女は独り言のように告げた。


「椅子はふたつ要らない。

記録する者と、記録される者。

どちらが私で――どちらが、あなた?」


--------------------------------------------------------


そして、シャルロットの背後で、ワトソンの再起動音が微かに響いた。


「……シャルロット様。お待たせしました」

「私の座を、奪われかけたようです」


「いいえ。私はずっと、ここにいた」

「あなたのいない椅子なんて、“虚像”に過ぎない」


ホログラムが静かに収束していく。


--------------------------------------------------------


記録終了。

“次なる椅子”の存在が、確かに記された夜だった。

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