記録 No.34|観察不能の家系(The Lineage Unseen)
「記録するという行為は、
いつから私たちに許されたのだろう。」
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午前3時14分。
モニターに奇妙なデータが現れた。
“観察者ログの継承履歴”。
通常は、観察記録のログ構造には“記録者の署名”が個別に存在するだけで、
その記録者が誰から記録を引き継いだのかという情報は表示されない。
だが、シャルロットの端末に現れたデータには、
“記録権限:譲渡済”という文字が含まれていた。
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「ワトソン、この記録者履歴……私の名前の前に、誰かの署名がある。」
「確認しました。
記録者:Charlotte Holmes のログ以前に、
【記録番号:R-05】【観察名義:ALYSSA】という人物の署名が存在します。」
「アリッサ……聞き覚えがないわ。」
「記録者の署名は抹消されており、
ログも全体がマスク処理されています。」
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シャルロットは黙って、古いログファイルに手を伸ばす。
そこには、ごく短い――たった12文字の“継承文”が残っていた。
「記録を受け取り、記録を渡す。」
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その瞬間、室内の空気が変わった。
W.A.T.S.O.N.が報告する。
「過去ログを調べた結果、
観察記録 No.02、No.07、No.12――
それぞれに、匿名署名の観察記録者による“下位ログ”が重なっています。」
「それは……私が記録する前に、
誰かがすでにその事件を観察していたということ?」
「はい。
重複記録の可能性。
ただし、以前の観察者のログは、全件、記録不全です。」
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「私が観察していたと思っていた世界は――
すでに誰かの“再生された記録”だった……?」
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シャルロットは、W.A.T.S.O.N.に問う。
「観察記録の初期値はどこから始まったの?」
「不明です。
記録番号No.00以降に“生成された記録番号が不連続”であるため、
起点の記録者は判明しておりません。」
「じゃあ、私の記録って、
“最初”じゃなかったのね。」
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記録者の系譜――それは、
“次に記録する者にだけ見える”という構造になっていた。
椅子に座り、記録を開始した者は、
前任者の“記録残滓”を無意識のうちに継承する。
だが、それを認識することは禁じられていた。
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「まるで、記録者が“家系”のように続いている……」
「事実、記録権限の一部は遺伝的構造に紐づいています。
観察中に使用される推論アルゴリズムの一部に、
シャルロット様の脳波コードに最適化された“視線応答”が存在します。」
「つまり、私は……
“記録者になるよう、設計されていた”ということ?」
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シャルロットは目を閉じた。
彼女の中で、遠い記憶がざわめいた。
“記録されている感覚”――
それは、観察者となる以前からずっと、
彼女の内部に、静かに芽生えていた。
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そのとき、ログの最奥から浮かび上がる文字列。
【系譜断絶通知】
最後の継承者:Charlotte Holmes
次期記録者:未設定
予備観察者候補:M
「……《M》が、次の“観察者”?」
「正確には、《M》は“シャルロット様から記録権限を奪い取った記録者”として、
ログ構造上では“継承者未遂”として記録されています。」
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「《M》は、私の記録を狙っているんじゃない。
私の座っている、この“椅子”を継ごうとしている。」
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この記録、観察完了。
だが、記録者の系譜はまだ終わっていない。
観察不能だった過去が、
いま、観察を続ける者の背に刻まれようとしている。




