記録 No.27|椅子の不在(The Chair is Empty)
「その記録には、私の姿が――なかった。」
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午前3時27分。
定期観察記録の再生中、W.A.T.S.O.N.が異常を検出した。
「シャルロット、前回の記録映像に不整合があります。
記録時間は正確に1時間15分。
しかし――その映像内に、シャルロットが映っていません。」
「映っていない……?」
「はい。記録用モニターは正常に作動しており、音声も環境音も問題ありません。
ただ、椅子が空席のまま、1時間15分が記録されています。」
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シャルロットは眉ひとつ動かさず、紅茶に口をつけた。
「つまり、“私はそこにいた”のに、“記録に残っていない”?」
「はい。観察対象である依頼者との通話記録、やり取り、発言すべてが映像上には存在します。
ただし、あなたの姿だけが――最初から最後まで不在となっています。」
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映像が再生される。
確かに、いつもの部屋。
観察台、ディスプレイ、茶器、W.A.T.S.O.N.の反応音声。
通話中の依頼者の声も、記録通りに再生されている。
「それで……あなたはどう思うんです? 探偵様。」
「……」
沈黙。
画面上には誰もいない。
だが、依頼者の反応は、“誰か”の返答に対して返されている。
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「椅子の上に、誰かが“いた”という事実だけが、
他者の反応によって証明されている。」
W.A.T.S.O.N.が静かに告げる。
「映像上、紅茶の湯気は立ち上っています。
会話のタイミングも通常通り。
しかし――椅子には、誰も座っていない。」
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シャルロットは、静かに思考に沈む。
「観察者の記録に、観察者が映らない。
これはもう、“観察不能”じゃない。
“観察されていない”という拒絶。」
「それは、対象が記録を遮断しているという意味ですか?」
「……いいえ。
“私自身”が、自分の観察から外されたということ。
私はいたのに、誰にも、記録にも、認識されなかった。」
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再生が終了した後、W.A.T.S.O.N.がもう一つ、異常ログを検出する。
「追加報告:該当時間帯のシャルロット様の“脳波ログ”と“室温変化ログ”が消失しています。
椅子の重量センサーも、変化が“なかった”と記録されています。」
「記録としては、“椅子には誰もいなかった”。
でも、私はいた。」
「それなら、ワトソン。
一体、誰がその時間を“記録していた”のかしら?」
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シャルロットはそっとカップを置いた。
「私が不在だったのではない。
“記録者が交代していた”。
その1時間15分だけ――“誰か別の観察者”が、
この椅子の記録を握っていた。」
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最後に映し出された記録フッター。
【署名:不明】
記録管理:成功
評価対象:C.H.(交代観察)
注記:観察者の記録干渉成功
椅子の観察、引き続き進行中
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この記録、記録者不明。
観察されたはずのシャルロットが映らず、
誰が記録していたのかも、わからない。
ただ一つ確かなのは――
椅子は、確かに誰かの視線を受け続けていたということ。




