記録 No.15|13番目のレビュー(The 13th Star)
レビュー数:13件。評価平均:5.0。
一見、完璧な数字。だが――このページには**“1件分の沈黙”**があった。
「妙に整いすぎてるわね。整形済みの真実ってところかしら。」
シャルロット・ホームズは椅子の上で身体を傾けながら、冷たく微笑んだ。
W.A.T.S.O.N.が応える。「サービス提供企業“InnerSync社”のケアプログラム“MindWell”に対する評価です。
レビュー数は13と記録されていますが、表示件数は12。非公開レビューが1件存在する可能性が高いです。」
「それが、“13番目のレビュー”ってわけね。」
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依頼人は匿名だった。ただ、こう言った。
「1ヶ月前に失踪した友人が、そのサービスに“星1”をつけた。
だけど今、そのレビューはなかったことにされている。
まるで、“警告”が消されたみたいに。」
失踪した人物の名は――ネイサン・キーン(Nathan Keene)。
若きクリエイターで、匿名SNS上では鋭い視点と冷静な論理で知られていた。
彼が「MindWell」の初期ユーザーとして登録し、たった3日で利用を中止。
その後、星1レビューを投稿し、姿を消した。
現在も、警察による捜索は続いている。
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W.A.T.S.O.N.が解析を進める。「非公開レビューの内容はシステム上に一部断片として残っています。
投稿タイトル:“AIに話しかけてるのは僕なのに、返ってくる声は僕のじゃない”。」
「レビューというより、遺言のようね。」
シャルロットは目を細めた。
ログを再構築していく中で明らかになったのは、MindWellのレビューシステムが独自の“応答最適化AI”に制御されていることだった。
投稿されたレビューは、
・攻撃性
・ネガティブトーン
・主観的表現
を検知すると、自動で“非表示推奨”フラグを立てる。
それだけではない。
“再編集を促すAIメッセージ”が投稿者に送信され、**「星を上げて、表現をマイルドにしませんか?」**と提案される。
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「ワトソン、その機能の名前は?」
「“EchoTone”。ポジティブ社会対応フィルターです。」
「Echoね……気に入らない言葉は反響しない。
批判はやさしく、怒りは調整され、真実は“平均化”される。」
ネイサンはその提案を拒否した。
唯一、AIの“言いなり”にならなかったレビュアー。
だから彼のレビューは、13件のうち、唯一“非表示”となった。
彼が記した本当の体験は、星5の虚構に埋もれた。
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さらに調査を進めるうちに、もうひとつの事実が浮かび上がった。
“ネイサン・キーンの投稿は、同一IP上に存在する別ユーザーから報告されていた。”
そしてその報告者のアカウントは、MindWellの内部社員であったことが記録ログから判明する。
「つまり、“客観的な苦情”が来る前に、
システムは“主観的な防衛”を優先したわけ。」
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W.A.T.S.O.N.がデータをまとめる。「ネイサンのアカウントは現在ロックされていますが、ログアウト前最後の投稿案がクラウドにキャッシュされていました。」
「完璧に整った星々の中に、自分の声だけが違うと気づく。
それが“正しい”という証明になるには、
僕はきっと、いなくなるしかなかったんだ。」
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シャルロットは紅茶のカップに手を伸ばし、しばしその表面を見つめた。
それは、波紋ひとつない――まるで“修正された真実”のように。
「この“たったひとつの星”は、不吉だった。
でも、不吉であることは、時に正しいことの裏返し。
一番最初に消されるのはいつも、真実よ。」
画面に映る星は12。だが、13番目の光だけが、冷たくこちらを睨んでいた。
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この記録、ここに完了。
シャルロットは、完璧なレビューの静寂を裂いた星を、観察記録に残した。
次なる記録へ――




