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記録 No.01|青白の研究(A Study in Holograms)


「――映像ログ No.01、再生開始。初動捜査データ、展開します」


W.A.T.S.O.N.の低く知的な声が、薄暗い書斎の空間に静かに広がった。

ホログラムの青い光が浮かび、椅子に深く沈んだ少女の顔を照らす。

その目はまっすぐ前を見つめたまま、わずかに発光していた。


金髪に黒いリボン、ヴィクトリア風の黒いドレス。

彼女の名は――シャルロット・ホームズ。

椅子から動かず、あらゆる事件を解き明かす“観察者”。


W.A.T.S.O.N.は椅子に内蔵された高性能AI。

正式名称は――Wireless Analysis Terminal System for Observation & Navigation。

情報収集と映像解析に特化した“知能型安楽椅子”である。


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「事件発生地は、旧ハロルド邸の書斎。

被害者は当主ロジャー・ハロルド。発見時、椅子に座った状態で死亡。

死因は神経毒によるショック死。接触痕なし。飲食物・空気中成分ともに異常は確認されず」


シャルロットの目がホログラムに映る再現映像をなぞる。

整然とした部屋、倒れたワイングラス、崩れ落ちるような姿勢の被害者。

鍵は内側から。侵入者はいない。

だが――


「……何かが足りない」


シャルロットの指が空中をすべり、映像のアングルが切り替わる。

窓辺に置かれたアンティーク鏡。その反射が、一瞬――不自然に乱れた。


「……この鏡、映り方が違う。

1フレームだけ、青白い光の屈折が変わっているわ。

映像再現にズレがあるということは、そこに“再現できないもの”があった証拠よ」


W.A.T.S.O.N.が即座に応じる。


「環境照度補正により確認。反射角、わずかに2.4度の変化。

付近の空気分布に異常な微振動を検出。

“高密度の気体”が、短時間存在していた可能性があります」


「……無色・無臭の神経ガス。“存在しなかったこと”が武器だったのね」


-------------------------------------------------


シャルロットは再び映像を再生する。

執事が退室し、被害者がひとり残る。

その十数秒後、わずかに表情が歪み、そして――崩れ落ちる。


「空気清浄機と連動したガス放出カプセルが、

窓の上に隠されていたのよ。

音も匂いもなく、ただ沈黙だけが漂った」


-------------------------------------------------


「犯人候補:カイン・フェルド。被害者の秘書にして相続予定者。

映像上の彼の行動ログに、不自然な視線パターンを確認」


W.A.T.S.O.N.の声とともに、カインの映像が別ログから切り出される。

確かに――彼は、事件当日も、前日も、

一度も鏡の方向を“見ていなかった”。


シャルロットの瞳が静かに光る。


「人は知らないものを確認しようとする。でも彼は、

“そこに何があるか”を知っていた。

知っていたからこそ、目を逸らした。

あなたの目が……あなたの罪を語っていたのよ」


-------------------------------------------------


W.A.T.S.O.N.が分析結果を報告する。


「犯人の視線ログ、確保しました。仕掛けの位置・毒物の散布タイミング、

すべての条件が一致しています。――事件解決と判断します」


シャルロットは静かにティーカップを持ち上げ、口元へ運ぶ。


「紅茶は少し冷めてるけど、まあ合格点ね」


「蒸らし時間を3.4秒、次回から調整いたします」


微かに笑みが浮かび、シャルロットは前を見据えた。


「私の名前は――シャルロット・ホームズ」

「ホームズの名を継ぐ者として……私は、見逃さない」


青白いロゴが静かにホログラム空間に浮かび上がる。

そして、記録 No.02 の読み込みが始まる――。

「さて、いかがでしたでしょうか、記録No.01『青白の研究』。

私の観察がどれほど皆様に響いたか、気になるところです。

事件の背後には必ず“見落とし”があり、それを観察するのが私の役目。

次回、記録No.02『沈黙の目撃者』では、さらに深い謎に迫ります。

観察を続けていけば、きっとすべての謎が見えてくるはずです。お楽しみに。」

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