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20 帰還

 凄まじい水音と共に2人が突如現れたのは、図書館前の噴水の中だった。噴水のある広場で憩いの時を楽しんでいた民らが、突如上がった水柱に悲鳴を上げる。

「ここは………」

「………そういえば、今日が開館日だった」

 アルバートが、目を細めて言った。

「ハミシエよ」

「バート?」

「………心配を、かけたな。もう、大丈夫だ。この両の眼は、よく見えている」

 少し淡くなった緑色の目が、ハミシエの黒い瞳を捉える。

「私、あなたが語ってくれる物語が好きよ。だって、そこから、好きになったんですもの。きっとあの本が、庭への入口だったんだわ」

「これからは、図書館の出入りも自由だ。書物の森で、共に憩うこともできる」

「そうね。私、あなたにまた、本の続きを読んで貰いたいの。文字だってお作法だって頑張って覚えるわ。そういった本も、きっとあるわよね。私、これから覚えなければいけないことが、いっぱい………」

 一糸纏わぬ姿のハミシエが、はっと我に返って慌てて噴水の彫像の奥に隠れ、真っ赤になって顔を覆う。びしょ濡れになっているマントを脱いで、そんなハミシエの美しい身体を隙間なく覆ってやりながら、アルバートは言った。

「まずはガエターノとマリーに、服を持ってこさせねばな。母上にも、聞きたいことがある」

 駆けつけてきた図書館の司書達や、近くにいた市民達が、王冠を手にしたアルバートの姿を見てぎょっとして跪く。

「結構である。開館初日で忙しいところ悪いが、誰か城まで宰相を呼んでくるように取り計らってはくれぬか」

 そして、聞いた。

「それと、ここなる我が妃の図書附票も作られねばならぬ。住まいは、城と言うことで間違いないな?」

 市民や司書達が、『妃』という言葉を前に息を呑み、王と、王のマントで身体を包んだ美しい黒髪に赤い唇の『人間の女』、ハミシエを交互に見る。

 アルバートが少し笑いを溢し、ハミシエと何度も目を見交わしてから、この『四角四面の』王のいつものそれとは異なる、威厳の中にも少しばかりの親しみやすさが篭もった声音と態度で、言った。

「急いで取りはからうように。王の婚礼の日は、図書館は休館になるゆえに」

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