14 ガールズトーク
「敷物を持ってきましたわ。それと、これは櫛。あなたの綺麗な髪に使う必要はなさそうだけれど、女っていうのはひとつくらい、良い感じの櫛と鏡を持っておくべきですから」
「これが、鏡………。海の王宮には大きなものがあるって聞いていたわ。とても綺麗ね。私なんかが持っていていいのかしら」
「あら、ハミシエ様。鏡は女を美しくさせますわ。『私なんかが』だなんていけません。鏡のほうが頭を垂れるような美女が何を今更おっしゃるのです」
「そ、そんな。それと、『様』は、つけなくてもいいのよ」
跳ね橋の上からは見えない死角の位置に、マリーは手際よく敷物を敷いて、櫛や鏡などを並べ出す。
「お皿に、フォーク、スプーン。使い方はご存じかしら?」
「バートの、えっと、いいえ、アルバート陛下が読んでくださった本に、絵が」
「どんな本なのです?」
「森での、冒険物語を………」
「つまり、きちんとしたお作法も頭に入れておいたほうがいいってことですわね。ふふ、森の義賊の賑やかな無礼講も悪くないけれど、いつか陛下と二人っきりで楽しくお食事が出来る日が来ることも、一緒に考えましょ?」
「は、はい………!」
思わずぎゅっとスプーンを握って、ハミシエがぱっと頬を赤らめた。
「お淑やかな美女、とはちょっと違うのよねえ、ハミシエ様って」
「おしとやか………」
「いっぱい、お話を聞きたいわ。どうしてこの国に来たのか、とか、陛下とはどうやって出会った、とか」
「わ、私、お話しするのはあまり、得意ではないけれど………」
生まれや育ちの寂しさ、沈没船の本、運河や水路を通って図書館を目指したこと、偶然にもそこで『司書』と名乗った国王と噴水脇で出会ったこと、今まで起きたあれやこれやを、ぽつり、ぽつりとハミシエは語っていく。
「ハミシエ様ったら、あなたって、本当に素敵な人。それに、最高に愛されているじゃないの。陛下もいつもはあんな陛下のくせによくやったわ。羨ましい!」
年の近い同性にそんなことを言われたのははじめてである。ハミシエが思わず手にしていたフォークとスプーンをカチリ、と組み合わせて、もじもじと言葉を探す。
「あの、あの、マリーには、素敵な人はいて?」
するとマリーがニヤッと笑い、腰に手を当てて答えた。
「いい質問ね。長年ずーっと便利に私をこき使ってくる、ほとんど上司同然の年上の独身男がいるのだけど、好きになるべきか考えているところよ。すこぶるいい男なのよ。でも、ちょっと、なんていうかこう、面倒そうなところもあるのよねえ………」




