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1.言葉を買う


 あなたにとって、言葉とは何ですか?


 言葉を話す。


 どういった言語で?


 声を発するには制約がある。


 話すという行為は、魔法のルールに従わなければならない。


 言葉は危険、だって人を傷つけるから。


 だから世界中の言葉を、大魔法使いアドラーは古天図書館に封印させたのだ。


 このセカイには、魔法という不思議な力が存在する。


 古い時代を遡れば、魔法は悪魔の力だと弾圧もあった。


 しかし現在では魔法も生活の一部となり、魔法使いへの理解が進んだ結果である。


 頻繁にプロパガンダのビラが撒かれる。


【言葉という弊害はあって然るべき】


 と大きく書かれている。


 それを読んだ人々は異口同音に頷き、国王万万歳と唱えた。


 言葉に関する制約とは、検閲された言葉を買うことで、その言葉を発することができる。


 言葉を買わずに発した場合は、魔法により打ち消されてしまう。


 最近の売れ筋単語は、お布団冷たいである。


 何でそんな言葉が売れてるかって?それは寒いんだからしょうがない。


 俺が誰か気になる?俺はしがないワード売買引受人だ。


 おっと、小さなお客さんがきたようだ。


「おじさん、言葉を売ってよ」


 ボロボロの身なりの少年は、小銅貨を握り締めながら、俺をおじさんと呼んだ。


「おじさんじゃない。お兄さんだ。俺はまだ十代なんだから」


 眉に皺を寄せて、つい怒鳴り付けてしまった。


 驚いた少年は、申し訳なさそうに頭を下げる。


 その様子を見る限り、悪気があって使ったわけではないのがわかる。


「もしかして言葉を持ってないのか?」


 少年は恥ずかしそうに頷く。


 言葉を持っていないと、こういった勘違いでのトラブルも少なくはない。


 多く話せるということは、一種のステータスになってしまう。


 それだけで人気者になれるというわけだ。


「それは悪いことをした。しかし何の言葉が欲しいんだ?」


 鉛筆を差し出すと少年は【お布団冷たい】と書いた。


 その単語の価値は小銅貨三枚、少年の手の平には小銅貨一枚しかないように見える。


「よし、小銅貨一枚で売った」


 怒鳴ってしまった手前、謝罪代わりだ。


「ありがとう、おじさん」


 口を慌てて両手で押さえる少年、嬉しくてつい言葉にしてしまったのだろう。


 小銅貨一枚を受け取り、契約成立だ。


「お布団冷たい。お布団冷たい」


 買った単語を連呼する姿を見て、よほど嬉しいんだと納得する。


「気をつけて帰れよ」


 大きく頭を下げた後、少年は大通りに向かって走り去った。


 あの少年は、これから周りの人に自慢しに行くんだなと笑った。

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