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逆張りウィッチ

逆張りウィッチは積みがち

作者: 寿義務じゅぎり

逆張りウィッチは積みがち


 「継続は力なり」という言葉があるが、それは本当だろうか?

 まちがいとは言わない。たとえば毎日勉強する、筋トレする、技術を磨き続ける。

そういう努力を継続することは、しないよりも人間的に成長を促したり人生を成功に導いたりしそうである。

 ここで「いや、人生は運だ」「いいや、才能だね」と言うと、「なんて身も蓋もないことを言うんだ。この逆張りキッズがよ」という声が聞こえてきそうだが、そんなことを言うつもりはない。

 だがあえて誤解を恐れずにいえば、わたしほど運がいいやつも、才能がある奴もそういないだろうが、人生にとってそんなことはさほど重要ではないと思う。かといって、努力賛美をするつもりもない。


 わたしの結論はこうだ、人生の幸せに力はなくて良い。


 わたし、安藤きらはは魔法使いである。現在小学5年生の夏休み。たいへん充実した素晴らしい夏休みを過ごしている。

 具体的には散歩したり本を読んだりゲームしたり宿題したり魔道具的なものを作ったりといったことをしている。

 何?友達と遊んだり、旅行に行ったりというのが充実した夏休みではないのかって?

 ふんっ。何をいってるんだか。充実感というのは人それぞれだよ。わたしがさっき言ったような夏休みを満喫したという読者も多いだろう?たぶんこんな小説を読んでるやつはそうだろう?

 まあ、実際は殆ど積んでいるんだが。積読、積みゲー、手をつけていない宿題。それを横目にスマホの放置ゲームを起動しっぱなしにしながら魔法陣を書いたりぶっ壊した箒を編み直したり、怪しい薬をコトコト……。

 魔術系のことを知らない読者諸君のためにイメージしやすい例をあげよう。『マインクラフト』だ。『マイクラ』でずっと作業してると思ってくれていればいい。別のタブで放置ゲームをしながらね。

 というかまぁ、箒を直したり魔術系のことをやるのは7月中に終わらせたので、残りの時間は実際マインクラフトをしていたと言っていい。現在8/30である。

 ぐあああああ。

 いやいや、別に。別に後悔などない。わたしは常日頃、自分が老人になったとしてもこれをしたい、ということを趣味としている。ダラダラ過ごせて良かったじゃないか。

 積みゲーも積読も、未来にまだ楽しめることが残っているということ。将来文化資本の備蓄といっても過言ではない。


 わたしは逆張りの魔女!

 読んだ本の数よりも積読の数が多い方が幸福さ!


 …だが、宿題。お前は積むべきではなかった。やっべえ。だが別に詰んではいない。詰んではいない。どうするのかって?丸つけ用の解答をそのまま写せばいいのだ。なお、読者におかれては、真面目に解いた方が良い。

「おまえもマジメに解けよ」

「え?」

目の前にあくまが現れた。



 あくまは空白がたくさんの漢字ドリルの上をフワフワ浮いている。

「あくま!?何しにきたの?そういえばなんでツボくんのところに居なかったのさ。」

 悪魔はすーっと飛んで窓辺に座った。自分家の中にいるとこいつ、ぬいぐるみくらいのサイズでかわいいな。

「忠告することがあったんだが、それよりおまえ、俺が時間止めてる間に宿題やった方いいんじゃないか?」

「えっ。あっマジで?」

 2階の窓から外を見ると遠くの車が道路で列をなして停まっていて、動かない通行人がちらほら見える。羽ばたいてないのに空中でピクリともしない鳥もいる。

「うわぁ…確かに。いやまって、忠告って?」

「忠告を聞くか、忠告を聞かずに宿題が終わるまで時間を止めててもらうか選びな」

「うっわ。あー!はいはい!そういうやつね!アホらし。」

「3分以内に選ばねえと、大変なことになるぜ」

「なんだそれ、それが忠告?」

「あと2分30秒だぜ」

 わたしは舌打ちをした。たしか時が止まるのは悪魔が現世に現れた時の副次的な効果のはず。悪魔が干渉する人間以外に悪魔を認識させないための。

 ……とはいえふつうに考えて『忠告を聞かない』だけで、数時間あるいは数日、時間を止めるなんて、リスクとリターンが釣り合ってない気がする。”忠告”ってのが余りにもヤバいことで、時間を止める選択をすることがほぼ確実に不幸を招くとか?

「あと1分」

 わたしの瞼の血管がピクッとした。

 はぁ…考えても仕方がないな。こいつはどうせ愚かな人間をおちょくりたいだけだろう。

「どうするんだ?10、9」

「聞かずに、時間止めててもらう。」


「へーそう。よろしい。よろしい。よろしい」

 そう言ってあくまは消え…

「消えないの?」珍しく消えないらしい。

「見ててやる」

「あっそう。」

 あくまはニヤニヤしながらわたしの頭の上にのっている。髪に多少感触があるけど、温かくも重くもない。


「宿題やるのか?」

「やらない。」

「愚かだねぇ」

「うるさい!あんた、会話しても忠告の内容は教えてくれないんでしょ?でも、”何か”があるってことはわかった。」

 わたしは勉強部屋の扉を開け、廊下を見渡した。キョロキョロと、何か変わったことがないか、不審な人物がいないかなどを調べる。

「時間が止まってるんだから、思う存分危険予測して、それを排除してから宿題終わらせれば良い。どうだ!」

「ふふどうかなふふどうかな」

「正解教える気ないならもう黙っててくれない?」



 家の外に出たら隕石が落ちようとしている。割と小さめの、いや、大きいのか?直径50センチくらいの、赤褐色でゴツゴツしている隕石が、わたしの家の屋根から1メートルくらいの高さで宙に止まっている。

「えっ?隕石?え?隕石衝突直前だったの?!」

 ……まぁこれだな。危険ってのは?そうか……まぁ、宝くじくらいの確率っていうもんね?隕石が自分の(うち)に突っ込んでくるって。

 しかし、どうするか、多分、家に当たったら屋根ぶっ壊れる?隕石に関する知識を思い出そうとすると、恐竜が滅んで氷河期が訪れる光景しか浮かばない。直径50センチ隕石って、街がでっかいクレーターになるのかな?

 残念ながら時が止まっている状態ではインターネットが使えないので、その答えが分かるのは隕石が衝突した後のみ分かることだ。

 何にせよ、この隕石の無力化を試みよう。


 わたしの家は別に魔女が住んでそうな感じは無い一般的な住宅街にある二階建ての一軒家だ。トタンの切妻屋根に太陽光パネルが設置されている。

 ハシゴで屋根の上に立ってみると、ちょうどわたしの顔と同じくらいの高さに隕石が浮いている。


 バット的なもので叩いてみるか。

「せーのっ ほーむらーん!」

 ゴ

 音が鳴ったのかならないのか、隕石はびくとも動かない。バットを振るった自分の腕がジンジンする。でもよく見たら隕石にもちょっとだけヒビが入った気もする。

「攻撃は一応通るけど、時間止まってる間はその場から離れないのかな。上方向に何回か衝撃を与えたら時が動いた瞬間に勢いが相殺されてコロンってなってくれないかな?どうなの?あくま?」

「……」

こいつは喋ってくれないのね。


 うーん。

 予想外の方向に飛んでっても嫌だし、この隕石ごとキャッチして…なんか、そのキャッチする網とかに防御魔法をこれでもかとかけるか。

 わたしは屋根から降りて、一階リビングで作戦を立てることにした。



オーケイ、作戦はこうだ。


・めちゃくちゃでかい布を用意する。

・それに最大級の防御魔法陣を書く。

・隕石をそれで包む。

(ダメ押しでちっちゃい魔法陣描いた布も一緒に包んでおこうかな。)


 布はベットシーツとかでいいか。

そもそも防御魔法が耐えられるのか?威力を調べたりした方がいいだろうか。図書館に行って隕石の本とか探してみることにした。


「ダブルーナ 発動」


 分身に隕石の本を探してきてもらっている間にわたしは魔法陣を量産しなければ。一応書き溜めもある筈なんだがどれくらい作ればいいんだろう。

 えっと、この折り紙くらいの大きさの魔法陣は弾丸くらいなら防げるから…計算してみるか。

 シャープペンを持ち上げてみる。「あっ。」思いつきで手を離したらペンを宙に置くことができた。

「はは宇宙ってこんな感じなのかな。」

 いやこんなことしてる場合じゃないけども。ああもう計算面倒くさい。防御魔法陣100枚くらい入れときゃあなんとかなるんじゃないの。


 分身が図書館に行って隕石に関する本を開いて調べた結果わかったことなど。


『隕石の見かた・調べかたがわかる本』藤井旭 成分堂新光社 より抜粋。

・年間10000個から20000個落ちている。

・報告されるのはせいぜい10数個

・地球の石の比重は2.4に対し、石質隕石は3.5と重い。


 19ページ 船に落ちた田原隕石

 1991年3月26日の昼ごろ、トヨタ自動車の護送船センチュリーハイウェイの甲板上に見つかったこの隕石は、厚さ8ミリメートルの鋼鉄の甲板をへこませ、粉々に割れてしまいました。船員たちはおみやげにとその破片を持ち帰りましたが、最大のものは、重くて貰い手がなく、海へ投げ込まれてしまいました。



 手のひらサイズの破片がトレーに乗っている写真がある。これが「おみやげ」ってわけか。なるほど、これくらいの威力だとしたら、私が対処しなかったとしても、家の屋根がちょっと凹むくらいで済みそうだな。「最大のもの」ってのの大きさがどれくらいかはわからないけど。


 うん、調べた感じ、なんか、やっぱ直径1キロとかないとクソデカクレーターはできないっぽいな。50センチとか大したことなくない?的な雰囲気が出てきた。ぶっちゃけもう家よりも隕石をなるべく割らずに採取することのほうが重要に思えてきた。高額で売るために。



 さて、元々普段着やランドセルとかに仕込んでた分を合わせて防御魔法陣が10枚くらいあったので、家を守るにはそれでなんとかなるかもしれない。


 でも、隕石自体が砕けないように衝撃を吸収するタイプの防御魔法陣の布を作って包むところまではやろう。




 さあ、魔法陣の描き方を説明しよう。

・魔法陣のデザインを魔導書からスキャンする。

・プロジェクターで投写して魔法のインクで描く。

 これだけだ。


 ところで魔法陣のデザインがどんなかというと、○の中に、なんか、矢印とかファンタジーな文字とか幾何学模様とかなんかそんなんが描かれている。複雑だし何もみないで描くのはちょっと私には無理だ。

 小さければスピログラフ(歯車にボールペンを入れてぐるぐるして曲線幾何学図形を描くおもちゃ)的なやつで量産できるけど、そんなでかい道具はない。

 そう言うわけで、プロジェクターで映したのをトレースしよう。…プロジェクターが起動しない。ああ時止まってるじゃないか。電気無理なのか。

 じゃあ、布の後ろに、陣だけ拡大コピーした紙を用意して、自然光を背にした窓とかに張り合わせれば、それでトレースできるじゃないか。…コピー機も使えないな?ていうか、スキャンもできないし。



 …しょうがないので摸写するしかない。壁に張り付けた布を目の前に、肩を起点に○を描こう。ぷるぷる。○はなんとかかけた。しんどいぞ。


 そういえばパンタグラフ拡大器ってあった?なんかあった気がする。家の中にあったっけ?…ちょっと片付けるのは嫌だな。魔法グッズがある地下室はお手伝いさんに触らせてないし散らかってるからな。ちなみに魔法で片付けると「基本レイアウト」にされてしまう。それはそれで嫌だ。

 アナログでプロジェクター的なことするなら、カメラ・オブスキュラが使えるのでは?いや、仕組みよくわからん!



 結局(時は止まってるけど)3時間くらいかけて模写した。算数の先生が持ってるようなちょっとでかい定規とコンパスくらい用意すればよかったが、フリーハンドで描いた。多少の線の歪みとかは多分大丈夫。歪んでると成功率が下がるらしいけど、まあ、わたしのことだから大丈夫。


 ちょっと楽しかったな。すごく達成感がある。正直なところ、隕石から身を守るだけなら、隕石だけ破壊したり、家の屋根に小さい防御魔法陣を敷き詰めたりすればいい。隕石自体に価値があって、高値で売れるんじゃないかと言っても、わたしは別にお金に困っているわけじゃない。賭博で得た資産を運用しているからだ。だからこの隕石のために四苦八苦している時間(時は止まってるけど)は好きでやってる道楽的な時間と言える。趣味の定義は手段が目的化することとよく言うが、こういう、いわば無駄な行為ってやつが人生を豊かにしてくれるよな。

 宿題もそう言う観点を持ってやればいいのに。でもできないんだよねえ。不思議だねえ。



 魔法陣もできたことだし、あとは、これを隕石にかけ、宿題を終わらせ、隕石をキャッチするだけだ。一段落ついたな。


「はー疲れたーご飯食べよ。」

 冷蔵庫の中にお手伝いさんが作りおいてくれたやつがある。夏休み中は週一回来てもらっている。8/30のラベルのついたタッパーを手に取った。冷たい。ああ、電子レンジ使えないのか。まあ、冷たくても美味しいんじゃないかなこれは。

 ハンバーグ・ポテサラ・ほうれん草のおひたし・ごぼうとにんじん炒めたやつ。私は爪楊枝で一口サイズのハンバーグを口に入れた。


「あ」

「もぐ。うん?」

「それ、当たり」


 あくまがつぶやいた瞬間、轟音と共に、わたしは倒れた。

 屋根が破れてちょうど2階の勉強机の上に隕石が落ちたらしい。

 ああ、宿題しなくていいな。もう。


続く

続きはおそらく11月ごろに投稿されます。

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