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「追放されたので順番に復讐します」④

<賢者>


 僧侶から賢者になった。あのときから何年何十年百数年経ったか、もはや正確には思い出せない。弟子もとった自分より優秀になる弟子もいた。その中で自分の存在意義について考えた。弟子たちもいつしか自分の元を訪れなくなり、この霧の多い湖畔の森は人気(ひとけ)が無くなってしまった。ちまたでは、魔法学校なるものができたと風の噂で聞いたがそれが百年前だっただろうか...。


 いくら年をとってもあの時のことが忘れられなかった。エリックが自分たちを呼ぶ声と聞こえた断末魔。



「年をとったな」


 あの時の青年エリックがいた。あの時と同じ姿だ。


「...生きていたのか、最後に殺すのはわしだったのか」


 百数十年ぶりに会う青年。彼が仲間を殺していると勇者から手紙が届いたが、待てども彼がやってくることはなかった。


「...あの時、おまえだけは回復魔法をかけて逃げたんだ。少しは温情があるさ」


「...どうぞ好きにしてください」


「まあ待て、後悔しているお前を見ると忍びなくてね、少し話をしよう」


 人相や体つきが変わる。目の前に優しそうな女性が現れた。


「あなたの中に複数のあなたがいると聞いたが本当だったようだ、あの勇者もボケてなかったということか」


「元々は私たちは両親に虐待されていました。その苦痛や人生で辛いことから一時的に逃げるために人格を作っていったのです」


 老賢者は少し驚いたようだった。


「だが、それだけ多くの人格がどうやってお互いの記憶を引き継いでいるか疑問だ」


「みんなの人格が調和するように本という概念で記憶を引き継いでいるの、それを入れ替わるタイミングで渡しているの」


「その本を渡すのがあなたか…」


 老賢者がいうと、女性も笑顔で答えた。


「そうです。私はエリックがこのことで悩んでいるときに生まれた人格なの」


 老賢者は納得するが、同時にエリックがこの世界の人間でないのではと思い始めた。確かに理に適っているが、自分たちの世界とは違った摂理や理論が背景にあるような...。


「あなたが思っている通り、私たちは転生者です」


「転生者ってあの文献にある迷い人、まさか実際にいたとは」


 老賢者は驚愕していた。老賢者が頭を抱える。


「お前が生きていようと死んでいようとどうでもよい」


 老賢者が顔を上げると、目の前の女性はエリックに戻っていた。


「お前は駆け出しの頃、俺を慕って色々な技術や考えを吸収して、いつしか俺を追い越して全く声をかけようとしなくなった。俺は利用されていたのかと思っていた...」


 少し間をおいて、僧侶の頃より小柄で弱々しくなった老賢者を見るエリック。


「お前が長い月日で弟子をとり、独り身になっていると知ってもはや興味がなくなったんだよ」


 勇者と同じく賢者も長年の魔王討伐で仲間たちを切り捨てていったせいで、人を信用できなくなっていた。そして、だれかといる時間より独りでいる時間に安息を感じるようになっていた。


「じゃあな、俺のなかの俺が全員倒れるまで生きていくよ」


 情けをかけられた老賢者は、青年エリックの背中を衰えた目で追っていた。


 深い森のなかにある老賢者の家を出た青年は霧の中に消えていった。

 老賢者の著書の中に変わった童話があった。その童話は幽霊が自分をいじめた人間を姿形を変えながら訪問する話だった。


 弟子たちは今まで技術書のみ書いていた師が唯一書いた童話に驚いた。ただ、それは老賢者が書いた著名な本と違い、数部ほど模写されて小さい図書館にひっそりと置かれるだけだった。

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