「追放されたので順番に復讐します」②
<戦士>
街の路地裏で戦士ラルフが冒険者を一方的に殴っていた。気が済むまで殴るとラルフは酒場へ戻った。
ラルフは毛むくじゃらの大男だった。樽のような見た目と豪快な声と尊大な態度で気に入らない冒険者を見つけては気が済むまで殴っていた。
「俺を『終わった冒険者』って言いたいやつは出てこい」
ラルフは酒場で荒々しく言った。ほかの冒険者は目を合わせないようにしていた。数か月前のダンジョン攻略の件がよほど触れられたくない話題なのか、その話をしてくる冒険者はかならずボコボコにしていた。
「おう、あんたがラルフか」
隣に座ったのは少し陰気な男だった。
「なんだ、てめえは」
陰気な男はバーテンに合図する。
「ラルフさんに一杯頼む、彼の武勇伝が好きなんだ」
「へ、わかってるじゃねぇか、名前は」
「アンダルシアだ」
アンダルシアとラルフは乾杯をする。ひとしきり飲んで、ラルフは機嫌が良くなっていた。
「数か月前のダンジョンで、俺たちの代わりに若い冒険者が殿によ」
ラルフが数か月前のダンジョンでのことを話していた。酔っぱらって気分が良くなっているが、少し歯切れが悪かった。
「へーそいつは強かったのか?」
「そんなわけねえだろ、ヘタレで俺がよく教育してやってたのさ、あの時は魔法使いのやつも使えなくてさ」
ラルフはげっぷをすると、酒を一気に飲み干した。
「そろそろ帰るぜ、勘定はよろしく」
一方的にそう言って、ラルフは宿屋に帰った。
<魔法使い>
魔法使いトールが戦士数名とクエストをしていた。
「おい、ラルフが死んだって聞いたか、宿屋で朝起こしに行った店主が発見したって、窒息死らしいぜ」
戦士同士が噂していた。
「おい、早く野営できるところを探せ」
ガリガリの神経質な魔法使いは少しイライラしていた。
しばらくして、見晴らしのよい場所にキャンプをとると、ほかの冒険者に薪を取りに行かせてゆっくりしていた。
向こうから見慣れない戦士がやってくる。大柄な男だった。
徐々に近づいてくると抜刀した。
「おい、近づいてくんな」
魔法使いが呪文を唱え始めると、謎の袋を投げてくる。
「ウィンドカッター」
呪文を唱えると、袋が手前で破れた。中から粉が噴き出た。
「ゲホ、なんだ臭いし目が痛む」
瞬く間に距離を詰めてきた大男がトールを切り殺した。
「おい、トール...」
薪を拾ってきた戦士たちが魔法使いの遺体を見つける。遺体は無残にも何度も切りつけた跡があった。
<盗賊>
盗賊のアジトにて、ジェイルが宝を眺めていた。
勇者パーティーを抜けたのは惜しかったが、十分にもとは取れた。ジェイルはその時にこっそりくすねた宝を見て、悦に浸っていた。すると、アジトから煙が見えた。どうやら山火事らしい。
必要なものを袋に詰めて、アジトを出ると、後ろから鈍器で殴られて気絶した。
目が覚めると、目隠しをされて周りが見えなかった。体が下へ引っ張られている感じ、どうやら手足を縛られて、逆さ吊りにされている。老婆の不気味な笑い声が聞こえた。
「だれだお前は!」
ジェイルが叫ぶと女の声が聞こえた。少し間をおいて、子供の声が聞こえた。どうやら大人数に囲まれているらしい。
「...おい、俺を覚えているか」
「その声、エリックなのか」
それは数週間前に勇者と一緒にパーティー組んでいた魔法戦士のエリックだったが...
「生きていたのか、うれしいぜ」
少し上擦った声で答える。小柄なジェイルは真っ向からエリックに勝てないのを察して下手に出た。
「嘘をいえ!ダンジョンで俺を置いていったクセに」
「いや、あれはみんなの意見で俺はパーティーの意見とみんなの生存確率を考えてな」
ジェイルは必死にしゃべるが、歯切れが悪い。
「みんなの取り分を少し盗んでるって噂だよ、取り分が増えて嬉しかったんでしょ」
女の声が聞こえた。
「ほかの3人の情報を教えろ」
威厳のある老人の声が聞こえた。
「勇者は僧侶とパーティーを組んでいて、商人は砂漠と王都で密輸業を始めたよ。商人は警備を雇って簡単には近づけないぜ。俺を雇えば協力して金を奪えるぜ!」
盗賊は限界が近づいてきた。手足の感覚がなくなっている。呼吸も荒々しくなってきた。
「必要な情報は全部聞いた、あとは用済みだよ」
冷徹な女の声が聞こえる。
「ちょっと待て、降ろしてくれないのか」
宙づりのジェイルは身をよじりながら逃げようとしたが、それも虚しくアジトで絶命した。