『魔王封印の秘密』~その後~
封魔祭の日が再び訪れた。かつての英雄たちの子孫が、荷馬車に揺られながら封印の地へと向かっていた。
「まったく、俺たちがいなければ世界は終わると言うのに」
賢者の子孫が尊大に言い放つ。その横では、肥満体の魔法使いの子孫が汗を拭きながら頷き、高飛車な態度の僧侶の子孫が鏡で化粧を直していた。
彼らを取り巻く従者たちは、まるで王族の行列のように威厳に満ちていた。しかし、その実態は...
封印の地に到着すると、三人は儀式の準備を始めた。
「三人の名のもとに」
彼らは声を揃えて唱え、微量の魔力を祭壇に注いだ。周囲の人々は、その姿に畏敬の念を抱いているようだった。
儀式が終わると、街は祭りの雰囲気に包まれた。
「そこのあなた、賢者の護符はいかが」
商人が怪しげな紙切れを売っている。人々は争うようにそれを買い求めていた。
世界は平和だった。少なくとも、表面上は。
しかし、封印の奥深くでは、何かが蠢いていた。
魔王の力は、確かに弱まっていた。しかし、長い年月の間に少しずつ外へと漏れ出していた。
そして、その力は知らず知らずのうちに、人々の心の中に潜り込んでいた。
かつての英雄たちが予想していなかったことが、静かに、しかし確実に現実となりつつあった。
人々は平和を謳歌していた。だが、その平和の陰で、新たな闇が芽生えつつあったのだ。
魔王は封印されたままだった。しかし、その魔力は世界中に広がり、人々の心の中で静かに成長を続けていた。
真の脅威は、もはや封印の中にはなかった。それは、平和を享受する人々の心の中に潜んでいたのである。
人類史上最大の欺瞞は、こうして次の段階へと突入していった。
そして、ある日—
魔王の封印は破られた。しかし、それは外からではなく、内側から。人々の心の中に潜んでいた闇が、ついに形となって現れたのだ。
世界は、かつてない混沌へと突入していく。
欺瞞の上に築かれた平和は、もろくも崩れ去った。
人類は、自らの過ちと向き合う時を迎えたのである。
だれかの夢の中で、一つの声が響いた。
「愚かな者どもよ。お前たちの虚栄と欺瞞が、この世界を滅ぼすのだ」
世界に奇妙な病が蔓延し始めた。人々の体に不可解な異常が現れ、医者たちも原因を特定できずにいた。
王や貴族たちは、伝説の英雄の子孫たちに助けを求めた。しかし...
「医者に言え!」
肥満体の魔法使いの子孫が、いらだちを隠さずに言い放った。
「そうよ。私たちは魔王を封じる者であって、医者じゃないわ」
高飛車な僧侶の子孫が、鼻で笑いながら続けた。
「我々にはもっと重要な仕事がある。病人の世話などしている暇はない」
高圧的な賢者の子孫が、最後に釘を刺した。
彼らは、自分たちの無力さを隠すために、尊大な態度を取り続けた。しかし、その目には不安の色が宿っていた。
真実を知る者は誰もいなかった。この病が、長年にわたって少しずつ漏れ出ていた魔王の力によるものだとは。
人々の体内に蓄積された魔力が、今になって異常をもたらし始めていたのだ。
街では、魔王封印の儀式を疑問視する声も上がり始めていた。
「本当に魔王は封印されているのか?」
「あの三人は本当に我々を守っているのか?」
不安と不信が渦巻く中、魔王の力は着実に強まっていった。