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「帰還した勇者が国の根幹を揺るがすことをべらべら話始めました」

 あらすじ

 異世界召喚された勇者は教皇に申し出て、各地を周って事件を解決していった。

 その途中、狼人族の語り部や人族の語り部から建国にまつわる伝説をきく。そして、廃虚となった魔王城の秘密の部屋から、1冊の本を見つけた。

 


 勇者は教皇を待つ間、聖女が書いた宗教画を見ていた。人族の王と狼人族の王が握手をして、勇者と民衆が歓喜している絵だ。


 言葉がわからない人間にも出来事を伝える役割が絵にはある。


 スキル「異世界言語」を持つ勇者は感慨深げに見ていると、狼人の神官がきた。謁見室(えっけんしつ)に通されると、勇者は教皇と二人きりになった。


「お疲れさまです。あなたのおかげ多くの人が救われました」


 教皇は笑顔で勇者を(ねぎら)った。部屋は暖炉のおかげで暖かかったが、教皇の顔色は少し青白かった。


「あなたの申し出とはいえ、利用するようで申し訳ありません...」


「教皇、一つ話を聞いていただけないでしょうか?」


「あなたのお話だったら、是非とも聞きましょう。なんでしょうか?」


「この国の秘密です」


 教皇の顔が一瞬こわばったのを勇者は見逃さなかった。


 勇者は語り始めた。


 昔、魔力がある民族とない民族がいました。


 魔力がある民族は数も少なく、温和でした。数を増やすことで民族内での均衡が崩れる事を危惧して、数はあえて増やさなかったのです。


 そして、無い民族は数が多く、好戦的でした。野蛮と思えるかもしれませんが、特別な力がない彼らが獣などに対抗するためには当然のことでした。彼らは着々と数を増やしていきました。


 あるとき、魔力が無い民たち数人が魔力のある民の集落に迷い込みました。


 魔法を使えない民は、見た目は同じだが魔法を使える民族を気味悪く思いました。そこで始めて、「魔族」という俗称がうまれました。魔族は数名の人族から、言語や文化を学びました。


 そして、自分たちと違う文化を持つ数の多い人族を、魔族は脅威に思いました。魔族はここで一計を案じました。自分たちの集落に迷い込んだ人たちと契約をするのです。


 そう、間諜(スパイ)です。間諜(スパイ)に農作物や自分たちの知識を授ける代わりに人族の動向を教えてもらいました。


 魔族が、人族を認知してからしばらく経った後です。


 人族たちは魔族より先に別な種族を知りました。別な種族は魔族と同じで数は少ないが、とても体格に恵まれていました。見た目は多少に狼に似ていたため、狼人族と人族は名づけました。


 だが、ここで人族は友好という選択をとりませんでした。征服です。入念な調査をして、数が人族に劣ると分かると人海戦術で彼らを滅ぼそうとしました。


 狼人族が滅ぼされる可能性があるとわかると、魔族は人族の危険性を知りました。彼らは自分たちと異なる民族は淘汰(とうた)する。彼らはここで一計を案じます。狼人族と魔族並びに人族でないもの達を人族から守る方法です。


 今更、自分たちが彼らを滅ぼせる数をもっていないことも他の部族と協力することも言語的に不可能であることは分かっていました。


 そこで、人族の宗教を利用することを思いつきました。


 その為にまず、人族と狼人族の戦争の間に絶対的な悪として、凶悪な見た目の魔族として現れました。彼らは見た目も凶悪で暴力的そして魔法という得体の知れないものを使います。


 人族は説明がつかない現象を絶対的な存在(神)が起こしていると考えていました。雷が起きるのは、神が怒っているからだとかそんな他愛もないことが始まりだったらしいです。


 そして、自分たちは絶対的な存在によって創造された存在である、「愛された存在」という信仰が生まれていました。


 魔族の出現に、人族と狼人族は争いをやめます。


 そして、彼らは魔族と戦います。人族の中から魔法を使える人間が現れます。実際は魔族ですがね。

 人族の魔法を使える人間は、絶対的な存在(神)が自分たちに力を授けてくれたと言いました。


 まずは、治療魔法で人々を救っていきます。これが聖女伝説と現在伝えられている話の始まりです。

 魔族の破壊する力とは逆の力に人々は安堵(あんど)しました。そこから、次に魔族を打倒する人間が現れます。英雄伝説です。


 なぜ、魔族たちは侵攻せずに城を構えていたか。侵攻すると数で劣る魔族は負けます。あえて、遠い秘境にいたのは数の不利を隠すことと、大軍の侵攻を困難にするためです。


 そして、魔族は人族の英雄と狼人、聖女のパーティーに倒されます。

 彼らの目的は、信仰を背景に徐々に魔族を人族に同化させて、自分たちの子孫を信仰の対象にして守る意図があったのです。


 人族の英雄や聖女は少し変わった名前をしていますが、それは魔族だったときの名残なのです。魔族だったときの名残が残る名前を名乗ることで、彼らは誇りと決意を忘れないようにしたのです。

 

「なるほど、言いたいことはなんとなくわかりました」


 教皇はゆっくりと溜息をついて、窓から王都を見る。


「そんな架空の話を世間に広めても、誰も幸せにならないでしょうね」


 教皇はそういうと、異世界から来た勇者と目を合わせる。


「打倒された魔族というのはあなたの祖先ですよね」


 勇者は収納魔法で一冊の本を取り出して渡した。


「これは...」


「魔城の地下の書庫にありました。大変絵が上手な方が書いたスケッチです」


 スケッチの中には教皇に似た顔が書かれていた。右下には伝承にある魔王の名前が魔族の言葉で書いてある。


「あなたは始めて会ったとき、『最近顔が祖父に似てきて、血は争えない』と言いましたよね」


 教皇は控えめに笑いだした。


「他人のそら似では無いでしょうか」


「スケッチの後ろサインを見てください」


 そこにはどこか見覚えがあるサインが書かれていた。


「聖女が書いた宗教画の右下にあるサインと一緒です」


 勇者は教皇の目をじっと見た。


「こんな話聞いたことがない。このときの彼女の名前は…」


 教皇が少し黙る。勇者は少し意地悪に笑った。


「上手く書けてますよね」


「これは迂闊でしたね」


 教皇は少し苦笑した。


「あなたの言った我々の秘密ですが、もっとも今や私だけの秘密ですが...」


 勇者は少し間を置いて王都を見た。


「俺はもういなくなります。この話は誰にもいっていませんし、それも誰にも見せていません。好きにしてください」


 教皇は悲しげにスケッチをめくり、全てに目を通した。暖炉にスケッチを投げた。


「これを書いた人を守りたくて、魔王になったのでしょうね」


 勇者はゆっくりとお辞儀をした。教皇はそれが敬意を表すものだと分かった。勇者は教皇を一瞥(いちべつ)して、部屋を出ようとした。


「あなたでなかったら、この世界は救われなかったでしょう」


 教皇は感慨深い気持ちで言った。勇者は部屋を出て行った後、教皇はゆっくりとお辞儀をした。そして...スケッチが燃え尽きたとき、勇者は元の世界に帰還していた。

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