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『ある異世界の話』④~欺瞞の果て~

 

 豪華絢爛な応接室。ドナルドは緊張した面持ちで、第二王子ブラックを名乗る男を迎え入れた。


「第二王子とは、初めてお会いする」ドナルドは丁重に頭を下げながら言った。


「だがな、幸運にも王家で働いていた執事が私の部下にいてな」


 その言葉に、偽の王子の顔とジャック(針損)が一瞬こわばった。しかし、次の瞬間、予想外の展開が起こる。


「おおブラック様、お久しぶりです」


 部屋の隅から現れた老執事が、にこやかに偽王子に挨拶した。


 針損山中山の計画は、ドナルドの予想をはるかに超えていた。彼はすでにドナルドの側近まで買収していたのだ。


 取引は滞りなく進んだ。大金が動き、偽造された王家の文書が渡された。ドナルドの顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。


 偽王子とジャックたちがいなくなった後、ドナルドの高笑いが、豪華な城の広間に響き渡った。


「ヨシ!今から避暑地に行くぞ!」


 彼は興奮に震えながら、新たに手に入れたはずの王家の避暑地へと向かった。城に足を踏み入れた瞬間、ドナルドの目は輝きに満ちていた。


「これが王家の城か!」


 しかし、その歓喜は長くは続かなかった。突如、騎士団が城内に押し入ってきたのだ。


「ドナルド、王家の土地に侵入した罪で投獄させてもらう。そして財産没収だ」


 騎士団長の冷たい声に、ドナルドの顔から血の気が引いた。


「なぜだ!俺は正式に買ったはずだ!」


 彼の叫びは、冷たい石壁に虚しく響くだけだった。


「ドナルド殿、文書偽造、王家財産詐取の容疑もあるぞ!」


 騎士団長マーカスの声が響き渡る。


「何だと!?私は騙されたのだ!」ドナルドは必死に抵抗した。


 しかし、証拠は揃っていた。偽造文書、大金の支払い、そして何より、ドナルドの過去の悪行の数々。


 山中山の計画は完璧だった。ドナルドを騙すだけでなく、彼の犯罪の証拠も同時に集めていたのだ。


 牢獄に連れて行かれる途中、ドナルドは気づいた。彼の傲慢さと欲望が、自らの破滅を招いたのだと。



 その頃、針損山中山は部下たちと祝杯を挙げていた。彼らの計画は完璧に成功したのだ。


「皆、よくやった」山中山は満足げに言った。


「では私はこれで」


 彼は颯爽と部屋を後にした。その背中には、成功の余韻が漂っていた。


 しかし、山中山が去って数刻後、突如として騎士団が押し入ってきた。剣戟の音と悲鳴が響き渡る中、山中山の部下たちは次々と倒れていった。


 夜が更けた頃、王宮の一室。


「王様、これが今回徴収した金です」


 針損山中山は、恭しく王の前にひざまずいていた。彼の手には、ドナルドから巻き上げた莫大な富が握られていた。


「よくやった、針損」王は満足げに頷いた。


「お前の働きのおかげで、国庫の危機を脱することができたぞ」


 山中山は静かに微笑んだ。彼の計画は、すべてこの瞬間のために練られていたのだ。ドナルドを騙し、その富を奪い、そして自らの部下たちさえも騎士団の手にかけさせる。完璧な犯罪。そして、誰にも疑われることのない完璧な忠誠。


「陛下のために働けることこそ、この針損の最大の喜びでございます」


 山中山の言葉には、偽りの色が微塵も感じられなかった。


 王国の闇の中で、新たな力が静かに芽生えていた。それは、誰にも気づかれることなく、やがて王国全体を覆い尽くすだろう。


 針損山中山。彼の真の野望は、まだ誰にも知られていなかった。王への忠誠を装いながら、彼は着々と自らの計画を進めていた。王国の未来は、この男の手の中にあったのだ。


 夜空に輝く星々が、この世界の行く末を静かに見守っていた。

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