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『ある異世界の話』①~追放詐欺グループ摘発~

 

 夜。酒場「黄金の竜」の喧騒が街に響く。


「ハハハハハ、笑いが止まらない!」


 冒険者ヴァレンタインの高笑いが、酒場中に鳴り響いた。周りのギルド職員たちも、酔った顔で笑みを浮かべている。


「ギルドマスターは数字もわからない脳筋でこんなこともわからない」


 ヴァレンタインは得意げに言った。彼らは、追放冒険者保護法の抜け穴を利用し、莫大な利益を得ていた。食い詰めた冒険者たちをかき集め、パーティーを組ませては追放。そして国から追放者生活保護金を搾り取る。その繰り返しだ。


 酒場の隅で、一人の男がその様子を冷ややかに見つめていた。針損(ハリソン)山中山。前世の記憶を持つ転生者であり、この一連の騒動の黒幕だ。


「では、私はここで失礼します。あとは皆さんで頑張ってください」


 山中山は颯爽と立ち上がり、酒場を後にした。外に出ると、夜風が彼の頬を撫でる。


「そろそろ、この件も騎士団にバレるころだ」


 彼の言葉が夜空に消えるや否や、酒場の方から騒がしい音が聞こえてきた。


「動くな!騎士団だ!」


 鎧を着た騎士たちが、一斉に酒場に突入する。驚きの声と悲鳴が響き渡る。


 山中山は冷めた目で、その光景を眺めていた。彼の計画は完璧に進んでいた。追放された冒険者たちの怨念を利用し、ギルドの腐敗を暴く。そして、自らはその影で糸を引く。



 騎士団長マーカスが、困惑した表情で酒場から出てきた。


「全く困ったものだ」


 彼は疲れた様子で呟いた。この騒動の根は深い。単なる詐欺事件ではなく、社会の歪みが生み出した事件だったのだ。


「追放者生活保護金詐欺が横行し、真面目な冒険者たちが犠牲になっています」


 副団長のエリザベスが言った。


「しかし、追放者への援助をやめれば、盗賊の数が増える」


 マーカスが答える。


 沈黙が続く中、若き騎士アレックスが発言した。


「では、なぜ追放そのものを禁止しないのですか?」


 マーカスは苦笑する。


「それでは弱い者が足を引っ張り、モンスター退治の効率が落ちる。結局は民が苦しむことになる」


 一部の騎士団員が議論する中、悪徳冒険者の補導は夜遅くまで続いた。


 山中山は、闇に紛れて立ち去った。彼の心の中で、次の計画が既に動き始めていた。この世界の歪みを利用し、自らの野望を実現する。それこそが、彼が転生した理由だったのだから。


 夜は更けていく。追放された者たちの怨念と、権力者たちの欲望が交錯する闇の中で、新たな陰謀の種が蒔かれようとしていた。

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