距離が近すぎてお互い意識していなかった幼馴染と付き合うことになった訳
私が連載している「突然だが、朝起きたら超能力が使えるようになっていた。 」に出てくるキャラクターアナザー圭祐とアナザーが高校時代に付き合うことになったきっかけです。
彼らは登場時点で同棲していて、結婚式を挙げる直前の婚約者どうしですが、二人の馴れ初めについては本編執筆時点から、書きたいと思っていました。
藤沢圭祐と二宮優子は幼馴染だ。
家が隣で親同士の仲が良く、二人は物心がつく前からずっと一緒に過ごしてきた。その関係は、兄弟のようでもあり、親友のようでもあり、いつも身近にいることが普通だった。
同じ高校に通う今でも二人は毎日一緒に学校に通い、一緒に帰るのが日常だった。
ある日の学校帰りに圭祐が優子に提案する。
「なあ、優子。そろそろ期末試験が近いし、今日は図書館に行って勉強しようぜ?」
「えー、図書館なんてつまんないよ。それより、河川敷でバドミントンでもしようよ!」
勉強嫌いな優子は一瞬眉を寄せるが、次の瞬間いいことを思いついたとでもいうように笑顔で反論する。
「バドミントンか…まあ、たまには運動もいいか」
圭祐は少し照れくさそうに頷く。いったん家に帰って着替えた後、圭祐がバドミントンセットを持って優子を誘いに行き、二人は河川敷へ向かう。
風に吹かれながら、ラケットを振る優子は、ショートカットの髪をなびかせ元気一杯で、いつもと変わらず生き生きとしていた。
二人とも体を動かすのが好きで運動神経も悪くない。お互い一歩も引かないラリーが続く。二人の白熱したやり取りに、河川敷を通りかかる人が足を止め勝負を見守る程であった。
「これでもくらえ!」
優子が強烈なスマッシュを放つ。
「ふっ、甘いな!」
圭祐も負けじと返す。
試合は熾烈を極め、どちらも引かない。しかし、圭祐がうっかり甘い打ち返しをしてしまった隙をついて、優子がジャンピングショットを試みた。
「優子、それ危ないって!」
優子の無茶なジャンピングショットに慌てた圭祐は優子のショットを受けそこねる。一方ショットを決めた優子は着地に失敗して転んでしまった。
「痛っててて……」
口ではいたがりつつも、優子は笑っている。
「大丈夫か? 本当に無茶するなよ」
圭祐は心配そうに優子に近づき手を差し伸べた。優子はその手をとり立ちながら勝ち誇ったように笑う。
「へへ、平気平気。それより、今のポイントはあたしの勝ちだね!」
「はいはい、今回は優子の勝ちだよ」
圭祐も笑いながら認めた。
「約束通り、アイスおごりね」
「了解。勝負もついたし、行こうか」
二人は駅前にあるお気に入りのアイスクリーム店に向かう。優子はいつもと同じ様にお気に入りのアイスをカップで頼む。
「やっぱりこのチョコチップが一番だよね」
満足そうにアイスを頬張る優子。
「うん、でもたまには違うのも試してみてもいいんじゃない?」
圭祐が笑う。
「だって、これが一番美味しいんだもん」
優子は子供っぽく反論する。アイスを食べつつ、視線をさまよわせていた優子がどこかを見ながら話しだす。
「あのさ」
「うん?」
優子の問いかけに、圭祐も優子の視線の先を見ながら聞き返す。
「あたしに彼氏とかできたら、圭祐と遊ぶことってなくなるのかなあ?」
優子の視線の先では、カップルと思わしき男女が仲よさそうにコーンに乗ったアイスをお互いに向け食べあっている。それを見ながら圭祐は答える。
「うーん。わからんけど、恋人と友達は別じゃないか?」
その返事に優子は笑顔を崩さず答える。
「そうだよね、圭祐とは幼馴染で親友だもんね」
「そうそう」
圭祐は続けて、少し意地の悪い笑顔で言う。
「それよりも、俺としては、おてんば優子に彼氏ができるのかが心配だよ」
「あ、ひどいなー!」
ぷくっと頬を膨らませる優子。二人はしばらく顔を見合わせるが、しばらくしてお互いに吹き出して笑う。
圭祐の言う通り優子はかなりのおてんばだ。
体を動かすのが好きで活発な彼女は、高校生になった今でこそ、少し落ち着きが出てきたが、中学生までは圭祐を心配させることばかりしていた。
中学一年生の時、優子が公園のブランコを超スピードで漕いで一回転すると言い、勢いをつけすぎて吹き飛ばされて頭から落下したことがあった。目を覚まさない優子に慌てて、大人を呼びに行っている間に、通りがかった誰かが救急車を呼んでいて病院に運ばれた。
幸いなことに怪我もなく、気絶しただけで済んだが「お前がついていながら」と圭祐は両親にしかられ、優子は「また圭祐君に迷惑をかけた」と叱られたと言って笑っていた。
そんなことを思い出して笑みがこぼれる圭祐に気づく様子もなく、優子が言う。
「彼氏欲しいなあ」
「俺だって、彼女欲しいよ」
だよねーと言う優子に頷き、圭祐はコーヒーカップを手に取ると一口飲んだ。
二人が通っているのは一般的な県立高校だ。圭祐も優子も進路への特別な希望は何もなく、歩いて通える範囲にあるこの学校になんとなく進学していた。
同じ中学から進学する者も多く、クラスメートの顔触れはあまり変化が無い。彼らも圭祐と優子が幼馴染で仲が良いというのは知っているが、別の中学から進学してきた者は二人を恋人同士だと思っているものもいた。
「なあ藤沢」
ある日、授業が終わって帰る用意をしていると、同じクラスの田中甚太が圭祐に話しかけてきた。
「ん、何?」
「お前さ、二宮と付き合ってんの?」
そう言われた圭祐はぽかんとした顔になる。
「まさか、そんなわけないだろう」
そう言われ今度は甚太がぽかんとした顔になる。
「え、違うの? いつも一緒に帰ってんじゃん?」
「だから?」
「まるで付き合ってる見たいなんだけど?」
そのやりとりに圭祐のもとに来た優子の声が加わる。
「バカ言わないでよ。あたし達、ただの幼馴染だから」
彼女は笑いながら言う。
「そうそう、優子とは兄弟みたいなもんだから」
圭祐も答える。
「お、おう。そうか。変なこと言って悪かったな」
甚太はあいまいな返事をすると、二人の元から立ち去った。
「どしたんだろうね?」
「さあ? ところでさ、お前が読みたいって言ってた漫画の新刊、昨日届いたから帰ったらウチくる?」
「行く行くー! 早く帰ろ!」
仲の良い二人であった。
その翌日の放課後、帰り支度をする優子に圭祐が話しかけた。
「優子、ちょっと相談があるんだけど…」
「何? どうしたの?」
優子が興味津々に聞き返す。それに対して圭祐が少し照れくさそうに答える。
「俺、女子から告白された」
優子は表情を変えず、そっけない口調で言う。
「へえ、それで? どうするつもりなの?」
優子のそっけない口調には気づかず、圭祐は答える。
「うーん、それが分からなくてさ……。どうしたらいいと思う?」
「……」
優子の返事が無く、圭祐は優子のほうを向く。優子は先ほどの興味津々な様子から一転、圭祐のほうは見ずに、無表情になって黙っている。
一体どうしたのだろう、と思いながらも圭祐は優子の返事を待つ。二秒ほどたってから圭祐のほうを見ないまま、優子が口を開いた。
「自分で考えたら?」
その声は冷たかった。圭祐は優子の反応に戸惑ったように彼女を見つめている。
驚いているのは言葉を発した優子自身も同じだった。なぜ自分がそんな態度をとるのかわからず、心の中がもやもやとした。
そのまま二人で下校したが、どちらも口を開くことはなく、家に帰るまで終始無言だった。こんなことは初めてだった。
そして、次の日の朝、圭祐がいつものように優子を迎えに行くと、優子の母が出てすでに彼女は登校したと聞かされた。
圭祐は久しぶりに一人で登校しながら、なぜ優子は先に行ったのかと不思議だった。
それからというもの、優子はあからさまに圭祐を避けるようになった。休み時間はほかの友達とずっと話していて圭祐が話しかける隙が無い。授業が終わると圭祐が声をかける前に用意を終え走って教室を出ていく。帰宅してから優子の家に行っても、母親から今は会いたくないと伝えられる。
圭祐は訳がわからなかった。
「ねえ、藤沢君。最近優子と何かあったの?」
クラスメートの佐藤甘味が心配そうに尋ねてきた。
「いや、特に何も、ないはず……。でも、急に避けられてるみたいなんだよ」
圭祐は困惑気味に答えた。
「そうなんだ……、優子、最近元気がないみたいだから心配してるんだけど、何も言わないのよね。藤沢君なら何かしっているかと思ったんだけど」
甘味は優しい笑顔を見せる。
「ありがとう、佐藤。何とかするよ」
圭祐は甘味に感謝しながらも、自分で解決するしようと思った。
そんなある日、担任に用事を頼まれ、下校が遅くなった優子は、校門で圭祐が見知らぬ女子と話をしているのを見かけた。
その女子は背中まで伸びた綺麗な黒髪で、目鼻立ちがはっきりしたおとなしそうな美人だった。圭祐とその子が並んでく姿は、優子にはお似合いのカップルに見えた。
あの子が告白した子かな。圭祐はおとなしそうな子が好みだったんだね……。そんな内容が頭の中に浮かぶ。二人が話しながら学校を出ていくのを見届けると、優子は振り返り、別の出入り口である通用門から学校を出て家まで走って帰った。
「圭祐、あの子と付き合うことにしたんだ……」
自分の部屋で着替えもせずベッドにもぐりこんだ優子は、涙が目からあふれ出て、自分でもわけがわからないままうつぶせになって泣き続けた。
次の日の朝、目覚めた優子は昨夜あのまま寝てしまったことに気づくと同時に、自分は圭祐のことが好きだったんだということを初めて自覚した。
急いでシャワーを浴び、朝の支度をする。鏡の中の自分を見ると目が赤い。優子は何度も顔を洗った。
「もっと早く、この気持ちに気づいていたら。そうしたら圭祐はあの子じゃなくて、あたしのことを好きになってくれたかな?」
そんなことを思いながら学校へ向かった。
その日は授業に集中することができずに、教師の話は頭に入らず右から左に抜けて行った。無意識に圭祐のほうを見てしまう。圭祐が視線に気づきこちらを伺うのを見て慌てて目をそらした。
放課後、ここ数日と同じく急いで教室を出ようと用意をしている優子に圭祐が声をかける。
「優子、ちょっと話がある」
「ごめん、急いでるから」
優子は圭祐のほうを見もせず返し、圭祐を振り切って帰ろうとする。その様子に思わず圭祐は声を荒げてしまった。
「優子、なんで避けるんだよ! 俺、何か悪いことしたのか?」
優子は無言で圭祐に振り向く。圭祐を睨むその眼には涙がたまっていた。それを見て驚く圭祐の隙をつくように、優子は走って教室を出て行ってしまった。
「おいおい、痴話げんかかー?」
誰がからかうように声を出す。
「そんなんじゃねえよ!」
圭祐が怒鳴ってしまい、クラスは水を打ったように静まり返る。それを破るように女子の声がする。
「藤沢君、言われなくてもわかってるよね?」
声をかけたのは佐藤甘味だった。
圭祐は振り返り、彼女を見る。甘味の表情は真剣だ。圭祐は甘味に向かって頷くと鞄を手に取り、走って教室を出て行った。
学校から逃げるように飛び出した優子はまっすぐ家に帰る気になれず、近所の神社の境内に向かっていた。その場所は子供の頃から圭祐とよく遊んだ場所でもあり、二人が喧嘩した時に仲直りするのもこの場所だった。
境内に座り込み、優子は圭祐との思い出を振り返りながら、自分の気持ちと向き合っていた。
「あたし、嫌な女だ……」
圭祐が好きだったことに気づけなかったことを後悔していた。それなのに他の女子に嫉妬して圭祐を祝福できないことにも憂鬱な気持ちになり、涙が止まらなかった。
ざり、と境内の砂地を歩く音が聞こえて顔を上げると、圭祐が近づいてくるのが見えた。慌てて手で涙をぬぐう。
「何しにきたの? あたし、今一人になりたいんだけど」
自分の気持ちとは裏腹に圭祐を突き放すようなきつい言葉が口からでる。表情も険しい。圭祐はそれを気にする様子もなく、優子の前まで来ると静かに口を開く。
「俺、お前に自分の気持ちをちゃんと伝えたいんだ」
何のことだと、優子は圭祐を見る。圭祐はそんな優子を見ながら言葉を続ける。
「俺、告白されたけどピンとこなかったんだよ。だからお前に相談した。けど、お前はなぜか俺を避けるようになって……、ずっと悩んでた」
無言で圭祐の話を聞く優子。その顔から怒気は消え、落ち着いた表情になりつつある。そしてそのまま、じっと圭祐を見ていた。
「お前に避けられて、寂しくて、悲しかったんだよ。なんでお前が避けるのか、その理由もずっと考えてた」
優子はじっと圭祐を見続けている。圭祐も優子を見つめている。ふっと圭祐の表情がやさしくなった。
「俺、お前のことが好きだって気づいてなかった。あの子の告白は断ったよ。保留にして待たせた挙句、ほかに好きな人がいるからって言ったら、最低って言われた…」
そう言うと圭祐は言葉を止める。
「じゃあ、昨日あの子と一緒に帰ってたのは……」
優子の口から、圭祐が女子と一緒に下校していたことについての疑問が出る。
「見られてたのか……。昨日、待ち伏せされて告白の返事を催促されたんだよ。そのときに断った」
そういうと圭祐は、気恥ずかしそうに苦笑しながら頭を掻く。そしてふいと顔を横に向け、境内の木を見た。
「覚えてるか? お前が、幼稚園の遠足で動物園の猿を見て興奮してさ。『あたし、さるみたいでしょ!』っていいながら、木の枝にぶら下がろうとよじ登りだして……」
「ちょ、その話はもうやめてよ」
優子は恥ずかしさに慌てて止めようとするが、圭祐は止まらない。
「俺が止めるのも聞かずに、木の枝から落っこちて、おしりをぶつけて大泣きしてさー。歩けない―って言って先生にずっとおんぶされてたよな」
「もう、言わないで!」
真っ赤になった優子は立ち上がり話を止めようと圭祐に両腕を振り上げて迫る。圭祐はすっと優子のほうを向き、優子の両腕を捕まえてて引き寄せる。
よろけた優子が圭祐に倒れ掛かるが、圭祐はそれを体で支えて止めた。
至近距離で向かい合う二人の顔の近さに優子が息を飲む。
「俺、お前が、優子が好きだ。ずっと一緒に居たい。付き合ってほしい」
優子の動きが止まったところにすかさず圭祐が言い放つ。そのまま時が止まったかのようにお互い動かなかった。
しばらくの沈黙の後、優子が圭祐を見つめながら口を開いた。
「あたしも……、圭祐が好き。付き合おう」
こうして二人は幼馴染から恋人への関係が変わったのだった。
二人は手をつなぎながら家に向かって話ながら歩く。
「ところでさ、なんで突然猿の話したの?」
「あの時に、俺はずっと優子の近くにいて守るのが自分の役目だって思ったんだ。今から考えると、自覚が無いまま、お前のことを好きになった瞬間なんだろうな」
日常は変わらないようで、どこか新しい世界が広がっていた。二人の未来はこれからどうなるのか、誰にも分からないが、少なくとも今は、お互いの存在が何よりも大切だということだけは確かだった。
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