02話 ご対面
朝起きるかのように自然に目を開けた先の光景はいつも見ている木の家の天井ではなく、真っ白な天井だった。
寝たままの状態で頭を掻いて思う。
「超能力戦闘の次は異世界転生ってことなのかな?自分はまだ気絶する前の状況すら理解していないって言うのに。」
気絶をする前に振動させられた首元を触ってみると、少しだけ痛む。おそらくここが何かが当たったところなのだろう。
体を勢いよく起こすと少しだけぼぅと立ちくらみのような状態になった。
歪んだ視界が元に戻ると部屋全体が真っ白で、今座っているベッドと机、椅子があるだけの寂しい部屋である。
今いる向かい側には無機質な引き戸があった。
「ん?ベッドがあって机も椅子もあって扉もあるってことはどこかの建物の中にいるということなのかな?」
ベッドから降りて立とうとすると思ったより力が入らずによろついてしまう。
そこで、前方の扉がウィンと素早く自動で開く。
「お!?起きたのか、イレギュラー!元気そうで何よりだ。」
扉の先には金髪で顎髭を生やし、丸メガネをかけている中年の親父だ。
ただし、外国人の顔立ちでかなり整っているイケオジである。
しかも、背が高く白衣を着ていて出来る人って感じだ。
「どうしたどうした?元気がないのか?そうだ!ミーティングルームに置いていたお菓子を持ってきたんだ、食べるか?」
ニコニコとすごい笑顔でポケットから見たことのあるお菓子を取り出して見せてくる。
知らない人、満面の笑みを浮かべたおじさんから食べ物を差し出されるともらうのを躊躇ってしまう。
「うっさいわ、アラン!衰弱している人に対して接する態度を考えんかい!」
アランと呼ばれたイケオジは後ろから頭を思いっきり叩かれた。
叩いた人はどんな人なのだろうと少し乗り出して見てみるとかなり背の低いおばあちゃんであった。
しかし、おばあちゃんにしては背も丸まっていなく手には木の杖を持って肩に担いでいる。
イケオジを見る目はかなり険しく少しオーラが出ていそうである。
「小僧、一晩で目が覚めるとはちゃんと若いのう。いいことじゃ。」
「は、はい。」
いきなり声をかけられどう答えていいのかわからなく、返事だけになってしまった。
「なんじゃ、緊張しとるのか?まぁ起きたばかりで仕方がないからのう。おい、アラン。小僧の着替え持ってきたじゃろ。渡してやれ。」
おばあちゃんに木の棒でお尻を叩かれながら手に持っていたものを自分に近づいてきて渡してきた。
受け取ったものは真っ白なTシャツとズボンであった。
ここで気がついたのだが、
「自分ってパンツとシャツだけだったのか、、、」
「「今更かい!!」」
2人に同時に突っ込まれてしまった。
確かに起きて少し時間が経っているのに、今自分が来ているものすら把握してないのはまずい状況だ。
「そんなことはいいか。着替えありがとうございます。」
「お、おう。着替えたらここを案内しろって所長から言われているんだ。そろそろここがどこだか気になってきただろう。」
着替えている横で顔を近づけてくる。
邪魔くさい。
「よし、程よく大きくていいね。」
「よし、着替えたのならさっそく、、、」
「落ち着かんかい!アラン!小僧の荷物ぐらい渡してやれ!」
アランは再度頭を叩かれていた。
「き、君の荷物はベッドの下の収納ボックスにあるよ。あー短いスパンで頭叩かれると流石に響くな。」
「さぁ、小僧。体が大丈夫なのは診察してわかっておるからの、行くぞ。」
持っている杖を使わずにスタスタと部屋を出ていった。
元気なばぁさんだ。
「よし、荷物も全部あるし大丈夫だ。着替えをありがとう、アランさんでしたっけ?」
感謝を伝えると、アランは満面の笑みで
「俺は頼まれていたことをしただけさ!さんなんていらないから、天音くん!」
イケオジはそう言って自分の肩を掴んで部屋から出すように押してきた。
その流れには逆らわずに足を進める。
「アランも自分のことはテンマって呼んでよ。みんなからはそう言われているんだ。」
「オケ!テンマだね。目が覚めたら知らない場所で知らないままは良くないってことで、まずは所長室に行くぞ!」
部屋を出るとオフィスのような素っ気ない通路であった。
その素気さなさを無くすためなのか、等間隔で観葉植物が置かれているが、どれもよく見るようなものではない。
少し気になるがアランが肩を押してくるのでゆっくり見ることも出来ない。
道なりに進んでいき、分かれ道があってもまっすぐに進んでいくと先程までいた部屋より大きな扉の前に辿り着いた。
「所長!アラン入りまーす!」
耳元でアランが大きな声を出して、扉の横についているカードリーダーにICカードをかざす。
ピッと電子音が鳴ると自動で左右に扉が開く。すぐさまアランが背中を押したので、対応出来ずヨタヨタと転びそうになりながら部屋に入っていく。
「ようこそ、天音くん。元気そうなら何よりだ。」
前方にある背を向けた椅子から声が聞こえてきた。落ち着いたトーンで聞くだけでその人のかっこよさと色気がが伝わってくる女性の声だ。
「はい、ありがとうございます?」
顔も見えない中でお礼を言うのは何か違う気がするが、言うだけ言ってみた。
椅子がぐるりと回転して見えた所長?の姿は、銀色の長髪で声からわかった大人の女性特有の色気があり、一瞬で美女であることがわかった。
「我が、この第二世界日本77区担当の龍ヶ谷警備所、第7代所長のリオスだ。よろしく。」
椅子から勢いよく立ち上がり右手を自分に指差しながら伸ばし、左手は顔を隠すように覆う格好、つまりは厨二病の痛いポーズを取っている。
「今、自分は試されているのだろうか?アランどうなの?」
「うーん、これは相手が中学生と聞いて、厨二病で対応すればいいんだという痛い判断をした状況だから、気にしなくていいよ。」
アランは真顔でそのように返してきたので、お調子者の感じの人でも想定外の行動だったのだろう。
挨拶を返そうとリオス所長の方を見ると、覆っている手の隙間から見える顔は真っ赤に染まっていた。
「う、うるさいぞ、アラン!この前の55区の所長とご飯に行った時に中学生の挨拶はこんなんだって聞いたもん!」
「55区の所長は日頃外を出歩かない引きこもりの吸血鬼ですよ。今の流行には疎いので嘘教えられてますよ。」
所長は立ち上がりとは逆の勢いで椅子に座り、足を折り畳み回転し始めた。
地面を足で蹴っているわけでもないのに、一定の速度で回転し続けている。
「あのー?リオス所長?ここってどんな施設なのかを教えていただけないでしょうか?」
そう尋ねると椅子はこちらを向いてピタッと止まり、所長はものすごく待ってましたと言わんばかりの笑みを向けてくる。
「よくぞ、聞いてくれた。天音くんも倒れる前に助けた女の子の頭から獣の耳が生えているのを見ただろ。君の世界にはそんな人間はいない。」
「君の世界?」
「そうだ、君のような人間しかいない世界のことを第一世界という。私や君の助けたような女の子などの人間以外の種族が多くいる世界のことを第二世界といって、君が迷い込んできた特別な路地裏など、特殊な方法でこの2つの世界は行き来することが出来るんだ。」
リオス所長は自身のことを人間ではないというがこちらから見る分には明らかに人間である。
さらには、この世界は一つではなくもう一つ別の世界があるという。
自分は今までこの世界以外に世界があればいいのにと思っていた。それが本当にあると聞かされて心が躍ってしまう。
「この2つの世界の行き来は難しくはなく、ルールをしっかりと守れば簡単に行き来できるんだ。だが、そのルールを破るような輩、第一世界に行って悪さをするような輩などが少なからずいるんだ。そんな連中に対して警察のような組織だけだと手が回らないのを我々のような警察組織公認の警備所が取り締まりを行っている。そんな警備所は複数ある中の日本で7番目で創立700年も経つ警備所だ。」
リオス所長は椅子でありえない角度でふんぞっている。
「あの〜所長?所長は人間ではないのですか?明らかに人間にしか見えないのですけど。」
「ふふふ、我は500年の時を生きる竜人だ。普段はツノや尻尾は邪魔になったりするから収納をしているから、側から見ると人間しか見えないが身に纏っている魔力密度が濃いことに気づけばただの人間ではないと気がつくだろうよ。」
所長の頭や腰のあたりがうっすらと光を放つとそこから鱗で覆われたツノと尻尾が生えてきて、何かしら圧倒的な威圧感に襲われる。
「よしよし、魔力の圧もしっかりと感じるようだな。所長、彼は魔力感知も出来ているようなのでこの先の話も大丈夫です。」
「わかったアラン。ならアレを持ってきてくれ。メディ婆は、通常の業務に戻ってくれ。」
アランはすぐさま部屋を出て行き、メディ婆と呼ばれてたばぁさんは自分に飴を渡してきてアランと同じく部屋から出ていった。
「さて、第一世界の人間は一部のものにしか第二世界のことを知ることが出来ず、君のように偶然にも知ってしまった人には記憶消去の措置を受けてもらうのが基本ルールだ。」
所長は2人が出ていったのを確認をすると、こちらを向いて真剣な表情になる。
「ちょっと待ってください。記憶消去をするのなら普通目が覚める前にやったりして、しれっと元の場所に戻しておきますよね?」
「ああ、君には普通が適応はされないんだ。倒れる前にどうなったのかは覚えているか?」
所長に言われて思い出そうと頭をフル回転させていく。
「ええと、逃げていると変な男に追い付かれて、交戦してカウンターを当てると逆にカウンターを当てられてから記憶がぼんやりとして、、、。」
そういうと、所長は椅子から立ち上がり自分の目の前まで歩いてきて、胸の位置に人差し指を軽く突き刺した。
「そのあとは君の中にいる何かが中途半端に覚醒して敵を倒してから暴走をしかけていたんだ。普通の人間には絶対に起きないことだ。むしろ、獣人の若い子に起きるようなことだ。」
獣人と聞いて自分が助けた女の人や、ゲームで出てくる獣のような皮膚と強靭な肉体を持っているアバターが。
「でも、自分は獣人ではなくて人間ですよ。」
「そう、君は間違いなく人間だ。だからこそ、要注意人物となっている。ただの人間では起きないことが起きて計測器では計測できないときた。」
コツコツと履いているヒールから出る足音をわざと大きく立てて周囲を回っている。
これから自分は何をされるのだろうと考えると迫力のある魔力?に足が震えてしまう。
「そんな人間を記憶を消して元の世界に戻して、果たして安全なのかという疑問が残るだろう。」
再度自分の前に立つとアゴをくいっと持ち上げられ
「なら、力の使い方を教えてあげつつ、監視をすれば良いのではと思った。つまり、我は天音くん、君を特別観察保護対象兼特別見習い警備員に任命するよ。よかったね、力の使い方を覚えれるよ。」
笑顔でほっぺたを柔らかい手でぐりぐりと撫で回す。
「ほぉ、ほっとどうゆことでひゅか。」
「君をこの警備所で身柄を預かりつつ、力の制御を覚えてもらうことで君は安心して力と向き合える。私は可愛い人間の子を愛でつつ人手を増やすこともできる。ついでに、被験者として、、、。」
「なんだか、よくわからないものに体の制御を奪われそうだったのはぼんやりと思い出してきたので、それは嬉しいですけど被験者って?」
所長は頭を撫でてくるだけで何も言わない。
「ということで君は今日からこの龍ヶ谷警備所の一員となった。あとで、契約書を渡すからしっかりと読んだら名前を書いてくれ。」
「あの?被験者って?」
聞いても返してくれない。所長は自分のことをどう思っているのやら。
「所長〜。持ってきたよー。」
アランが呑気な声と共に部屋に入ってくる。
「ほら、天音くん。アランが持ってきたものをもらって、もらって。」
アランが差し出してきたものを受け取った。
黒を基調としたスポーツウェアのようなスーツに、手甲を身につけた。
「これっていかにも戦闘用のスーツですよね?」
「「いや?戦闘訓練用スーツだが。」」
「訓練用なんですね、、、入ってすぐに訓練なんですね。」
「「いや、これから実務、パトロールに行ってもらうけど?」」
何も言葉が出てこないや。
まさかの、目覚めて異世界の存在を知って、警備所で見習いになったと思ったらすぐさま働けという。
「ここってブラック企業なの?」
アランはいい笑顔で近づいてきて肩を叩きながら
「仕事内容は大変だけど、給料はいいから期待してなよ。がんば。」
「もうどうにでもなれって気持ちになったよ。」