01話 卒業式
いつも何か別のものを感じることがある。視線もそうであり、赤の他人と会話する時には、たまに奥底に違う存在を感じることもあった。
そんなことを人に話したところで、勘違いだ、話を作っただの言われてしまって終わりだ。
これは物語のモブキャラが人の心を強く感じる能力を持っているような地味で地味なことだ。
現実世界ではありえないことであり、この能力は異世界なら普通にある能力の一つであって話しても気味悪がられないだろう。
そんな世界があって行き方がわかれば、とっくに行っているだろう。そうやって仕方ないことだと自分を納得させてきた。
自分の何かしらを感じる能力に気がついて考え事をしてから5年が経った。
今日は、義務教育の終了を宣言される最後の日の卒業式。
数週間後には青春の主な舞台の高校生活が始まる。
「これにて卒業式を終了いたします。」
教頭の終了宣言をすると同時に生徒たちは一斉に席を立って出口に向かって走って行く。
この中学校の卒業式は特殊で、最後の「終了いたします。」の締めの言葉で体育館を走って出て行く。
次のステップに向けて勢いよく羽ばたいて欲しいという思いがあるとのこと。
自分も流れる波に乗って椅子から勢いよく立ち上がって走って行く。
「いやー、毎年話しを聞いていた通りすごい終わり方だったな、テンマ。」
クラスメイトであり、親友のカズトが思いっきり走って疲れた自分に声をかけてきた。
少しだけ背が高いカズトを見上げながら答える。
「ホントすごい終わり方だったよ。あと、みんなの顔がすごい明るくて走るのが早かったから全力出しちゃったよ。」
カズトは背中を叩いてきながらわらっている笑っているのがわかった。
「まぁ、中学生活の中ですごかったことの1つにはなったな。な、馬渕天音。」
「いきなりフルネームで呼ぶなよ。」
急に笑うのを止めてこちらをまっすぐに見つめてきた。
「いや、テンマって呼び始めてからよく遊ぶようになったから。次は同じ高校に行くことになった。」
「ああ、そうだな。」
自分にまっすぐ手を差し出してくる。
「高校でもよろしくな。」
「こっちこそ、よろしく。カズト。」
差し出された手を握り返して握手をする。
カズトとは中学2年生から同じクラス、隣の席になってからよく遊ぶことになった。
外で遊ぶ時にはカズトから声をかけて、ゲームなど家で遊ぶ時には自分かは声をかける。
そういったいい感じに役割などが自然に決まって、それが程よく心地よくて2年間楽しく中学生活を過ごしていた。
そして、今度は同じ高校でも一緒に過ごすこととなる。
楽しかった生活が今後も続くようにと思いながら少しだけ強く握る。
「そういえば、春休みはどう過ごすの?」
手を握りながら、カズトに長期休暇の過ごし方を尋ねる。
すると、申し訳なさそうに
「悪いな。父親の実家に行かないといけないんだ。帰ってきてから進学の準備しないといけないぐらい長い期間いるんだ。」
「そっかそれは仕方ないな。長野だったか、お土産を期待しているよ。」
カズトは顔の表情を一変させて
「任せておけ、テンマは高校生になるからってテンション上がって怪我するなよ。」
カズトが卒業式に参列していた両親と前もって荷造りしていたスーツケースを持って車に乗っていった。
これから空港まで向かってそのまま目的の場所にそのまま直行するらしい。
中学生最後の帰宅は一人で帰ることになった。
他にも仲の良いやつがいるので、そいつらが集まっている集団に合流をする。
しばらく話しているとお祝いということでカラオケで騒ごうという話になった。
自分としては家に誰もおらず暇であったので断る理由もなく参加することになった。
カラオケ店は学校から2駅行った先であり、住宅街から少し離れている夜には学生だけでなく社会人達がにぎわいを見せる繁華街である。
そのため、カラオケ店もいくつもありネットで予約を取れた他店よりも店が大きいところで大人数で集まった。
大人数と言っても1つの部屋には収まりきらないので複数の部屋に分かれて移動しながら楽しくひと時を過ごした。
流行の曲を中心に如何にも若者らしい選曲で歌っていたので自分は少ししかわからなかった。
夜遅くなり、店員からは学生はこれ以上は補導される時間になるから解散しなさいと丁寧に忠告されたことをきっかけに解散することになった。
多くの人はこの繁華街から歩いて帰れる距離の住宅街に住んでいるため、自分ひとり駅に向かってみんなに見送られながら帰路につこうとしていた。
しかし、駅に辿り着くとまさかの人身事故のため電車が完全に止まっていた。再開は今夜中にはないということなので、バスを使って帰ろうと思ったが財布に金がほとんど入っていないことに気が付いた。
今から、コンビニでお金を降ろそうとしたが手数料もかかるので止めようとケチくさい考えで歩いて帰ることにした。
こういう卒業式というさみしい行事があった時には夜の街を歩いて帰りたくなる。
携帯で家の方向を確かめたら、それに向かって足を進めていく。
「昔、とうさんが言っていたけど中学、高校を卒業をしたら今まで顔合わせていたクラスメイトと疎遠になっていくって聞いたな。友好関係も段々と狭くなっていくって。」
父親は母親と共に世界中を飛び回っている。生物学者であることから、世界中の生物を研究観察をするために家にいることがほとんどない。決まって帰ってくるのは年末年始とお盆の時だけである。その期間だけは何があろうと絶対に帰ってくるという家族の約束をしている。
そんな父親は友人との交友関係が少なくあまり父親が誰かと飲みに言ったり遊びに言ったりすることをあまり見かけない。
自分は友人の中でもカズトとは人生の中で一番仲が良い。
そんなカズトとはこれからも良い友人でありたいと思う。
夜の街を眺めながら少しだけ寂しい気持ちになっていた。
顔を真っ赤にさせながら肩を組みながら天に向かって何か叫んでいたり、女性が複数で小さな円になり他愛もない談笑している。
他にも自分と同じように学生である集団が記念撮影をしている。
歩いている道には人が多くいる。
「ん?何か変な感覚が近づいて、いたぁ。」
何か変な感覚の何か突き刺さるようなものを感じ取ったと思うと体に何か強い衝撃が伝わってくる。
ぶつかってきたのが何かと思い見ると、自分よりも少し小さなフードを被った人であった。
自分の身長が170には届かないぐらいであり、それよりも一回り小さいので160には届いていないぐらいの身長の人であった。さらに、先ほど感じ取った感覚は今目の前にいる人から感じる。
「すみません、急いでいたものなんで。」
その人は会釈をすると自分が歩いていた進路方向に向かって走っていく。いつも感じている感覚とは違っていて何か恐ろしいものから逃げているような感覚であった。
「大丈夫なんだろうか?ってまた違う感覚が近づいてきているな。」
先程の人がやってきたであろう方向から別の人が複数人やってきた。
男女が入り混じった4人組であり様々な方向をじろじろと見ていた。周りの人たちは楽しいひと時を過ごしているからかその4人組の行動を誰一人として気にしていない。
「おい、こっちに行ったのは確かなんだろうな。」
「私が聞いた情報を疑うっていうの?だったらあんたが聞き込みをしたらいいじゃない。」
「喧嘩をするならこの任務を降ろすぞ、お前ら。」
「。。。。」
何やら揉めているようなのだが、危ない気配を感じる。
そう思いながら横目で見ていると4人の内1人がこっちを見るなり近づいてくる。
長く見すぎてしまったようだ。
「おい、ガキ。何こっちをじろじろ見てんだよ。」
女と口論をしかけていた男がこちらに向かって怒鳴りながら腕を伸ばしてくる。
感覚が今度は胸元に突き刺さる。これから胸を掴まれることは明白なのだが、ここで手を払いのけるとただでさえ頭に血が昇っている男には火に油を注ぐ行為となってしまう。
大人しく胸を掴まれると、足が地面を離れてしまう。かなり強い力で持ち上げられたようだ。
「人をジロジロと見ると痛い目を見るって親から習わなかったのか、ガキ。」
男は拳を握りしめる。今度は感覚が頬に感じたので、殴ってくることもわかった。
しかし、怪力の男に殴られると思いっきり怪我をすることは確実なのでどうにか避けたいが宙に浮いていたはどうしようもない。
だが、殴られることはなかった。
「おい、ガキ1人にいちいち腹を立てるな。情けない。さっさと手を離して解放してやれ。」
「チッ、わかったよ。あんたの命令なら聞いてやるよ、ほら。」
口論を止めた男が今度は自分が殴られることを止めた。男がパッと手を離したため、尻餅をついてしまった。
「君も人を観察する時には気をつけな。お前ら、情報が入った。この先に逃げたようだ。さっさと行くぞ。」
「「「了解」」」
3人が同時に返事をすると早歩きで、男がさし示した先、自分の帰り道へと進んでいった。
「いったいなんだったんだ。3人に指示を出していた男から異様な気配を感じ取ったな。」
胸元を触ると服は伸びていなかったので少し安心、学ランの丈夫さに感心した。
変な感覚を感じるようになってから近距離で相手が敵意を向けた時に自分のどこを見ているのかも感じるようになった。
喧嘩などが起きた時にはとても役には立ったがこの年になって滅多には喧嘩をしないので宝の持ち腐れである。
そんな自分のことよりも相手から感じ取ったものの方が気になっている。
「なんだか人間とは思えないような、怪物じみた感覚だったな。」
この場で考えてもどうしようもないので、家に向かって帰ることにした。
しばらく歩いていくと繁華街から離れビルなどが立ち並ぶオフィス街と変わる。
時間的に遅いため多くの部屋は真っ暗な闇となっている。
最近はニュースでもブラック企業の労働時間について問題視をしているので、その影響なのか昼間に多くの人が入っている建物が寂しく見える。
だが、数か所は明かりがついており、まだ働いている人がいるらしい。
将来、自分がブラック企業に入って朝から夜中まで働かされるという想像をすると少し未来の自分がかわいそうに思えてきた。
「ようやくカラオケから家までの道のりの半分歩いたと思ったけど、まだ半分って思ってしまうな。」
カラオケから数十分歩いたのだが、まだ総距離の半分ということで今日財布にあまりお金を入れてこなかった自分と、ATMの手数料をケチった数十分前の自分を恨みたくなる。
「けど、こんなに人通りがないものなのかな。さっきから誰一人ともすれ違うこともないな。」
数分前から自分は誰一人会っていない。
さらに、車も通っていないという異常なことである。ここは繁華街に近く、オフィス街でもありこの通りを抜けていった先には住宅街がある。仕事終わりにご飯や騒いでいる人たちが家に帰るのであればこの道を通るのが一番の近道でもある。
「やっぱりおかしいな。人に会わないだけじゃなくて路地裏から何か冷たいものを感じる。あと、何か知っているような気配もある。」
立ち止まって気配を感じる路地裏の方を見る。
電灯もわずかにだけあるがほとんど何も見えない闇に人影は見えない。
「何も見えないけど何か気になるな。暇だし行ってみるか。」
いつもは変な感覚がするところにはあまり近づかないようにしていた。
だが、普段とは違うものを感じ取り、卒業式があった日ということで開放感もあるのでいつもと違う行動をしたくなっている。
子供の頃よく山を探検していた懐かしい感じを思い出し、テンションが上がる。
いつもは夜の街や山などの危ない場所の散策をすることがないのだが、非日常を味わいたく一歩踏み出した。
なにか危険がこちらに近づけば何かしら感じるので大丈夫という自信もある。
わずかな灯りと自分の能力を頼りに一本道を進んでいく。ビジネス街の路地裏がどこに繋がっているのかはわからないが漫画やアニメのような異世界に通じていることはないだろう。
少し歩いていくとカンカンと金属同士をぶつけている音が聞こえてきた。進むごとにその音が大きくなってきている。
流石に怖くなってきたので、足音を極力立てないようにしてより先に進んでいく。
道なりに進み直角に右に道が折れていた。先に何がいるのかわからないので壁に張り付くように先を覗く。
曲がった先は何かしら広い場所に繋がっていたらしく、ビール箱や看板などが無造作に置かれていた。
その広い場所の一角に4人が1人を取り囲んでいた。
広場はこの通路とは違い天から照らされている月の光によって明るい。
自分はその広場にいる人達を見て驚いて思わず口に手を当てる。驚いた拍子に声を出さないように。
驚いた要因のひとつ目としてはまずは4人の方だ。
繁華街で胸を掴んできた男たちであった。
男3人が女性の後ろで腕組みをしていたり、腰に手を当ててもう一人の女の行動を見ている。
女の方は手に鉄パイプを持って肩に当てている。
なにやら女は機嫌が悪そうであり、男たちはその逆鱗に触れたくなくて沈黙している。
「あんたみたいなやつを捕まえるか処理するかの簡単な仕事だったのに。あんたが暴れなければあんたは怪我することもなかったし、私の顔も怪我することなかったのに。」
少し離れた位置からでも聞こえてくるぐらいの大きな声で叫んでいる。
女が怒号を浴びせているのはフードを被っている4人組と会う前にぶつかった人であった。
「あんたは私がどれだけ美容に気を遣っているのか知らないでしょうが、同じ女なら顔を攻撃をするなんて非道な行動をしないのが鉄則でしょうが。」
持っていた鉄パイプを振りかぶってフードの女の腕に向かって振り下ろす。
鈍い音がここまで聞こえてくる。
「おいおい待て待て。ここで処理するつもりなのか。いい状態で捕まえた方が報酬がいいからそれ以上は止めておけよ。」
自分の胸を掴んできたガタイのいい男が女が再度振りかぶった腕を掴んで止める。
「うるさいわね。この傷からまた戻すのにどれだけ時間と労力がいると思っているの。」
「わかった。今回の報酬の取り分は少しお前が多くなるようにすればいいだろ。それでいいだろ、リーダー。」
声をかけられた男は頷いて、「好きにしろ。」とだけ言う。
ローブの女は叩かれた腕を抑えながら震えている。
このままだと女は明らかに悪そうな連中にさらわれてしまう。
ポケットの中の携帯を取り出して警察に連絡をしようと開くと電源が切れていた。朝の時に充電をあまりしていなかったためだ。
今この場で飛び出したところで出来ることはほとんどない。
相手は4人であることから一人相手にするだけで残りに捕まるかボコされる。ガタイのいい男は力が強い明らかに喧嘩が強そうだ。
助けるための手札が何もない。
そう思った時、
「おい誰かいるぞ、警戒態勢!!」
いきなりの声にびっくりをして逃げようと来た道を見たが、自分に向けた感覚が全くない。
(なんだ、俺がここにいることがばれたわけではないのか。いや、自分の気配を感じただけで居場所がわかっていないこともある。)
壁越しから覗こうにも警戒されているとここにいることがばれてしまうかもしれない。
ここに居続けても何も変わりもしない。
(はぁ。ここからあの人を見す捨て逃げるっていう選択肢は今の自分にはない。だけど、このままだと変わりもしない。一か八かで飛び出すしか。)
そう決意して携帯をポケットにしまって体勢を低くして準備をする。心の中でカウントダウンをする。
カウントがゼロになったタイミングで広場に飛び出していく。
心臓はドキドキでうるさい中通路を抜けて一歩を踏み出すと同時に異変が起こる。
自分がいたところとは反対に位置する建物の壁が爆発したかのように轟音と共に壊れる。
「は?」
勇気を振り絞って走り出した次の瞬間に生きていれば目の前で見るのことはないであろう光景だ。
幸運にも、驚きすぎたにも関わらず助けるために踏み出した足が止まらなかった。
さらに、悪者4人組はこちらに気がつくこともなく爆発のした壁に一斉に注目をした。
爆発と4人の視線が移ったのが見えたので騒いでいる心を強引に押さえつけてローブの女の元に向かうことに集中する。
爆発後の壁からは破片が崩れ落ちる音と一緒にその破片を踏み抜く音が大きく聞こえる。
「ここにいることがバレたのか!さっさとそいつを連れて逃げるぞ。」
男がそう叫ぶと隣の女はローブの女の方を見て駆けつけてこようするところで目が合ってしまった。
自分はすでにローブの女の隣に辿り着いていた。
「今のうちに逃げるよ!手を出して!」
「リーダー!陽動作戦だ!女が連れていかれる!」
ローブの女は自分の差し出した手をしっかりと握ってきた。その手は女性の柔らかな優しい手ではなく、動物の肉球を触っているような柔らかい感覚であった。
そんな違和感を気にしている時間はないので、急いで手を引いて先程やってきた通路の方へと走り出す。
「このガキ!行かせないわよ!」
女は距離を飛ぶように詰めてきて鉄パイプを女と手を繋いでいる自分の腕に向かって振り下ろしてくる。
女性の身体能力にしては早く攻撃を防ごうにも間に合わない。
そこに小さな影が自分に降りてきた。
カキンと金属音がして、代わりに腕には痛みは一切なかった。
「未成年に向かって鉄パイプを振り下ろす女は見た目でもキツいよ。」
振り下ろされて当たるはずだったパイプは、自分よりもひと回り小さな女がクロスガードで防いでいた。
「小学生みたいな見た目のあんたが鉄パイプを防いでいる方が現実離れしていてキツイって言うんだよ!」
鉄パイプを防いだ女は、目の前の女の腹を足の裏で思いっきり踏むように蹴り飛ばす。
つい立ち止まってしまった自分は、攻撃を防いで振り返ったロリ女に
「さっさと行かんか!走り出したなら止まるんじゃない!」
「わ、わかった。ありがとう!」
怒られて今自分が何をすべきなのかを思い出して再び手を引いて走り出す。
突如現れた女は自分たちのことを助けてくれたのは不思議だが、何も出来ない突発的な行動の助けになった。
急いで通路に入ると、ちらっと広場の方を見ると助けてくれた女以外にも何人かが4人組を押さえているのを確認した。
「さ、今のうちに遠くに行くぞ!」
「は、はい。どこのどなたか知らないですがありがとうございます。」
優しい声で感謝をされるのだが、まだ助かったとは言えないので返事につまる。
行きに通ってきた一本道の通路を進んでいく。帰りは曲がったりした道を反対に進むことになるのだが、そうはならなかった。
「おかしい、来た時には右に曲がって広場に入ったから左に曲がるのに、右にしか道がないなんて。」
「え、知らないのですか?ここは入ってきた通路を広場で引き返せば真反対の通路になるんですよ。この辺りだと常識ですよ。」
と怪奇現象並みのおかしなことを声に出して伝えると、返ってきたのはこの怪奇現象は常識と言われてしまった。
こんな本や漫画では常識だが、現実ではそんなことは非常識であり得ないことである。
(あれ?卒業式の打ち上げのカラオケで寝落ちして夢でも見ているのかな?)
自分が何か夢を見ているのか、変なことを言っているのかと頭がおかしくなったのかと錯覚してしまう。
「そ、それよりもどこまで逃げればいいんだ。」
ローブの女に尋ねると
「このまま進めば十字路に辿り着くのでそこを真っ直ぐ進んでください。そのまま進めば目的の場所になります。」
「おけ、この目的の十字路を真っ直ぐに進めばいいのか。この先はどこに繋がっているんだ?」
「さっきのような資材置き場に繋がってます。そこが待ち合わせ場所になっているのであの人達から逃げ手段なあるかもしれません。」
十字路を真っ直ぐに突き進んでいくと彼女の言う通り、角材や用途の不明な大きな歯車などが置かれている資材置き場にたどり着いた。
「あの歯車はどこでどう使うんだよ。よくわからないものばかりだな。」
たどり着いた広場の中心まで歩いていき置かれているものを確認すると用途不明すぎてなんの資材を置いているのか一切わからなかった。
「ここのどこかに信号弾があると言われていたのですが、、、」
彼女は辺りをキョロキョロと見渡して何か探している。
だが、頭まで深く被っているローブが邪魔なのか無造作に取り除くと頭から獣の耳が生えているのが見えた。
よくよく彼女をみると耳だけではなく、お尻の辺りの尾骨に当たるところがふっくらとしている。
ウエストポーチをつけていなく、時々ビクッと動いている。
これはアニメなどでよく見る人間とは違う種族の特性によく似ている。
「あー、あなたのその耳と尻尾は、、、その。」
「え?ああ、私は犬の獣人なんですよ。知らなかったのですか?依頼人の特徴に書いてあったと思うのですが。」
この騒動は悪い4人組に彼女が突如襲われたと思っていたが、何かしらの依頼があり身柄の安全を守ってもらうということだったらしい。
なので、自分が彼女を連れて逃げようとしていたのを4人組以外の集団が守ってくれたのだと考察した。
このまま彼女に自分が依頼を受けた人だと勘違いされるのはなんだが悪い気がする。
「すみません、実は自分は、、、伏せて!」
「え!?何!?」
突如首元に強く敵意のある感覚を感じ取り、すかさず彼女の背中を強く押して体勢を低くさせる。
すると、先ほどまで首があった位置に何かが通り抜けた。
「おかしいぞ、気配を消して仕掛けたのに簡単に躱されるとは思わなかったぞ。」
その何かは通り抜けた先の壁に突き刺さっている手斧だった。
木の持ち手に黒光りの鉄製の刃が付いていて薪を作るためか、人を殺すための構造をしている。
飛んできた方向へ振り返ると見たことのある男が先程飛んできた手斧と同じものを持って立っていた。
「あんた、あの4人組の無口な男だな。リーダー格の人よりは劣るけどかなりやばそうな雰囲気を纏っているな。」
そう返事をしてあげると無口な男らしい無表情な顔から殺人鬼の顔に変貌する。
「無口な男か、、、俺は口を開くと物騒なことしか言わないからとリーダーに外では喋るなって言われたんだぞ。そんなことはどうでもいいぞ。ここで臓物をさらけ出すんだぞ。」
「あんた、どこかの物陰に隠れながら探し物を探せ!」
「は、はい。お気をつけて。」
彼女の背中を押して敵から遠ざけていく。そのついでに落ちていた歪に曲がっていた棒を掴んで敵に向ける。
「ガキに負けるほど俺は弱くはないぞ。」
男は手斧を振りかぶりながら接近をしてくる。何かのスポーツをしているプロのように素早く最短距離で詰めてくる。
手斧を振り下ろしてくるので、すかさず右足を左足の後ろの方に引くことで体の向きを横にずらして手斧を躱す。
振り下ろした斧を斬り返して左足を斬りつけてくるのを足を上げて躱して距離を開けるために後ろに飛びのく。
「ほう、勘の鋭いガキだぞ。見たところあっちの学生でいう中学生ぐらいの喧嘩のけの字も知らなさそうなのにぞ。」
「今日は特別に勘が働く日だからね。よかったよ。」
あ、危なかった。
相手がどこを狙っているのかは突き刺さる感覚で伝わってくるので、そこさえ注意していれば致命傷は避けれると思っていたのがうまく当たった。
この特殊な体質に感謝するときが来るとは思わなかった。
退いた先に落ちている鉄パイプを拾って二刀流の剣士風にする。
「簡単に仕留めることが出来る狩りなんてつまらないから、いいぞ。」
今度は複数の箇所に感覚を一度に感じ取るがどれも致命傷となる箇所ではない。頬や腕、太ももなど首や大きな血管などが流れている場所ではない。
けど、痛いのは嫌なのでどうにか避けていく。
男は自分が避ければ避けるほど顔をゆがませていく。
「オラオラ、段々と動きが小さくなってきているぞ。」
「う、うるさい。」
段々と手数が増えてきて避けるのが難しくなってきた。
偶に刃がかすって服と薄皮一枚が斬られて少し血が出てくる。学ランという丈夫なものですら、刃には勝つことが出来ないらしい。
「隙ありだぞ!」
わき腹あたりに大きな空間が出来てしまいそこを目掛けて男が大きく振りかぶり足をどっしり構えて攻撃を繰り出してくる。
避けるのは無理そうなので、こちらも攻撃に切り替える。
斧が来るところに鉄のパイプを防御のために置いておいて、こちらも相手のわき腹を狙って今はいている靴の一番固い部位のつま先を使って蹴りつける。
こちらの攻撃が先に当たって、いい感じの感覚であった。
(いい感じに当たった。慣れない武器で攻撃するよりもいい攻撃力になったな。これで、攻撃の手が、、、へ?)
相手の攻撃の手を緩めるための攻撃のつもりで放って、成功したと思ったが違った。
鉄パイプ越しになるが、相手の手斧が自分のわき腹をしっかりと捉えていた。
蹴った足とは反対の足が地面から離れていき、わき腹の痛みと共に吹き飛ばされる。転がりながら広場に散らかっている資材にぶつかって止まる。
「ゲホッ、ゲホッ。く、口から血の味がする。わき腹も痛い。」
「悪くなかったぞ。だけど、相手が俺じゃなかったらだぞ。打撃にはめっぽう強い種族なんだぞ。」
相手はより一層顔を狂気に歪ませて、手斧を頬に当てて喜んでいる。
そんな顔を見るとわき腹がより一層痛んでしまう。
身体全体も熱くなってきている。体の何かが燃えていくような感覚である。
「鉄パイプも折れ曲がっているな。これがなかったらお前の言う通り臓物が飛び出ていたな(血が巡る。)」
「だから言ったぞ。悪くなかったぞと。私の狙いも悪くはないし、お前の攻撃と防御も悪くはなかったぞ。」
産まれて初めて強い痛みのせいなのか話す度、聞こえる度に頭がガンガンと響く。
「なんで勝った気でいるんだ?まだ、一発をもらっただけだ(気も巡る。)」
「まだ、楽しませてくれるとは嬉しいぞ。任務よりいたぶる方がやっぱりいいぞ。」
不敵な笑みを浮かべて歩いてくるのを悠然と待つわけにはいかないので痛みに耐えながら立ち上がる。
ガチンと何かの金属音が聞こえると、花火が上がるような火の玉が空に昇っていく。
ある程度の高さまで達すると、その場で真っ赤な強い光が灯る。
ローブの女がようやく信号弾を探し当てて空に向かって撃ったようだ。
「ほう、あの女何をしているかと思ったら仲間に居場所を知らせていたのだぞ。ならば、遊びに興じている時間はないってことだぞ。ガキ、最後に言い残すことはあるのかぞ、、、なんだその体は、、、。」
狂気の男が何か言っているがよくわからない。
彼女が信号弾を打った時のトリガーの音を聞いた途端、身体を縛っていた何かがはじけ飛んだ感覚を全身から感じる。
心臓から大きな音がしてきた。
力も湧いてきて、今まで以上に力が出せそうだ。
「知らないな。ここからは第二回戦だ。」
「力を温存しておいたのかぞっと。体から白いオーラのようなものを出していることを見ると人間の中でも修練を積んでいたものかそれ以外の種族だったと予想するぞ。」
「え?本当だ。なんだこの白いオーラは?」
「、、、、、、。」
腕を見てみると湯気でもない白いオーラがまとわりつくように出ていた。
某有名少年漫画のようなものである。
狂気の男から感じていた感覚が強く痛いものへと変化した。
「そろそろ、本気だぞ。俺以上の馬鹿に出会ったのは今後の笑い話にしてやろう。」
最初に接近してきたと同じ速度で迫ってきた。
右手で握っている手斧の狙いは首元であり、腰に置いている左手は腹を狙っている。
血が抜けて頭がクリアになったのか相手がよく見える。
手斧を握っている右手を抑えて、腰から抜いた短剣を握った左手を手刀で払いのける。今度はわき腹を目掛けて思いっきり踏むような蹴りを繰り出す。
足がゴムのように体に足が沈み、飛んでいく。
狂気の男に対して先程繰り出したのと同じように蹴ったのだが、威力が桁違いである。
「なんだか、力が出すぎているような気がするな。大丈夫か、自分の身体は。(敵を滅しろ。)」
更に、頭からは変な声のようなものまで聞こえてくる。
自分の中に新たな感覚が芽生えたようだ。敵を見定めると滅ぼすまで止まることのない獣のような。
「今のうちに倒してやる。(殺してやる。)」
「く、奥の手を使うしかないぞ。呪術知を剛腕へ。」
男から黒いオーラが溢れてくると目が赤くなっていき、腕が太くなっていく。
何かしらの力を行使したためなのか、男から突き刺さる感覚がより一層強くなっていく。
「おおお、敵は潰す。うごぁぁああ。」
目を血走らせながらめちゃくちゃに詰め寄ってくるが、速度は先程と変わりはない。
また、防いでカウンターを決めればよいと思っていると、腕がへしゃげるようなことを想像してしまう。それと同時に視界から色が朱色に薄っすらと染まる。
「うるせぇ!黙れや、殺人鬼が!」
相手の制空権にこちらから詰め寄って顔面に拳を叩き込む。体が勝手に言葉を発しながら動いた。
その場に止まった男の頬を思いっきりメタ殴りにする。体が目の前の男を潰せと言う感情で自分を染めようとする。
「か、体が言うことを聞かない。なんでだ!?止まれよ!」
どうにかして小節を止めようとするが一切言うことを聞かない。だが、拳から人を殴る感覚は鮮明に伝わってくる。
「止まってくれよ、、、この人が死んでしまう。」
止めたくても止めることが出来なく、目を逸らしたくても顔は真っ赤に腫れ上がっている男に釘付け。
どうしようもなさと止められない自分の不甲斐なさに絶望しかけたとき、首元になにかが突き刺さる。
「私が止めてあげるよ。ちょっと痺れることになるけどね。」
その声が聞こえると首元がとてつもない振動がする。
同時に視界がブラックアウトし、意識もなくなった。