風
下界が目の下に広がっている。
私を煽るかのように、それとも説得するように、慰めるかのように。
風の音が耳を掠める。
生ぬるい、夏の夜の匂い。
このまま風になれたら。
ふわりと宙に舞って。
眠らないLEDの街を通り過ぎて。
海にに波を立て。
異国の角っこのカフェのコーヒーの匂いを拾って。
夜のレンガ通りの夕飯にお邪魔して。
野原の雑草を揺らし。
吹き荒れる砂の嵐となり。
聳える山と深い谷に響く山彦となり。
優しく語りかける声となる。
いつかは大気圏を超え、数々の分子となり散り散りになっていく。
宇宙が止まる日まで。