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修司達が通っている高校とは別の、二駅離れた場所に存在している所謂不良のたまり場と言われている放課後の高校で、つまらなそうにあくびをしている男女の学生がいた。
教室の窓際のにある机に腰を掛け、机から出ている椅子に足を乗せ足を組ながら、派手に気崩した制服に派手なメイクをしている桃井理沙は、派手なネイルを爪先で弄りながら、理沙の前にある席で突っ伏して寝ている金髪の坊主頭をした目付きの悪い男こと安堂彰に話しかけた。
「アキラー。ウチさぁ、マジで暇なんだけどさ? なんかおもろい事ないー?」
理沙に無茶ぶりをされた彰は、不機嫌そうに頭をガシガシと掻いて体を起こして考えこんだ。
そんな彰をつまらなそうに見ていた理沙は、ある事に気がついたのだ。
「アキラー。起きるときに、ウチのスカートの中見たろ?」
理沙による濡れ衣に、彰はくだらなそうに言い返した。
「お前のパンツなんか見て、なんの得があるんだよ。あー、それより面白そうな事だけど、1つ思い付いたは」
理沙は、彰の言葉を適当に流しながらも、面白そうな事に興味が湧いたのだ。
「得とか損とか別にどーでもいいでーす。それより、面白そうな事って何? 話してみ!」
「あー、名前なんて言ったかな? お前が中学の時につるんでた、アイツ。なんか進学校に行ったとか言う」
理沙は、彰の言葉を聞いてふと思い出した人物の名前を上げた。
「あー、美咲? アイツがどした?」
「いや、アイツの高校に行ったらおもしれぇんじゃね?」
理沙は高校に進学してから、連絡が途絶えていた美咲を困らせたら面白そうな気がして、ニヤリと笑い机から飛び降り彰を連れて、教室から出たのだった。
場所は変わり、文芸部の部室で薫の姿はなく、相変わらず騒いでいる修司と美咲の姿があった。
「せんぱーい! そんなに顔を赤くしてどーしたんですぅ?」
笑いながら修司をからかう美咲は、修司の寝顔写真が入ったスマホを取ろうとする修司から器用に逃げていた。
どうやら、その写真は修司が1人の時に部室で気を抜き寝ていた時に撮られた写真のようだった。
「消してくれー! なんでそんな物を撮ってるんだよ! 恥ずかしいから消して!」
「嫌でーす! 寝ている先輩可愛いですねー」
ドタドタと走り回る美咲は、そのままスクール鞄を持って部室から出ていった。
「せんぱーい! また明日ー!」
修司は逃げられた美咲に、ぼそりと怨み節を吐きたい気持ちになるが、ぐっと堪えて本を読んで落ち着こうと自分のスクール鞄を開けると、中にはポーチやらヘアアイロンやらが入っていた。
慌てて鞄を閉じたら修司は、自分の鞄ではなく美咲の鞄だと理解した。
「追いかけて鞄渡さなきゃ……。まだ、昇降口あたりにいるかな?」
修司は急いで美咲の鞄を持って、部室から出た。
走らない程度のスピードで足を動かしていると、昇降口が人で溢れており少し騒がしい様子だった。
なんの人だかりだろ? そんな事を思いながらも、人の壁が行く手を阻み進めそうもなく困っていると、近くの下級生の女の子グループが話している内容が聞こえてきた。
「ねえ、あの子って確かD組の子じゃない?」
「あー、本当だ。確か……、橘美咲って言ったっけ? やっぱりああいうのと付き合いがあるんだね」
「ねー、迷惑だから他所の学校に行ってくれたらいいのにね」
「本当にそれ。確かに制服とか頭髪の校則は緩いって言っても、限度があるよねぇ」
「分かる。私達まで同じに見られるよね」
美咲の悪口を聞いたからか、修司は顔をしかめながらその子達を一瞥をするも、何かトラブルに巻き込まれているであろう美咲が心配になり、人混みを掻き分け進んだ。
橘さんが、何かトラブルに巻き込まれているみたいだし、部活の先輩として助けなきゃ。
そう思い急ぎながらも人が倒れないように進み、やっと抜け出した先には美咲の腕を掴みニヤニヤと笑っている柄の悪い他校の生徒が男女でいた。
それを見た修司は、考えるより先に体が動き美咲の手を掴んでいる理沙の手首を掴み、理沙の手から美咲を解放して、美咲を自分の後ろに隠した。
「橘さん! 大丈夫!?」
修司の行動に驚きを隠せない美咲は、心ここにあらずと言った様子で返事をした。
「えっ? あ、先輩……」
修司はいつもと様子が違う美咲を気にしながらも、この騒ぎを終息させる為に頭を回転させる。
なんなんだコイツら? 橘さんとどういう関係かは分からないけど、橘さんにとって非常に好ましい状況ではないし、なんとか帰って貰わないと……。
てか、この制服って二駅離れてる、不良高校じゃ……? そんな人達が何でうちの高校に? いや、それを考えるのは後だ、とにかくこの場を納めて橘さんの悪い印象を払拭しなきゃ。
修司の登場に、明らかにイラ立っている様子の理沙は修司に何か言おうと修司の胸ぐらを掴もうとしたが、その行動を彰に止められた。
「ちょっ!! 彰、離せよっ! こう言う正義マン見ててムカつくんだよ!」
「理沙、流石に騒ぎが大きくなってるから、帰るぞ」
「はぁ!? ふざけんな! 勝手に決めんなし!」
「いいから」
彰は理沙に耳打ちをすると、理沙は周りを見て大人しくなったようだった。
そして、彰は修司を見ると修司にペンと紙を寄越すように言った。
「おい、お前。ペンと紙を寄越せ」
修司は言われるままに、ペンと紙を自分の鞄から取り出して、彰に渡した。
彰はそれを受け取ると、サラサラと何かを書いて修司に渡した。
「それ、家で読め。俺達は帰る」
そういって、彰は理沙を置いてスタスタと歩き、理沙は修司をしばらく睨み舌打ちをして彰の後を追った。
その後、騒ぎを聞いた教員達がやってきて、野次馬達を解散させた。
後日、美咲は自宅謹慎を言い渡された。