4話
美咲は昼休みの喧騒を抜けて、部室の前に居た。
「この前、先輩を朝から監視してみたけど、何時も1人だったよなぁ。彼女も居なそうだったし……」
美咲は手にコンビニで買ったメロンパンと、部室に来る途中で買ったイチゴオレのパックを持って立っていた。
うん、大丈夫。いつも通りに行けばいいんだ。
美咲は胃を決して部室のドアを開ける。
「せーんぱーい! どうせ1人で食べているんでしょ? 私が一緒に食べてあげますよぉ」
そう言った美咲の目に飛び込んで来たのは、知らない女性の姿であった。
だれ!? 美咲はそう思うや否や、部室から退出して文芸部の部室かどうかを確かめた。
「貴女、ここの部員さん……?」
知らない女性は文芸部の部室のドアを開け、怪訝そうな顔と声で美咲にたずねた。
美咲は修司以外が部室に居るところを見たことが無い為、知らない女性が居る事に頭が追い付かずに言葉が出ないでいると、知らない女性は美咲をなめ回す様にねめつけ、美咲にため息をつきながら言葉を発した。
「そんなわけ無いわよね? こんな、ギャル見たいな格好をして……。おおかた、修司君が優しいのを良いことにここにたむろしてる下らない人種ね。貴女、迷惑だからもう来ないでくれるかしら?」
そう一方的に決め付けて一方的に美咲を閉め出した謎の女Aに、美咲は思わずはあああああああ!? と、大声をあげて、部室のドアノブをガチャガチャと回した。
「ちょっ!! 鍵かかってんすけど!? はぁ!? アンタなんなの!? 開けろし!! あーけーろー!」
「お引き取り願えるかしら? 部外者があまり騒ぐようでは、先生に報告しなければなりませんので」
「はああああ!? 私は部外者じゃねーし! 部員だし! アンタこそ部外者でしょ!? あーけーろー!」
「何を仰っているのか、理解しかねますので、部外者はお引き取りお願い致します」
「だーかーらー! 部外者じゃねーし!!」
そんなやり取りを数分していると、修司がやって来た。
「ちょっと、橘さん! どうしたの!?」
部室の前で、部室のドアをドンドンと叩きながら騒ぐ美咲を発見した修司は、慌てて美咲に声をかけた。
「あっ! せんぱーい! 変な女が部室を占領してるんですよぉー!」
「変な女とは失礼ですね、アバズレさん」
「はあああああ!? あ、あ、アバズレじゃないし! まだ純血だし! 新品だしぃー!?」
「橘さん、あまりそう言うことは大声で言うものじゃないよ!」
顔を赤くした修司の言葉でハっとした美咲は、今の言葉を修司に聞かれていた事に気が付き、顔を真っ赤に染めた。
「せせせせ、せ、先輩! 私、そう言えば用事思い出したので帰りますー!」
美咲はそういって、廊下を走って喧騒の中に消えていった。
美咲が行ったことを確認すると、部室から謎の女Aが現れた。
「やっと行きましたか」
修司は、中から出てきた人を目にするとため息を吐いた。
「西城さん……、あの子は文芸部の部員だよ、橘美咲さん。良い子だから優しくしてあげてよ」
修司が西城さんと呼んだその人は、西城薫。文芸部の幽霊部員であり、副部長である。
「薫で良いっていってるのに。それと、あの時の答えの気が変わったかしら?」
薫は修司の耳元で、あの時の答えと囁いた。
修司は顔を赤くして、薫から距離を取って薫の質問に答えた。
「だから! ぼ、僕は西城さんとは付き合えないよ!」
そう、あの時とは、薫が修司に告白をした時の事であった。
薫は長い黒髪に長い睫毛と可愛らしい印象を持つ目鼻立ちだが、可愛いより美人と言う言葉が似合う女性である。
そんな美人からの告白でも、薫をそんな目で見れなかった修司は断っていたのだった。
そして、薫は文芸部に顔を出さなくなった。
「それより、西城さんはいきなり部室にきてどうしたの? 僕が言うのはなんだけど、もう来ないかと思って居た」
「そうね、トンビに油揚げを取られそうだから、私も来ることにしたわ」
薫はすました顔で言う。
「トンビって、別に文芸部は僕の物ではないよ、西城さんの物でも無いとは思うけど……」
「そう言う意味では無いのだけれど、それが貴方らしさなのかしらね」
薫はそう言うと、部室から出ていくようだ。
「今日の放課後からよろしくね、修司くん。それを言いに来ただけだから、教室に戻るわね」
修司は薫を見送り部室に入っていった。
「そっか、良く分からないけど、戻ってきてくれるのか、良かった」
修司はそう呟くと、心なしかお弁当がいつもよりも美味しく感じるのだった。