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1-8. もう一つの就活

 食べ終わると俺は皿を軽く洗い、リュックに荷物を詰め、防刃ベストを着込んで装備を整えた。


「それでは行くです!」

 エステルはやる気満々でこぶしを握り、ニッコリと笑った。

 

 俺は物干しざおを左手に、殺虫剤を右手に持ってダンジョンに乗り込む。

 いよいよ、俺のもう一つの就活が始まる。金貨だ、金貨を確保する道を見つけ出すのだ!


 エステルは背中に鏡を背負って、鉛筆で洞窟の地図を作りながら俺についてくる。

 洞窟はいぜんジメジメとしてカビ臭く、足場は悪い。

 歩きながらエステルにワナの見つけ方を教えてもらう。でも、エステル自身ワナにはまって落ちているので信憑(しんぴょう)性は微妙なのだが。

 昨日は気が付かなかったが、壁面には淡く光る石が含まれていて、ライトを消しても月明かりの夜程度の明るさにはなっていた。でも、月明かり程度ではワナは見抜けないので基本ヘッドライトは点けて進む。


 程なくエステルが襲われていた広間についた。魔物もおらずシーンとしている。


「付近に魔物の反応はないです」

 エステルは索敵の魔法を使って教えてくれた。頼りになる。


「ではこっちから行ってみるか……」

 俺はコボルトが出てきた洞窟の方へ足を進める。

 ワナに警戒しながらゆっくりと進んでいくと、エステルが小声で言った。

「ソータ様! この先に魔物がいるです!」

「え? どんなの?」

「良く分かりませんが……、一匹です。コボルトやゴブリンよりは強そうです」

 いよいよ戦闘である。


 俺はヘッドライトを消し、殺虫剤のロックを解除し、物干しざおを構えながらソロリソロリと進んでいく。

 洞窟が大きく左に曲がるところでそーっとのぞくと、二十メートルほど先に何者かが立っていた。人間より一回り大きく、コボルトやゴブリンとは異なる圧を感じる。

 まだこちらには気づいていないようだ。

 俺は殺虫剤をできるだけ前にして、プシューっと吹きつけてみた。届かないだろうが、洞窟の中をなるべく薬剤で満たしたかったのだ。

 いきなり変な音がして驚いた魔物は、


 ムォォォ!


 と、叫ぶとこちらに駆けだしてくる……。顔はイノシシ……、オークと呼ばれている魔物だろうか?

 ドスドスドスと重厚な足音を響かせながら、すごい速度で迫ってくる。


 俺は冷や汗をかきながら後退しつつ、殺虫剤を噴射し続けた。

「頼むから効いてくれよ……」

 物干しざおを握る手が震える。効かなかったらこのまま鏡へ飛び込むだけではあるが、それでも魔物は恐い。

 果たして、魔物は走ってくる途中で、ギャウゥゥ! という断末魔の悲鳴をあげると、溶けていった。光る石がコンコンと音を立てて転がってくる。


「さすが、ソータ様! 今のはオークですよ、オーク! 新人冒険者たちの多くはあれにやられちゃうんです!」

 後ろで鏡を準備していたエステルが興奮している。

 俺はふぅ、と大きく息をつき、オレンジ色に光り輝く魔石を拾った。


「これなら銀貨一枚ですよ!」

 エステルが嬉しそうに言う。

 銀貨は十枚で金貨になるそうなので、これで五千円くらいだろうか?

 確かに慣れてきたらいい商売になるかもしれない。


    ◇


 俺たちはさらに洞窟を進んでいく。階段を見つけないと地上へは出られない。エステルに頑張ってマップを描いてもらいながら探索範囲を広げていく。


「あ、何かいるです!」

 エステルが声を上げる。


「オークくらいのが一匹です」

「了解!」

 俺はまたライトを消してそーっと歩いて行く。

 洞窟がくねくねとしているので、慎重にゆっくりと様子をうかがいながら進んでいく……。

 しかし、何もいない……。

「おーい、エステル、何もいないぞ」

 俺が振り返ると、なんと巨大なテントのような球が洞窟をふさいでいた。

「な、なんだこれは!?」

 あわててライトをつけると、なんとそれはスライムだった。どうやら天井に張り付き、エステルの上に落ちてきたようだった。

 その透明な巨体の中で、エステルがもがきながら(おぼ)れている。衣服はすでに消化が始まっていて、白い肌があちこちからのぞいている。


 俺はエステルが今まさに食べられているという事実に、心臓が止まりそうになった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 「殺虫剤でモンスターを倒せる」という発想が、もう面白いです(笑)。 エステルの可愛さや素直さの描写がいいですね。 鏡を通って異世界と現実世界を何度でも行き来出来る事で、面白い展開が見れそう…
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