表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け! ~鏡の向こうのダンジョンでドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ~  作者: 月城 友麻
2章 創世の女神

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/62

3-24. 最後の賭け

「今回は残念だったわね。それじゃ就活頑張って! そろそろ行くわ」

 先輩はそう言って立ち上がる。

 ヤバい、全てが終わってしまう。

 俺も急いで立ち上がり、先輩の腕をつかむ。

「ごめんなさい、どうしてももう一度エステルに会いたいんです。会わせてもらえませんか?」

 すがりつくように言った。

「だから、彼女は記憶ないって言ってるじゃない」

 先輩は俺の手を振り払い、あきれたように言う。

「なくてもいいんです、会わせてください!」

 俺は必死に頭を下げた。もう俺の心の中にはエステルがたくさん沁み込んでしまっている。エステルなしには生きていけないのだ。


「君がそこまで入れ込んじゃうとはねぇ……。でも、記憶ない以上、無理なものは無理よ」

 先輩は肩をすくめ、首を振る。


「じゃあ、賭けをしましょう!」

 俺は最後の手に出た。先輩は勝負事が好きなのだ。

「賭け……?」

「エステルにプロポーズします。OKもらえたら異世界を元に戻してください」

「断られたら?」

「何でも言うこと聞きます」

「奴隷になるのでも?」

「もう何だって」

 俺は真剣に先輩を見る。先輩は宙を眺め、何かを思案した。そして、

「面白いじゃない。いいわよ」

 そう言ってニヤッと笑った。

 俺の事を覚えていない人へのプロポーズ。どう考えても勝機はないが、それでもやらない訳にはいかない。

 人生をかけた一世一代のプロポーズ、俺は全ての思いをしっかりとぶつけようと心に誓った。


「じゃあ、彼女呼ぶわよ」

「あ、呼ぶならあそこでお願いします。あの、地面が鏡みたいになってるところ」

「ウユニ塩湖?」

「そうです、そうです。魔物倉庫行く途中で見かけたので」

 人生最大の賭けになる場所くらい、我がままを聞いてもらいたい。


「いいわよ。じゃぁウユニへ送るわ。奴隷になる覚悟はいい?」

 先輩は意地悪な顔で言う。

「いつでもOKです。先輩こそ異世界を戻す準備しておいてくださいよ」

 俺はニヤッと笑った。

 勝ち目のない賭けだったが、俺はエステルに会える喜びで胸がいっぱいになった。


       ◇


 気が付くと俺は、見渡す限り広大な鏡の上にいた。正確には止まった水面なのだが、水面は夕暮れの太陽や茜色に染まる雲たちを反射し、水平線はるかかなたまで美しい空を映し出していた。


「うわぁ、綺麗ですぅ!」

 気が付くと隣にはエステルがいた。

 サラサラとした金髪に深い青をたたえた碧眼、少し幼さを残した美しい顔の透き通る白い肌に、俺はつい見入ってしまう。例え奴隷になったとしてもまた会えてよかった。俺は湧き出してくるうれしさに思わずほおが緩んだ。


「エステル……」

 俺が声をかけると、エステルはこちらを向く。そして、クリッとした目で俺をジッと眺め……、

「どちら……様です?」

 と、首をかしげて言った。

 

「この四日間、エステルと一緒に冒険をしてきたソータだよ」

 俺は優しく言った。

「四日……? あれ? 私は何してたですか? 思い出せないですぅ……」

 エステルは不思議そうに首をひねる。


「ダンジョン行ったらエステルがゴブリンに襲われていてね、一生懸命戦って助けたんだよ」

「えっ!? 私は大丈夫だったですか?」

 丸い目をして驚くエステル。

「大丈夫、ちゃんと守ったんだ」

 俺はしみじみと当時の事を思い出しながら優しく答えた。

「ありがとうですぅ」

 うれしそうなエステル。


「その後、一緒に冒険したら、スライムにエステルが食べられちゃってねぇ……」

「えっ!? 私やられ過ぎじゃないです?」

「大丈夫、また助けたんだ」

「ありがとうですぅ……」

 俺はさらに、ワナに何度も落ちたこと、毒矢にやられて死にそうになったことなどを伝えた。

「なんだかすごく迷惑かけちゃいました……」

 エステルは恐縮する。

 と、その時、エステルが急に何かに押されたようによろめいた。

「わぁ!」

「おっと危ない!」

 俺はエステルを抱きかかえた。

 柔らかく温かいエステルの香りが、ほのかに立ち上ってくる。

 俺はその大好きな匂いについ、涙がポロリとこぼれた。

「ソ、ソータさん……? ん? ソータ……様?」

「え? 思い出した?」

 俺は驚いてエステルの顔を見つめた。

「わからない……、わからないです……。でも、この匂い……好き……」

 そう言ってエステルは俺の胸に顔をうずめる。

 俺も優しく抱きしめる。息とともに緩やかに揺れるエステルの温かさを、俺は全身で感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ