3-15. 疑惑の海王星
俺は自宅で、鏡から飛び出してくる魔王を補助し、うまく着地させた。
続いて飛び出してきたのは……、黒髪の女性!?
褐色のオリエンタルな美人で、オレンジ色の瞳をしている。
「うわぁ!」
女性は叫び、俺は頑張って抱きかかえる。
すると、ゆるい衣服から豊満な胸がこぼれそうになる。
「え!?」
思わず目が点になる俺。
「キャ――――!」
女性は両手で胸を隠すと、涙目で俺をキッとにらみ、パシーン! と、平手打ちした。
その女性はミネルバだった。日本に来た時に変身の魔法が解け、猫から人間になってしまったのだった。猫の時は胸が無かったし、毛皮で覆われていたのでゆるい服を簡単に着ていただけだったのだ。
俺は頬をさすりながら、Tシャツを出して後ろを向きながら彼女に渡した。
「思わず叩いちゃった……、ごめんなさいね」
謝りながらシャツを着るミネルバ。
「いえいえ、私も見ちゃいましたし……」
「え!? 見たの?」
「だ、大丈夫です! 見えそうになっただけです!」
俺は嘘でごまかした。
◇
狭い部屋の中で小さな丸テーブルを広げ、作戦会議である。俺はコーヒーを入れてふるまい、ベッドに座って議論を聞いていた。
一つの世界の頂点たる管理者が、こんな小さなワンルームで世界を救う議論をしているなんて、とても違和感がある。
しかし、ミネルバを排除したマリアンは一気に計画を推し進めてくるだろうし、さらわれたエステルも心配だ。一刻を争う。
「なぜマリアンは我々の権能を無効にできたのかしら?」
ミネルバはコーヒーを飲みながら魔王に聞く。
「OSレベルでハックしないとそんな事できませんが……、そんな事例ここ数千年一つもないですよ。不可能です」
「でも、やられちゃったわよ?」
ミネルバは口をとがらせて、不満げに言う。
「そうなんですよね……」
重苦しい空気が流れる。
俺は仮想現実空間がどうやって作られて、どう運用されているのか全く分からないので何とも言いようがない。ただ、ソフトウェア的に不可能な事をやられたとしたらハードウェアが問題なんじゃないかと思った。米中間でそれで揉めていたのを思い出したのだ。
「サーバーに……、仕掛けをされたってことは無いですか?」
俺は恐る恐る横から言う。
「えー!? そんなの海王星に行って直接いじらないと不可能よ」
「行けないんですか?」
「行けはするけど……。あの子がハードウェアの知識なんてあるとは思えないんだけどな……」
iPhoneを巧みに叩いていた魔王が叫んだ。
「ミネルバ様! 海王星の渡航記録にマリアンの名があります!」
「な、なんですって!? そんな話聞いてないわ……」
目を真ん丸く見開くミネルバ。
「海王星にはサーバーしかありません。本来ならわざわざ行く意味などないです」
魔王は肩をすくめる。どうやらサーバーに何らかの仕掛けをした線が濃厚だ。
「じゃ、今すぐ渡航申請出して! 魔王はバックアップ、ソータ君、きみはついてきて」
「了解」「わかりました!」
魔王はタカタカと器用にiPhoneを叩いた。
エステル、待ってろよ! 俺が必ず迎えに行ってやる。
◇
目が覚めると俺は寝台のようなベッドの上にいた。ゆっくりと体を起こすと……、全裸だ。服はどこにあるんだろう?
俺がキョロキョロしてると、
「ソータ君、行くわよ!」
そう言う声がしてカーテンがガッと開いた。
ミネルバは猫の身体に戻っていて、こちらを見る。
「うわぁ!」「キャ――――!」
「なんでまだ裸なのよ!」
「服がどこにあるか分からないんですよ!」
「もう! 仕方ないわねぇ……」
ミネルバが空中に現れたタッチパネルをパンパンと叩き、俺は自動的に服が装着された。




