第七話 パーティー結成
研修を無事に終えた新人たちに訪れるのは出合いの時期だった。
シールドから新人に向けて、複数人での仕事が募集されるのもこの頃。
新人たちは否が応でもパーティーを組まざるを得ず、誰もがそれに奔走する。
俺も例に漏れずパーティー作りに励むべきなのだけれど。
「郵便受けが……」
郵便受けいっぱいに詰め込まれた手紙や封筒の数々を見てやる気が減ってしまった。
「えーっと」
郵便受けから取り出したものを片っ端から目を通していく。
高速で処理したので時間はすぐに終わらせられるけど、面倒なことには変わりない。
「知らない人ばっかりだ」
交友関係と言えば綴里や麗奈、あと志島くらいなのだから当然と言えば当然か。
「この前のこともあるし、綴里のところにもいっぱい来てるんだろうな」
先日のスタンピードを二人でほぼ壊滅状態にした。
そのことがあって今や新人の中での注目は俺と綴里で独占状態。
街を歩いていると、先輩守護者に声を掛けられるくらいだ。
「出来れば知り合いと組みたいんだけど」
綴里にも同じくらい来ているなら、ライバルは多そうだ。
「直談判に行こうか」
手紙より直接あったほうがいい。
そうと決めてからすぐに着替えを済ませ、道場へと向かった。
「よう、響希。お前も綴里に用事か?」
「俺もってことは、ほかにも誰か?」
「あぁ、見慣れない奴だったがな。道場にいるぜ」
「ありがとうございます」
師範に礼を言って道場に足を踏み入れると、すぐに綴里ともう一人が見えた。
「あ、来た来た。やっぱりここに来ると思ってたんだよねー、あたし」
「麗奈」
綴里と向かい合って話していたのは麗奈だった。
「志島もどこかにいるの?」
「ううん、あたしだけ。つーか、志島は新人研修受け直すからパーティーどころじゃないってさ」
「受け直すって、なんで?」
「寝てるだけで終わったんだもん。そりゃ受け直したくもなるでしょ」
「あー……律儀だ」
「ね。あんな風なのに案外真面目でびっくり」
けど、考えてみれば自分が納得いくまで突き詰めるタイプか、志島は。
だからこそ、スピードスターの肩書きに拘っていた。
志島の性格上、やり直しは当然なのかも。
「ところで、どうしてここに? 入門するとか?」
「いやいや、あたしに剣は振れないって」
「麗奈さんはパーティーに私たちを誘いにいらしたのですよ」
「俺と綴里を?」
「まぁねー。新人注目度ナンバーワンの二人なんだもん。誘うだけ誘ってみるでしょ、そりゃあ」
たしかに、そうか。
「貴方はどうして道場へ?」
「俺は……綴里を誘おうと思って」
「私を?」
「あぁ、うん。パーティーを組むなら知り合いがいいと思って。あぁでも、嫌なら無理強いは」
「ふっ、ふふふふ」
言葉を並べていると、綴里が笑い出す。
「私は元からそのつもりだったというのに、貴方と言う人はそんな不安そうな顔をして。ふふふ」
「な、なんだ……どぎまぎして損した」
断られるかもしれないとか思ってたのに。
「あらあら、相思相愛って感じ?」
「そ、そういうことではありません!」
「えー? そんなに慌てられると怪しく思えてくるなぁー」
「違います! 私はただ見知らぬ方よりいいと思ったからで」
「あはは、冗談だって。焦っちゃって可愛いなぁ、綴里ちゃん」
「もう!」
「麗奈。綴里を虐めるのはその辺で」
「はいはい、了解よー」
けらけらと笑う麗奈は、とても楽しそうだった。
「それで、あたしは? あたし使える女だよー。遠距離ならあたしの土俵! どう?」
「麗奈も知り合いだし、パーティーも三人以上からだから、俺はいいと思うけど」
ちらりと綴里を見ると、そっぽを向いていた。
「ごめんごめん、綴里ちゃん。もう言わないから、お願い!」
「さて、どうしたものでしょうか」
「調子に乗ってすみませんでした! ね? 許してよー! この通り!」
「……もう、しようがありませんね」
両手を合わせて平謝りする麗奈を、綴里は受け入れた。
こうしてパーティーは結成され、俺と綴里と麗奈は仲間になる。
結成の勢いに乗って俺たちはシールドから出された複数人での仕事を受けることにした。
「どれがいいんだろう?」
「沢山あって迷いますね」
三人とも支給された形態端末と睨み合う。
指先でスクロールして良さそうな仕事を探していく。
「あ、これはどう? 資源回収なんだけど」
「あー、ダメダメ。それだと響希がすぐ終わらせちゃうでしょ? あたしらの出番がなくなっちゃう」
「それは行けませんね。採取系のお仕事は却下ということで」
「駄目かー」
ソート機能から採取系の仕事を省き、検索を再開する。
そうしてしばらく指を動かしていると麗奈から声があがった。
「あ、これなんてどう?」
こちらの画面に送られて来た仕事は危険区域の調査。
四級危険区域である密林に本来は生息していないはずの魔物が目撃されたとある。
目標は事実確認および、該当する魔物の討伐だ。
「あぁ、文句なし」
「私もです。では、これにしましょう」
「オッケー。じゃ、あたしが受注しとくよ。一時間後に西の城門集合で」
仕事も見付かり、俺たちは準備のために一旦解散した。
家に戻ると高速で準備を整え、あまった時間でドラマを眺める。
漫画や小説だとすぐに読み終わってしまうけど、ドラマやアニメといった映像作品は違う。
考え尽くされた間の取り方や演者の演技、流れる音楽などなど。
それをじっくりと眺められるこの時間がいい。
スピードを得た俺にとって倍速再生は邪道だ。
「おっと、もうこんな時間」
エンディング画面から時計に目を向けると約束の時間五分前。
支度した荷物を持って家を出て加速、瞬く間に城門前へと到着した。
「来ましたね」
「スピードスターなのにびりっけつじゃん」
「ちょっとドラマに夢中になっちゃって」
全員五分前集合とは、中々どうして好スタートだ。
「じゃ、行こっか。乗って乗って」
「四級危険区域の密林までお願いします」
「安全運転で」
ホバーカーへと乗り込み、俺たちは仕事現場へと向かった。
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