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第三話 シールドの試験




「破魔一刀流は魔法使いやスキルホルダーに常人が勝つために編み出された流派だ」


 そう言いながら師範は刀に手を掛けた。


「常人に魔法を放つほどの魔力はねぇし、特殊なスキルもねぇ。だから、技術を磨くんだ」


 左手から鞘へと魔力が充填され、刀身が一気に引き抜かれる。

 瞬間、鞘から放たれたように魔力が飛ぶ。

 鋭く研ぎ澄まされたそれは真っ直ぐに進み、遠く離れた的を断つ。


「とまぁ、こんな具合に技術があれば少ない魔力で魔法やスキルに対抗できる。こいつが基本であり極意って奴だ」

「なるほど」


 剣の技術と僅かな魔力で擬似的な魔法を再現する流派か。


「今のは飛燕って技だ。やってみな」

「はい」


 師範が立っていた位置につくと、断たれた的が独りでにくっつく。

 元通りになったそれを狙って、鞘に魔力を込めて柄を握った。

 右腕に力を込めて抜刀、刀身が虚空を引き裂いて、刃に帯びた魔力が飛ぶ。

 それは的まで到達したものの、表面を幾つか浅く削るだけに終わってしまう。


「ほー、はじめてで的に当てられりゃ大したもんだ。素振り十万回の成果が出てるな」

「でも、あまり上手く出来ませんでした」


 師範のように放った魔力が鋭くならない。

 それに纏まりがなく、途中でばらけてしまった。

 ショットガンといえば聞こえはいいけど、これじゃ魔物を殺せない。


「これも十万回くらいやれば出来るようになりますか?」

「お? おう。まぁ、そこまで掛からないんじゃねぇかな」

「よし」


 刀を納刀し、魔力を込め、抜刀し、魔力を飛ばす。

 これを何度も何度も高速で繰り返し、的に魔力を当て続ける。

 そうして三千四百六十回目でようやく納得のいく飛燕が放てた。

 研ぎ澄まされた刃は真っ直ぐに的へと向かい、真っ二つに切断する。


「出来た!」

「こいつも五分と持たなかったか。将来有望だねぇ」


 それから日収を掛けて、破魔一刀流を師範から教えてもらった。

 脚捌き、身のこなし、力加減。

 技だけでなく基礎的なことも何万回と繰り返した。

 そして。


「今のが最後の技だ。喜べ、免許皆伝最速記録だ」

「やった!」


 破魔一刀流のすべてを収めた。


§


 月夜の晩、縁側で空を見上げていると側に誰かが立つ。


「まだ起きていたのですか?」

「綴里」


 空から目を移すと、月光に照らされた白い寝間着姿が目に入る。


「明日はシールドの試験だというのに」

「うん、そうなんだけど。眠れなくて」

「緊張しているのですね」

「いや、そうじゃなくて楽しみなんだ」

「楽しみ?」

「うん、そう。わくわくしてる」


 胸の高鳴りがうるさくてしようがない。


「禁断の果実を食べる前は、毎日毎日退屈でしようがなかったんだ。なんのために生きてるのかわからなかった。けど、今は違う。スピードを手に入れて、何でも出来る。とっても刺激的なんだ」

「あなたは刺激を求めて守護者になろうとしているのですか?」

「変かな?」

「いいえ、理由は人それぞれですから。私も人とは違いますし」

「綴里も? ってことは今度の試験に」

「言っていませんでしたか? 私も試験を受けるのですよ」

「初耳だよ。でも、そういうことならお互いに頑張ろう」


 立ち上がって右手を差し出す。


「えぇ、必ず守護者になりましょう」


 俺たちは握手を交わして、夜は更けていった。


§


「これより試験の軽い説明をします」


 五級危険区域、以前にこっそりと来た場所だ。

 森林の中で試験官が受験者たちの前に立つ。。


「すでに把握済みだとは思いますが、これから貴方たちにはこの五級危険区域で魔物を狩ってもらいます。制限時間内に死体の一部を証拠として持ち帰ってください。討伐した魔物の難易度はもちろん、試験開始からの経過時間も合否に影響するので注意するように。説明は以上、質問は?」


 誰も口は開かない。


「では、最後に私から一言」


 試験官の声が響く。


「我々の街はこれまで幾度となく魔物の襲撃を受けて来ました。シールド、そして守護者は常に守るべき人々を背に戦っています。いいですか? それはつまり貴方のせいで人が死ぬかも知れないということです」


 その言葉にどきりとする。


「貴方がしくじれば街が破壊されます。貴方が死ねば人も死にます。貴方たちはまだ守護者ではありませんが、その双肩に人の命が乗っているつもりで試験に望んでください。以上」


 試験官の言葉を受けて気合いを入れ直す。

 周囲の受験者たちもぴんと背筋が伸びていた。


「それでは試験を開始します。順番に森へと入ってください」


 ぞろぞろと受験者たちが動きだし、森の中へと入ってく。


「お先に」

「あぁ、頑張れ。綴里」

「貴方も頑張ってください」


 互いの成功を祈りつつ、俺も森へと入って狩りを始めた。

 超スピードで森中を駆け抜けて強そうな魔物を探す。

 ヘルハウンド、ケルピー、コボルト、様々な魔物を横目にし、ようやく相応しい相手を見付けられた。


「やあ、久しぶり」


 声を掛けるとそれは大きな尻尾で地面を打ち鳴らし、ゆっくりと振り返る。

 トカゲのような、ドラゴンのような姿をした、硬い鱗と鋭い爪牙を持つ巨体。

 以前に会った、ドレイクだ。


「約束通り、相手をしに来たよ」


 大口を開けて吐き出された火炎が波のように押し寄せる。

 それを躱すことは簡単だけど、今は正面から打ち破りたい気分だった。

 左手で鞘に魔力を流し込み、右手で引き抜く。

 振り抜いた一撃が火炎を裂き、刀身から魔力の刃が飛ぶ。


「飛燕」


 練習の成果を出す。

 飛翔する燕の如く火炎の最中を突き進んだ魔力の刃はドレイクの顔面を斬りつける。


「ギャアァアァアアァアッ!」


 痛みでよろけたドレイクは火炎の代わりに血を流す。

 口が大きく裂けていた。


「アアァアァアァアアァアッ!」


 裂けた口を更に広げ、ドレイクは幾つもの火球を放つ。

 雨の如く降り注ぐそれは、地面に辿り着くまでに数秒かかる。

 それだけあれば十分だ。

 地面を蹴って加速し、懐に潜り込んでドレイクの左前脚を刎ね上げる。

 切断され、舞い上がる脚の先。

 その断面から血飛沫が舞うより速く、左後ろ脚を断つ。

 尻尾を飛び越えて右側面へ。

 まだ火球は地面に付かない。


「あと二本」


 右後ろ脚、右前脚を断って歩行の自由を奪うと、頭部の真下で立ち止まる。

 加速は解け、火球が地面に着弾して爆ぜ、燃え上がる。

 その光景を瞳に焼き付けた頃、ようやくドレイクは気付いただろう。

 自分の四肢がなくなっていることに。

 血飛沫が舞い、自重を支える術を失ったドレイクが地面に伏す。

 真上から落ちてくる首に、刀を振るう。

 その一撃を持って頭部を刎ね、ドレイクの命を奪う。

 ごとりと口裂けの頭部が地面に横たわった。


「ふぅ、討伐完了!」


 刀を高速で振るい、血を払う。

 綺麗になった刀を納刀し、落とした頭を持ち上げる。


「かなり重いけど、これなら合格間違いなし」


 角を持って血を流しきり、すこしだけ軽くなった頭を持って移動。

 木々の隙間を高速で駆け抜け、試験官の元へと戻った。


「速いですね、貴方が一番乗りですよ」

「ははー、足に自信があって」

「なるほど、自慢の足でドレイクを。まだ試験が始まって五分と経っていませんが」

「きちんと討伐しましたよ?」

「ふむ、ではすこし試してみましょう」


 そう言って試験官は机上のペンを拾う。


「これ、取ってきてください」


 返事をする間もなく、ペンは遠くへ投げられる。

 それを見てすぐに加速して追い付き、ペンを掴んで引き返す。


「はい、どうぞ」


 試験官はペンを受け取るとじっと見つめて口を開く。


「驚きましたね。不正ではなさそうだ」


 ペンを置き、真っ直ぐに見据えられる。


「正直な話、私は貴方をとんでもない間抜けだと思っていました。リスクを承知で不正を働くならもっと上手くやるべきだ、とね。だが、驚いたことに貴方の言ったことはすべて本当だった」


 試験官は眼鏡の曇りを拭き取り、かけ直す。


「おめでとう、貴方は合格です」

「やった! 今日から守護者だ!」


 人生を変える第一歩を無事に踏み出せた。


「やはり貴方が一番乗りだったのですね」


 合格者席である仮設テントの下で試験の終わりを待っていると、綴里が二番目の合格者としてやってきた。


「まぁね。綴里もお疲れ様」

「はい、お疲れ様です。お菓子、食べますか?」

「いいの? やった」


 くれたお菓子を頬張っていると続々と合格者が現れ始める。


「お、先越されてんじゃーん」

「絶対、一番だと思ったのに」

「知ってる顔?」

「全然、こんなダークホースがいたとはね」


 合格者席が賑わう中、とうとうシールドの試験が終わった。

 今この場にいる者のみが守護者だ。

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