01-09.元連隊長、意見具申する
扉を二回ノックすると、内側からは、
「入れ」
という連隊長の声が聞こえてきた。
「沖沢2尉、入ります」
第3普通科連隊第1中隊第1小隊長である沖沢タモツ2等陸尉は、連隊長室に入った。
連隊長はデスクワークに向かっていた手を止め、顔を上げてこちらを見た。
「要件は何か」
戸田冴子2等陸佐の顔がまっすぐこちらに向けられた。
「本日は意見具申のため参上いたしました」
「ほう? 許可する。述べよ」
「先般より続いております連続怪死事件への、今後の対策についてであります」
この世界にはパソコンもなければ印刷用紙もなく、自衛隊がわずかに入手できる羊皮紙の枚数も限られていたから、基本的に報告は口頭によって行われていた。
「続けよ」
4年の歳月は戸田2佐の容姿を美しい少女に成長させていた。
戦術級の指揮官として数々の功績を上げてきた戸田冴子は順当に昇進し、ほんの昨日から連隊長職を務めている。
彼女の前任者は3日前の朝に、拳銃による謎の自殺を遂げていた。
急遽のことだったが、戸田「3佐」が後任として駐屯地司令によって任命されたのだった。
そして一昨日、彼女は2佐へと昇進していた。
「昇進おめでとうございます、戸田2佐」
と、廊下でたまたますれ違ったときにタモツは直立不動でそう言ったのだったが、
「特にめでたくはないな。人材が不足しているという証左にすぎんぞ、これは」
戸田は憮然としてそう答えた。
「昇進と言えばむしろ貴様だろう沖沢。異例の大出世を果たしたではないか」
「ありがとうございます。今後もご期待に応えるよう、一層努力する所存であります!」
「いや。別に期待はしておらん」
えーっ……? ひ、ひどい。
「いや、冗談だ。本気に受け取るな」
と、戸田は能面のような無表情のまま、そう言った。
「私は貴様を信頼しているのだ」
なんと答えたものか分からず、タモツは直立不動の姿勢に戻り、
「はいっ!」
とだけ答えた。
「私を裏切るなよ沖沢」
戸田は一言、そう言い残してその場を立ち去った。
信頼、か……。
「どうした? 続けよ」
「……はいっ!」
タモツは対策について簡潔に述べた。
今後駐屯地内外においては二名一組のバディ行動を基準とし、決して一人にならないこと。
駐屯地の各種業務においても、あらゆることをバディ基準で人員配置すること。
「なるほど、悪くないな」
「連隊長の信頼に応えるべく考え抜きました」
「そうか、ご苦労だった。たった今、貴様に対する信頼ポイントが1点上昇したぞ」
「はっ!」
信頼ポイントを何点か集めたら、何か素敵な景品と交換してもらえたりするのだろうか?
と、タモツはぼんやり思った。




