01-07.元連隊長、歳を重ねる
それから四年の月日が流れ、タモツは53になった。
元の世界の一般的な自衛官であれば、引退に差し掛かる年だ。
異世界の食べ物のせいなのか、不思議と肉体の衰えは感じなかった。
いや、むしろ連隊長時代より十歳若返っているような気さえした。
タモツは作戦の傍らこの世界の言語に習熟し、異世界人との間に何人か親しい知人さえ得ていた。
外出許可が出るようになってから、同期や先輩たちの暮らしをそれとなく探ってみたが、酒におぼれたり娼婦を買ったり、博打に手を出しているものが大半のようだった。
「実に嘆かわしいことだが、一般的に言って、自衛官には教養というものが欠けている」
と、タモツは不満を漏らした。
「キョーヨーってのは、なんだかわかったようなわからねえような言葉だな。それは、よくいうガクリョクってのとは違うのか?」
「いうなれば、人生を豊かにするための知識だよ。あとは、人と共通の話題を持つためのツールだ」
「そうか。俺はじゃあ、ガクリョクは無いがキョーヨーはあるってことになるな」
「それは認める。君は自分を常によく磨いていると思うよ」
「あっちの世界にいる時には、自分の可能性を広げるとか、そんなことは考えもしなかったけどな」
耳から情報を吸収することに長けたハジメは、ヒアリングとスピーキングをどんどんマスターした。
一方で、タモツはいつまでたっても発音が上達しなかったが、異世界の書物をかなりのスピードで読み込んでいくことができるようになっていた。
現地人と触れ合ったり書物から学ぶうち、この世界の構造がかなり良く分かってきた。
この世界には魔法というものが存在するが、それは一種の超能力のようなものらしかった。
「俺ら自衛隊員にも、それは訓練次第で身につけられるものなのか?」
「さあ、どうだろう。知る限りにおいては、自衛隊出身者でこの世界の魔法を習得した人物はいないんじゃないだろうか? 駐屯地を捨てて異世界に飛び込むなんてことは、誰も考えないと……」
タモツは、思い出した。
どうやらハジメも、同じ考えに行き着いたらしい。
「アイツはいま、なにをしているんだろうな」
「この世界になじんで、元気に暮らしているんだろうか……」
刈谷君。
異世界転移してから初めてできた、私の友達。
今まで彼のことを忘れていたことに、タモツは一抹の罪悪感を覚えた。
いつかまた、彼と二人で本の話などをできる日が来るんだろうか……。