04-08.元不良、送り出す
オンナが気になって仕事に集中できない。以上、終わり。
目下特務隊が抱えている大問題を一言で言うならば、こうとしか言いようがない。
除隊間近の押井と、もう一人岸井だけは普段と変わらない様子に見える。
しかし、それ以外の連中はこれまでとは色々違っていた。
何かにつけて愛内に話しかけようとして、男どもが彼女に寄っていく。
新人に親切にするのは良いことだが、必要以上に親切すぎる。
分からなそうなことがあるとみれば先回りしていろいろ教えたがる奴、大した用事がなくても雑談をしたがるやつ、本当は知っているようなことでも知らないふりをして質問したがる奴。トラホルン語の勉強に意欲を燃やすふりをして教えてもらいたがる奴。
魔獣の数が以前より少なくなったためにこのごろは遊撃任務の出撃回数を減らしていたが、その日は砦の中で武器整備や資材の点検、大掃除などを行っていた。
入れ替わり立ち代わり話しかけに来る男たちを愛想よくさばきつつ、愛内は庶務係の仕事について押井からの申し送りを受け、砦の間取りや機能、特務隊の業務についてよく把握しているようだった。
「彼女、非常に有能ですね。自分よりさばけるんじゃないでしょうか」
「そうか? まあ、転生者だからな。チート野郎の一人ではあるだろう」
「あれだけの能力があって人あしらいも上手いのに、なんで幹部にならなかったんでしょうか」
「さてな。本人に聞いてみたらどうだ?」
ハジメはさして関心なく、押井1曹に向かって言った。
申し送りは終わり、とうとう押井が除隊する日がやってきた。
「ありがとうございました隊長。なるべく国外情報を集めてきます」
「寂しくなるけど、まあこれでお別れってわけじゃねえしな。また会おうぜ押井」
タラス砦には押井の妻となるレイダ嬢が訪れていた。両親との大喧嘩の末に家を勘当されたという、貴族の三女である。
『貴族の身分を捨ててサブロウの妻になってくださること、感謝します』
ハジメは我ながららしくねえな、と思いつつ丁寧に謝辞を述べた。
「ワタシ、サブロウスキ。オミセ、タノシイ。スキ」
たどたどしい日本語でレイダは言った。それから続けた。
『鳥かごに囲われたような貴族令嬢の身分なんか喜んで捨てましたわ。愛する人と一緒に外国に冒険に出かけられるなんて夢のようです』
レイダは楽しそうに笑って見せた。
こうして隊創設時から苦楽を共にしてきた副官的立場の押井サブロウをハジメは失った。
押井は除隊手続きと退職金の受け取り、あとは1曹昇進に口添えしてもらった戸田冴子連隊長へあいさつするためにカリザト駐屯地へ向かった。
その後はボルハンに取って返し、すぐにキャラバンを率いてバルゴサを目指すという。
水先案内人および護衛として、あのバルゴサのシャザームを雇い入れたという話だった。




