01-06.元連隊長、野心を燃やす
タモツ達同期は訓練期間を終え、それぞれ実戦部隊に配属された。
元の世界ではどうしようもない不良だったと自嘲した木下だったが、勉強をする機会がなかっただけで頭のキレは相当のものを持っているようだった。
「俺は王になる」
海賊の漫画でしか聞いたことのないような、あまりにも壮大なセリフだ。
彼ら自衛隊は、この異世界では使い捨ての傭兵のような立場であることを、タモツ達はうすうす理解し始めていた。
「どういう仕組みで、誰が裏で糸を引いているのかまでは分からねえが……」
「いわゆる、ゲームで言う召喚獣みたいな便利なコマとして扱われているには違いないな」
ふと、タモツは疑問を口にした。
「逆召喚、ということもできるんだろうか?」
「送る方、ってことか? どうだろうな、それは」
ハジメはヤブニラミ気味の目を細めて、考えていた。
「できるかも、しれねえな。俺はもうあの世界には帰りたくねえが、あんたはあっちの方が好きだろうな」
「正直に言えば、そうだね。今でも転移なんて夢なんじゃないかと期待することがあるよ」
「娘さんに会いたいか?」
「そうだね。あっちがどう思っているかは分からないけど、転移する直前にケンカをしたままだ」
「そりゃ、せつねえな」
「とはいえ、今できることをするしかない。戦績を上げて自衛隊の内部で地位を向上させる」
「アッチと違って、こっちは実力主義だからな。短期間での出世の目はあるだろう」
「そういうことだね。そして、もし君がこの世界で自衛隊の枠組みを超えてのし上がっていくというのなら、越えなければならない壁がある」
「? なんだ、それは」
「言葉、だよ」
「なるほどな。駐屯地と敵地を行ったり来たりしているだけの生活なら日本語だけで事足りるが」
「駐屯地の外の世界とアクセスできないのであれば、自衛隊の中で多少出世したとしても、組織の中で飼い殺しにされるだけなんじゃないか? と、このごろは考えるよ」
タモツにとってそれは、元の世界では全く考えの及ばないことであった。
陸上自衛隊は日本国の守護神であり、ただその枠組みの中で生きていけば、そのまま社会への寄与になると考えてきた。
この異世界における自衛隊の立場は、そういうものではなかった。
自衛隊が国民から信頼されていなかった、バブル以前の時代よりももっと扱いが悪い。
あえていうならば外人傭兵部隊。
もっと悪く言うならば、割りばしみたいなものだろう。
「アンタはこの組織を掌握し、俺はこの世界に反旗を翻す。力を合わせていけるんじゃないか?」
「ハジメ、君はなかなかに口説き文句が上手いやつだ」
「きまりだな? じゃあ、手を組もうや。お互いの野望のために」
「いいだろう。お互いの野望のために」