01-05.元連隊長、新たな友を得る
何度かの演習を通じて、タモツはだんだん木下ハジメと心が通じ合うようになっていた。
その後何度か怪物と交戦する機会があったが、せいぜい大型の犬サイズのものばかりだった。
ずいぶんさび付いていたもののタモツはもともと銃剣道の有段者だったし、敵の急所を的確に突いていく戦闘スタイルを身に着けていた。
木下は極限の状況下に置かれたときに、命を失う恐怖よりも戦いへの興奮が先立つ精神性の持ち主だった。
率直に言って、元の世界であればただの犯罪者予備軍だっただろう。
もしかしてボクシングの選手にでもなれば、大成したかもしれないが。
この手のタイプの人間を、タモツはずっと好かなかったのだが、この世界で生き延びていくためには非常に有利な資質を持っているのだと、考えを改めていた。
偏見を捨てて近づいてみれば、木下もそう悪い人間ではないような気がしてきた。
訓練が休みだったある日の夕方、木下はぶっきらぼうにこちらに話しかけてきた。
「おい、おっさん」
「ん?」
「前の世界で、連隊長やってたっていうのは、あれ本当か?」
「ああ、まあ……」
なんでまた、急にそんなことを? と、タモツは疑問に思った。
「相当頭がいいんだろうな。防大卒だって聞いてるが」
「どうだろう。悪くはないのかもしれないが、少なくとも学歴はこの世界で役立ちそうにないな」
「そうでもないんじゃないか」
「ん?」
「あんたは怪物相手にいつも正確に急所を狙うし、見たことがない怪物の体のつくりを素早く把握している」
「…………」
「笑うかもしれないがな。俺はこの世界にとても向いていると思うんだ」
「ああ。それはそうだと思う。木下には勇気がある。まるで死を恐れていないんじゃないかとさえ思ったくらいだ」
「ああ、俺はそういう感覚が人よりぶっ壊れてるらしくてな。実の母親から、私はあんたが恐ろしいって言われてなじられた。それで、やさぐれて行き場をなくしたところで、地連に拾われた」
「……そうだったのか。大変な思いをしてきたんだね」
なんでまた、私にそんな話を?
「俺はなあ、おっさん。この世界で王になろうと思っている」
「!? ……なんだって?」
「この世界はどうやら、学歴が無くても勉強が苦手でも、力と勇気があればのし上がっていける、そういう場所だと俺は見た」
木下ハジメは、ただの無学なヤンキー上がりというわけではないようだった。
「なあ、おっさん。いや、勝手にタモツと呼ばせてもらうが……」
「あ、ああ」
「アンタ、俺の軍師になる気はないか?」