01-04.元連隊長、異世界を知る
「てぇーっ!」
戸田曹長の号令のもと、タモツ達訓練隊員は64式小銃を立ち撃ち姿勢に構えて斉射した。
7.62ミリ規格の減装されていないNATO実弾が次々と異世界の獣に撃ちこまれた。
耳をつんざくような咆哮だが、それは断末魔、ではなかった。
「続いて撃てぇーっ!」
ドドドドドドドッ
この世界では直接製造することのできない貴重な弾丸を、あまりにも消費してしまった。
現実世界の日本では感じたことのない、生々しい死への恐怖がタモツの心臓をつかんだ。
ガコッ、と、ライフルは音を立てて弾切れを告げた。
「撃ち方やめーっ!」
戸田曹長は絶叫した。
「総員、着剣せよっ!」
着剣っ!? あのバケモノ相手に銃剣突撃っ!?
「突撃にぃぃっ、すすめぇええええっ!」
木下が素早く着剣を終えて、その蛮勇をふるって突撃に進んだ。
木下の取り巻き連中がボスに続き、タモツは恐怖に震え上がっていた。
「オキザワーッ!」
戸田曹長が怒りを込めて叫んだ。
タモツは遅れて銃剣の装着を終え、そして走り出した。
木下の太鼓持ちだった宮田が、上半身を裂かれて息絶える瞬間をタモツは目撃した。
その二秒後に、山田が死んだ。
木下の一撃が化け物の片目を奪い、その一秒後に塚本が死んだ。
「うぁあああああっ!!!」
やけっぱちの突撃をしかけたタモツの剣先は合成獣の首筋をわずかにかすめ、
木下は荒々しい雄たけびを上げて獣の口腔内に銃剣を深々と突き立て、全体重をかけてさらに押し込んだ。
地球上の生き物の身体構造に準じているなら、頸動脈があるはず。
木下が抑え込んでいる間に急所を切りつける!
タモツは銃剣を再び構え、おそらくこのへんだろう、と思われる箇所に渾身の刃を突き立てた。
緑色の鮮血が勢いよく吹き出し、タモツはそれを顔面で浴びた。
怪物は絶命した。
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駐屯地を出発した時には、ただのオリエンテーションで終わるはずだった。
思いもよらない襲撃を受けた結果、今朝には20人いたはずの教育隊員は一瞬で8人の同期を失っていた。
そのうちの2名は、戸田が引導を渡した。
かろうじて生きてはいたが、助かる見込みはもうなかったからである。
タモツは脱力して地面に膝をつき、グズグズと泣いた。
木下はまだ興奮状態にあり、もはやただの屍となった獣に何度も、何度も、銃剣を突き立てて吠えていた。
タモツとは気の合わない粗暴な男ではあったが、子分の弔いのつもりだったのだろうか。
彼があそこで勇気を出さなかったら、部隊は全滅していたかもしれない……。
タモツは木下に対する人物評価を大きく改めた。




