01-03.元連隊長、孤独になる
数日後、刈谷2士は「脱柵」した。
警務隊によってほどなく捕縛された刈谷は、その後懲罰房で3日を過ごし、その後正式に除隊した。
駐屯地を出ていく刈谷の後姿を、タモツは沈痛な思いで見送った。
「寂しくなるよ、刈谷くん」
「さようなら沖沢さん」
刈谷は悲しげな笑みを浮かべて言った。
「下克上、必ず成功させてくださいね」
どこに行く当てもないだろうに、そこまで思い詰めていたのだろうか。
何が元連隊長だ、タモツ。
同期の苦しみを察してやることもできなかったこの私に、再び人の上に立つ資格などあるのだろうか。
翌日、木下一派が刈谷2士を負け犬呼ばわりしていたのを耳にして、タモツは激怒した。
思わず目上の立場から説教を垂れてしまい、結果、木下にボコボコにされて終わった。
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下剋上か。
そんなもの、今の私にできるのだろうか?
後期教育を前にして、タモツは自信を失っていた。
下剋上に至る道筋など、果たしてどこにあるというのだろうか?
ある日の一日の終わりに、タモツは固いベッドの上で静かに考えていた。
(僕はこの世界の言語を……)
刈谷くんはああ言っていたが、私にもできるだろうか?
諜報部署か広報部署、なんらかの対外折衝を行うような部署につくことができれば、もしかしたら自分の強みを生かすことができるかもしれない。
そして、同じ道を歩む先に、刈谷君と再会できるかもしれないではないか。
わずかな希望が生まれた気がして、タモツは少し気が楽になった。
まずは今できることをしよう。考えるのはそれからだ。
結果、タモツのこの選択は正しかった。肉体的能力はずいぶんと衰えていたものの、タモツの頭脳はそれに比べて学生時代の高性能をそれなりに保っていた。
そしてこの時のタモツの考え通り、刈谷との再会も果たすことができたのだが……。




