02-01.元不良、野戦する
場所はトラホルン領内の北東部――。
ある日の夕刻のことであった。
王都より徒歩で2日ぶんほど離れた肥沃な土地にその一団は陣を張っていた。
獣の皮で作られた衣服などをまとった野人のような、山賊のような人間の集まりであった。
なだらかな丘陵を背にした開けた場所に散開し、男たちは東の森の方角を見つめていた。
一党のリーダー格と思しき男の背は高い。その横に小柄な男が立ち、頭目に向かって言った。
「どうやら、来たようですね」
その言葉は、この世界とは異なる世界の言語――「日本語」であった。
ドドドドドドッ……。
森の中から地響きのような何か、大型の獣の足音のようなものが聞こえ始めている。
「――っ!」
続いて、なにか、人の声が。
「来たぞっ! 野郎ども、抜かるなぁ!!」
男たちの指揮官である木下ハジメが怒声を上げ、周囲に散会した男たちが「オウッ」と低く応えた。
「たいちょぉおおおっ!」
「お客さんをお連れしたぁっ!」
森の中から転がり出るように現れた斥候二人が叫びながら左右に散り、続いてそれを追いかけてきた大型の魔獣がその姿を現した。
イノシシとも熊ともつかない奇妙な獣で、後足だけで立つ姿は伝説のミノタウロスを思わせる。
立った姿で地面から頭まで4m近くあるだろうか。
ハジメの指揮下で森から距離を取って散っていた男たちは、小型の金属盾を武器で打ち鳴らして魔物を次々に挑発しつつハジメの立つ中央に寄っていった。
「ウグァアアアアアッ!」
魔獣は怒りで咆哮した。
言葉を理解するほどではないのだろうが、挑発に乗せられる程度の知能はあるらしかった。
あるいはただ単に、鳴り響く金属音が不快だっただけかもしれないが。
魔獣がハジメたちを見据え、のっし、のっしと再び前進を始めたその時、
「今だ」
とハジメは言った。
ハジメの左隣にひかえていた小柄な男が後方に鏡を使った合図を送り――。
パンッ!
直後に魔獣の左目が弾けた。
後方の丘の上に陣取ったスナイパーによる、5.56mm弾の一撃である。
「グゥオオオオオオオオオオッ!!」
味わったことのない痛みと、燃えたぎる怒りに魔獣は怒号した。
背をそり返させて天を仰ぎ、頭を振って魔獣は足早に歩みを進めてくる。
ハジメの立つ地点から、距離にして10mに満たない。
「はい、いらっしゃ~い!」
木下ハジメは大型魔獣を間近に見据えたまま、口元に余裕の笑みを浮かべていた。




