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01-11.元連隊長、敵と対峙する

タモツは激怒した。


超常的な何かによって構成されたあいまいな空間の中から、敵はその姿を現した。


パン、パンッ!


戸田2佐による連射は、見えない盾のようなものに弾かれた。


「よんはーつ!」


と、どこか楽しそうに、敵は声を上げた。


黒一色の異世界風の装束に身を包んだ、小柄な男がそこに立っていた。


「刈谷くん……」

「お久しぶりですね、沖沢2士」


地味な黒ぶちメガネの印象が強かった刈谷ユウスケは、眼鏡をかけていなかった。


「いや、今は沖沢2尉ですか。わずか四年で階級をどれだけ上げたことになるのやら……。ずいぶんなスピード昇進を果たしたものですねえ。くくっ」

「刈谷くんは、何やらゆがんでしまったようだね」

「そうでしょうか? どちらかというと、僕は本来の僕を取り戻したのだと思っていますが」


「こんな暗殺者みたいなことをするのが、君の人生の目的だったのかい?」

「さあ? どうでしょうね。そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


「私は、君のことが好きだったよ」

「すでに過去形ですか。それはずいぶんとご挨拶ですね」


かつてタモツの友だった青年は、うっすらと嘲りの笑みを浮かべた。


戸田2佐はなおも射撃姿勢を取り続けていたが、あと2発を再射撃したところで意味は無かっただろう。彼女が構えを解かないのは、ただ戦闘意思の表明でしかなかった。


「今は眼鏡をしていないのかい?」

「ああ。僕のイメチェンに気がついていただけましたか。別にコンタクト派になったというわけではないんです。まあ、この世界にはコンタクトの予備も洗浄液もありませんけどね」


発砲音を聞きつけた誰かが駆けつけてくれることをタモツは期待した。

あるいは刈谷の油断を誘えるかもしれないとも思った。


「異世界風ファッションかい? なかなか似合ってると思うよ」

「それはどうも」


黒一色のカサミノのような植物性の衣服には、お経のような文字が書かれ木札がたくさんぶら下げられている。

魔獣の皮で織られた丈夫そうなズボンと、革製のロングブーツ。


ビジュアル系ロックバンドのボーカルか何かが好みそうな、どこか禍々しさを感じさせるスタイルだった。


先ほど弾丸をはじいた見えない盾のようなものは、おそらくだが、飛び道具だけに有効なのではないかとタモツは予想した。


腰だめに銃剣を構えて、ヤクザ映画でやるみたいに体重を乗せて突進すれば、防ぐことは難しいだろう。同胞を手にかけるというのは忍びないが、刈谷を殺さなければこちらが殺されてしまう。


私が死ぬだけなら、それはそれでいい。残念なことだが、諦めはつく。


ちらり、とタモツは横目で連隊長の姿をとらえた。

異世界自衛隊の未来のために、戸田冴子を死なせるわけにはいかなかった。

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