01-10.元連隊長、不明を恥じる
タモツの意見具申は戸田連隊長を通じて駐屯地司令に進言され、幕僚たちによる短い会議ののちに採択された。
その日のうちに新たな命令として発令され、駐屯地中の隊員が2名一組を基準単位として行動することとなった。
その後2日間、殺人の連鎖は止んだ。
2日間しかもたなかった、というほうが表現としては的確だったろう。
姿なき殺人者はその後2日に一度、バディ単位で隊員たちの命を奪っていった。
「申し訳ありませんでした、連隊長」
「いきなりなんだ沖沢」
「私の意見具申は、何の対策にもなりませんでした。小官は己の不明を恥じます」
「ああ、そのことか。特に気にするな。私の中で貴様への信頼ポイントが1点下がっただけだ」
白皙の美貌をタモツのほうに向けて、戸田連隊長は表情を変えることなく言った。
がくっ……。
「冗談だ沖沢。本気に受け取るな。私も良い案だと思ったから上申したのだ」
「はっ」
「しかし、困ったことになったな。ほかに何か打つ手を考えなければならん。このままでは駐屯地中の士気が崩壊してしまう」
「おそらくなのですが……」
遠慮がちに、タモツは言った。
「敵の狙いはそこにある、のだと思います」
「ほう?」
戸田はタモツの顔を見つめた。
「この現象は我々を敵視する何らかの勢力による、明確な攻撃なのだと、そう断定するわけか」
「はい。心霊現象や内部の犯行という見方には異議を唱えます」
「興味深い。続けよ」
「背後にどのような勢力が存在するのかまでは、正直想像できませんが……」
「実行犯が何者であるかという点について、心当たりがあるというのか?」
「おそらくは、なのですが」
「ふんっ。ずいぶんと歯切れが悪いことだな」
戸田がそう言って口元に小さな冷笑を浮かべたそのとき、連隊長デスクの背後になにか奇妙な――。
空間の小さな揺らぎ、とでもいえばいいのだろうか?
人の身長ほどのサイズの、陽炎のような何かが戸田2佐の背後に揺らめいていた。
「連隊長っ!!」
思わずタモツが発した警告に、戸田は素早く反応した。
その一瞬の判断が、彼女の命を救った。
とりあえず、今のところは。
鈍く光る短刀の一撃は美少女の肩口をかすめ、空間の揺らぎの中に舞い戻った。
くそっ!
タモツは護身のために常時装着が許可されているところの、愛用の銃剣を抜き放った。
現実世界の自衛隊においては刃を落とされたなまくらに過ぎなかったそれは、この世界においては鋭く磨き上げられていた。
戸田は敵の方向をにらみつけたままバックステップで距離を取り、拳銃を構えて安全装置を外した。
軽く右足を引く教範通りのウィーバースタンスをとり、彼女はそのまま二発、
正確無比に弾丸を撃ち放った。




