01-01.元連隊長、第2の人生を始める
タモツは激怒した。
この私に、一兵卒として再スタートを切れというのか!?
タモツは防大卒である。陸自の中ではぶっちぎりのエリート。選ばれしものなのである。
だからこそ、連隊長職という重責を得て、その責任をしっかりと果たしてきたつもりだった。
学歴差別をするつもりではない。
これは、単なる事実としての区別である。
だがこの異世界において、タモツは単に年を食った新参者に過ぎなかった。
自慢の高知能で状況を的確に判断したタモツは、自分の置かれている立場を深く認識し、闘志を燃やした。
「おもしろい! ならば、第二の人生を華麗に下剋上してやる!」
……と、強く誓ったのが今から三日前のことだった。
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ショベルで土を掘る。そして、また埋める。
ショベルで土を掘る。そして、また埋める。
人の心を折るための、有名な拷問の一つである。
そして今、まさにタモツの心は折れようとしていた。
青雲の志を抱いて少年工科学校の門をたたいた時、タモツはまだ15歳の美少年だった。
自分で自分のことを美少年と言うのもいささか面はゆいが、これは客観的事実だった。
学生時代にはそれをやっかんだ先輩に目をつけられたり、別の意味で目をつけられたりしたものだった。
あれはもう、30年以上も昔の話になるのか……。
卒業後にすぐ防大の入学試験に一発合格したタモツにとって、学生兵として過ごしたあの日々は少年でいられた最後の時間だった。
ショベルで土を掘っていると、同期たちと苦労しながら行った野戦築城の記憶がよみがえってくる。
しかし、それにしても、これはない……。
「沖沢2士! 手を止めるなっ!」
と、鬼教官の怒声がタモツに容赦なく降り注いだ。
教官の名前は戸田冴子曹長。
いわゆる「転生組」である。
元の世界から異世界に移動してくるにあたって、転移だったか転生だったかの違いはとても大きい。
なにしろ、彼らときたら元の世界から記憶と知能を引き継いだまま、二周目の人生を赤ちゃんからやり直すことができたのである。
ちなみに、どう見ても小学校高学年児童にしか見えない戸田冴子の中身は49歳だという。
くそっ、なんということだ。私と同い年ではないか……。
戸田曹長は38の時に転生してその後11年をこの世界で過ごしているらしい、未来の大幹部候補であった。
「こらーっ! オキザワーッ! 手を止めるなっ!」
「ハイッ! オキザワ2士っ!」
なんという屈辱……。




