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一千一瞬物語


小学生のたかしくんはレース鳩を飼っていた。

名前は「はやぶさ」号だ。

のんびり屋のたかし君はときどき、はやぶさをレースに出すが結果は気にしない。

たかし君はとにかく、鳩が大好きなのだ。


はやぶさのレース結果は全くぱっとしなかった。

ビリになることもしばしばだった。

ところが、実ははやぶさは、1000年に一度、生まれるか生まれないかという「スーパーピジョン」だったのだ。


さて、今日も鳩レースの大会が行われた。

関東地方からつれてこられた鳩たちが、関西地方で放たれる。

それぞれの家につくまでの時間を競うのだ。

「よーい、スタート!」

号令とともに鳩は一斉に飛び立ち、東をめざす。

ところが、はやぶさは何を思ったか鳩の一団と分かれて、西へ向かいだした。


西へ向かう、はやぶさはすさまじく速かった。

あっと言う間に日本海を渡り中国へ。

深山の池でパンダと一緒に水を飲むと、さらに西をめざす。


さらに西、インドに到着。

ガンダーラの寺院の上で30秒ほど瞑想し、再び飛び立つ。


イラン、イラク、シリアを通る。

武装勢力同士の紛争が絶えない地域だ。

はやぶさは銃弾や砲弾をたくみにさけながらさらに西へ。


エジプト。

砂漠を渡るのも全く意に介していない。

ピラミッドの上でひと休み。さらに西へ。


地中海を北西に渡る。イタリアに到着。

オリーブの木が整然と並んでいる。オリーブ畑だ。


アパートの窓で休んでいると窓が開いた。

幼い娘が顔を出した。

「ママ、鳩がいるよ。この前の鳩さんだよ」

「数字の入った足環をしているし、そのようね」

はやぶさは人懐っこく、娘に近づくとエサをねだる。

慣れた感じだ。娘は、はやぶさに豆をやりながらたずねる。

「あなたはどこから来たの?」

はやぶさは『ポッ、ポ』と鳴くと一礼して窓から飛び立った。

この間、10分。

「あ~あ、もういっちゃった。いつも何か急いでいるみたい」

娘は西の空を見つめてつぶやいた。


はやぶさはどんどん西へ。フランスに到着。

パリの凱旋門で少し休み、今度は南西へ。スペインを抜け、大西洋に出る。


アメリカに到着。自由の女神に挨拶すると、そのままアメリカ大陸を横断し、

一気にカリフォルニアへ。太平洋が見えた。


太平洋を西へ。途中、クジラの背中で休みながらハワイへ到着。

観光客からエサをもらい、さらに西……東京をめざす。


夜、たかし君が部屋にいると、屋根裏で音がした。

屋根裏のハト用の入り口にはハトがくぐれるように工夫した小さな扉がついている。

その扉が開いたのだ。

はやぶさが帰ってきた。

鳥は普通、夜になると飛ばないものだが、不思議なことにはやぶさは夜かなり遅くなっても飛べるようだった。


たかし君ははやぶさの足環を取り、箱にしまうと

「はやぶさ、お帰り。でも他のハトはみんな昼間のうちに帰ってきてるぞ。おまえはのんびり屋だな」

語りかけるたかし君はしかし、はやぶさが無事帰ってきてうれしそうだ。

「……おや?」

たかし君は、はやぶさが見慣れない木の葉をくわえていることに気がついた。

そこで居間でくつろいでいた父親に聞いてみた。

「これは何の葉だろう? はやぶさがくわえてきたんだ」

「これはオリーブの葉だよ。めずらしいな」


たかし君は、はやぶさに聞いてみた。

「お前はどこで寄り道してたんだい?」


もちろん、はやぶさは答えない。

『ポッ、ポ』と鳴くだけだ。

そして、なにかうれしそうに首をかしげるのだった。



(了)


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