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それぞれのざまぁ(ヤツヤナ前編)

忙しいアピールはダサいんですが、続きもすぐ投稿出来らかわからないんですが、長くなったので、かけた分だけ投稿します。


更新していない間も、ポイントをくれたり、ブクマしてくれている皆様のおかげで、忙しくてもモチベを維持できています。ありがとうございます。

それぞれのざまあ


 チュンチュンと鳴く小鳥の囀りでまどろみから抜け出し、コーヒーを飲み目を覚ます、届いた新聞に目を通すところからヤツヤナの1日は始まる。


「さてと、一流の商人たるものいつも情報に敏感でないとな……ふむふむ。地方欄には大したことは書いていないな。さて今日の一面は?……なんだと?!」


 3年振りにヤドラン会長が直々に訪問。サーズの街初の星4つの宿!

 そんな宿など無かったはずだ。ヤツヤナは自分の情報外のことに狼狽えつつ、新聞を読み進める。

 

「キングオークに、ハイオーク、王のワインだと⁉︎……オールイン!」


 星無しと評されていた宿が、王都でも珍しい4つ星とは。サーズ初の4つ星、これはいかねばなるまいな。

 出入り禁止となったことなど忘れて、ヤツヤナはオールインに、向かった。


「いらっしゃいませ……ヤツヤナ様、何をしにいらしたのですか? あなたは出入り禁止となっているので、当宿には泊まれませんよ」


「受付の女風情が、サーズの大商人になんと言う口の聞き方だ! 4つ星に変わったこの宿を視察しに来てやったと言うのに。安心しろ。金は前金で払ってやる」


「お帰り下さい」


「良いから泊めろ! さもなくば、宿に不幸なことが起こることになるぞ!」


 ヤツヤナとマリアが揉めていると人が集まって来る。

 その場を治めるべく、カツンカツンと言う高い靴底の音を鳴らしタツヤがその場に着いた。


「ヤツヤナ様、前回あれだけの事をしでかして何をしにいらしたのですか? それに脅迫行為、衛兵を呼びますよ」


「これはこれはオーナー殿、サーズ初の4つ星獲得おめでとうございます。星無しの時に止まった事のある身としてはどれだけ変わったのか見てみたくなりましてな。どうか泊まらせていただけませんか? この受付の女が私に失礼でね」


「当宿のサービスも料理も、ヤツヤナ様が最後に泊まった日から変わっていませんよ。ヤドランの調査員が来ていた日にヤツヤナ様は宿泊されていましたから。お帰り下さい」


「それでは私が食べたのは? そんなことは関係ない! こちらが下手に出ていれば、調子に乗りおって。どうなっても知らんからな!」


「そちらもお気を付けください。荒ごとは嫌いですが、記事に嘘はありませんから。私がハイオークを狩れる実力がある事をお忘れなく」


 忘れていたのか、ハッとした顔をした後、苦虫を噛み潰したような顔に変わり、ドスドスと足音を立てて帰っていった。


「忌々しい、宿屋風情が調子に乗りおって。

星無しの時に3度も泊まりに行ってやった恩を忘れておる」


「ヤツヤナ様! 大変です」


「コシキンチャか、丁度いいところに来た。あの星無しの生意気な宿屋を……」


「それどころではございません。王都の商会のゴウケン会頭がいらしてます」


「何! 馬鹿者! すぐに通せ! 最高級の持てなしをしろ。私も準備をしたらすぐにゆく」


 宿屋どころではない。ゴウケン様は年に2〜3回大商いを我が商会にもたらしてくれる方だ。質実剛健な方で、この時ばかりは、私も一商人として、全力を尽くす。2ヶ月前にいらしたばかりなのに、今年は取引が増えるのだろうか? 


「これはゴウケン様、ようこそいらっしゃいました。このヤツヤナ、ゴウケン様とこんなにも早くお会い出来て幸せでございます」


「先触れもなしにすまないね。王都で情報を掴んですぐに出てきたものだから。勿論お土産に取り引きもあるから期待していいよ」


「情報……と言いますと?」


「君ともあろうものがらしくない。まぁ良かった。その分だとヤドランの記事はまだ出てないのかな?」


 ギクゥ! まるで音が鳴ったかのように、ヤツヤナは戦慄する。

 半ば予想は出来ていたが、やはりその話か。私は予約を取りに行けないから、コシキンチャにいかせよう。


「今朝の新聞に載っておりました。オ、オールインの事ですね。すぐに手配しましょう」


「『銀の匙』の時に俊敏な動きをしていた君らしくないねえ。鈍った商人はいらないよ! なーんてね」


「おい、急いでスウィートルームを取ってこい。金はいくらかかっても構わん」


 おどけたゴウケンの言葉は決して冗談では無い。

 王都に比べれば商業の遅れている、街の使えない商人など、一つ対応を間違えれば路傍の石のようなものだ。


「ヤツヤナ様!」


「戻ったか。無事部屋は取れたのだろうな?」


「ダメでした。あいつら俺の顔までしっかり覚えてやがって。出入り禁止と言われちまいました」


「どうしたんだいヤツヤナ君、部下を怒鳴るなんて君らしくない。あぁ、満室だったのかな? ヤドランで星が着いたのは最近でもきっと地元では話題の宿だろうし」


 そう言うことにしてしまおうか。ゴウケンに嘘をつくのはリスクの高い行為だが、満室で諦めてもらおう。次回来た時は予約を取っておきますとか言って。


「実はそうなんです。申し訳ございません。私の力不足で」


「気にする事はないよ。こんな事もあろうと、今回の取り引きは長くかかる物を持って来たから。大きい仕事だから、ヤツヤナ君も嬉しいし、私もその間には泊まれるだろうしね。今回もお互いが得な、いい商いになりそうだね」


「そ、そうでございますな。このヤツヤナ、感無量です。とりあえず今日は『銀の皿』にお泊まり下さい。以前もお泊まりいただいた星2つの、素晴らしい宿ですから」


 まずいぞ! 大商いは嬉しい。しかしオールインに泊まれる気はしない。とにかく今日は銀の皿に頑張ってもらおう。

 あそこは二つ星を得てからずっと、年間契約で部屋を一つキープしてるからな。

 

「やぁ、久しぶりだなオーナー。最高の部屋とサービスを頼むよ。大切なお客様なんだ」


「悪いがヤツヤナ、お前の大切なお客様をもてなす準備がうちには出来ていない。断るよ」


「なんだと! こっちは年間契約で先払いしているのだぞ! 契約違反だ。宿屋風情が調子に乗りおって」


「紙面にした契約でもないが、年始に先払いで貰った金額をそのまま返そう。それでお前との縁は終わりだ。俺も宿屋に誇りを持ってやっている。お前のようなやつに関わりたくない。出入り禁止だ」


「おい……おい!」


 そう言われて、宿屋の扉は閉まってしまった。

 なんと言う事だ、私が何をしたと言うのだ? この商いは失敗出来ないのに、歓待する事も出来ないなど一流の商人の名折れである。


「どうした? 何かあったのか?」


「いいえ、急に言いがかりをつけられて、年間契約を解除してきましてな。ヤドランの星にあぐらをかいて、商売人の流儀まで忘れて、嘆かわしい事です」


「で? 私は今日どこに泊まれるのだい?」


「お、お任せください。このヤツヤナまだまだ新鋭から古豪の宿まで、情報を持っております。すぐに手配しますのでご安心を」


 温厚な、ゴウケンに苛立ちが見える。

 すぐに一定以上のレベルの宿を見つけなければ。


「一部屋頼む。金は払うから最高の部屋を」


「断るよ」 「なっ!?」


「一部屋頼む。金は払うから最高の部屋を。大事なお客様なんだ」


「うちではヤツヤナさんに満足いただけるサービスは無理なので他をあたって下さい」


「一部屋……」


「帰れサーズの面汚しめ」 


「ゴウツク様! 泊まれる宿が見つかりました」


「何? どこの宿だ?」


「偽りの仮面です」


「馬鹿者!!」


 こんな調子で断られ続ける。

 一体何をした? 心当たりがまるで無い。

 今はコシギンチャに、もう一度オールインに頼みに行かせ、ヤツヤナ自身はもう一度銀の皿に行く。

 ゴウケンが散策に出ているうちになんとかせねば。


「何度来ても、うちの宿には泊めないよ。それどころか余程の物好きでも無いと、サーズの宿は貴様を泊めないだろう」


「何故だ。私達は上手くやっていたでは無いか。何故突然」


「うちでは、キングオークの肉も出せないし、年代物のフェアリーベルなんてまず無理だ。それを、靴底よりはマシな肉、小便臭いワインと言っていた。そんなグルメなお客様の大切な人を泊める準備はないよ。さあ商売の邪魔だから帰ってくれ」


「それで金も払わなかったんだもんな。そりゃあ宿屋に嫌われるわ」


「うるさい! 私はサーズ随一の商人ヤツヤナだ! あの星無しの宿が、気に入らなければ金は要らないと言ったんだ。私は悪く無い」


「そう言うことだったのだな。残念だが調べた通りか」


ガヤに対して思わずヤツヤナらしさ(・・・・・・・)が出た時に返ってきた声は怒気を含んだゴウケンの声だった。

 


 

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