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15話 釣り


 ……と言うわけでジャスティスの申し子、モンだ。今はベルドラにやって来ている。


「そう言うわけで、タツヤの旦那から手紙を預かって来ました」


「フーン、なるほど。相変わらず面白いこと考えるなー。いいよ! 今は依頼も無いし、やろうか。モンも手伝って貰うからね」


 中にどんな内容が書かれていたかは知らないが、スミス師匠が楽しそうな顔してるし、嫌な予感しかしねえ。

 斥候として一流の仕事をして、俺とは違うベクトルの男前なスミスさんはもう1人の師匠でもある。

 おっと忘れるところだった。俺はある事を思い出して人を探した。


「アメリアの姉さん、いやー奥さん? タツヤの旦那からお手紙です」


「奥さんって何よ! まだだから。ろくに会いにも来ないで、こんな手紙なんかで、あっ! ちょっとあんた、いつまでベルドラにいるの? 返事書くのと、あとプレゼント……いらないゴミであいつに渡すものがあるから帰る時言いなさいよ! 私はちょっと色々出かけて来るから」


「用事終わった? それじゃあ行こうか。どうせベルドラには後で帰ってくるし」


 気配を消して、いつから立っていたのかわからないスミス師匠が現れる。

 本当に赤き翼は化け物揃いだ。


「しかしアメリアにもかわいいとこあるよね。タツヤの国の言葉でツンデレって言うらしいけど」


「は、はぁ。それでどこへ?」


「王都へ。次期ヤドラン理事候補の、バリー男爵の対立候補のゴッド=タン子爵の事を調べに行く」


 俺がスミス師匠と別れてアメリアの姐さんと、会ってから1時間も立ってないのに、もうそこまで調べたのか? 化け物だ。


「情報収集力は斥候の必須だよ」


 口に出してない驚愕にまで相槌を打たないで欲しい。



 それから俺達は子爵に関する事を調べ上げた。

 人柄からヤドラン内での評判や実力、昨日抱いた女まで調べ上げた時には、この人どうかしてると思ったもんだ。

 スミス師匠は、当たり前のようにヤドランの調査員として、次に訪れる宿も突き止めた。

 俺達はその宿に向かって、食事を同じ時にする事にした。もちろん変装をして。


「あとは、僕がやるからモンは適当に相槌を打って、派手にリアクションしてくれればいいから」


「おう。まぁ、それなりにやらせて貰うよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私はゴッド=タン、ヤドランの調査員だ。私は今、最近王都の一つ手前の街で新しく出来た宿に来ている。

 家族経営でアットホームな中に丁寧な接客、美味しい料理は目を見張るものがある。☆を付けても良さそうな店だな。


「お客さん、どうですか? うちの料理は?」


「とても美味しいです。接客も丁寧だし、いい宿ですね」


「うーん照れるなー。でもうちの店も他の真似っ子なんです。前に泊まりに行った宿が凄すぎて、こんな宿やりたいねってお父さんとお母さんと話して頑張ってるんです! まだまだそこの宿には敵わないけど」


 ほう、そんな宿が。この店だって二つ星は確実だ。寝具やこの後の接客につつがなければ、ヤドラン規定で三つ星にも届くかもしれない。

 そんな宿が参考にした宿か。興味深いな。


「それはどこの」


「おいおい聞いたかよ! あのオールインがヤドランで☆無しだとよ」


「えぇ! マジかよ兄貴」


「あぁ、行商で色々回ったが、あんなすげぇ宿がファストにあった時は驚いたもんだ。それからすぐに、今度はサーズの都会志向に受け入れられる宿を作った。それが☆無しだとよ。ヤドランは何処に目をつけてんだか」


 私が、宿の娘さんに話を聞こうとすると、食事をしている2人組の商人からそんな話が聞こえて来た。

 ヤドランはの侮辱は少し苛つくが。


「あー! それ私も思いました。うちの宿が真似……参考にしたのもオールインなんですよ。この煮込みも感動してうちのお父さんが聞いたら作り方教えてくれたんですよ!」


「あそこの宿の人らしいね。言うんだろう。レシピのお金はいらないから、うちの宿の宣伝を君の街でもしておいてねって」


「なんでわかったんですか? 言われました。君の街にオールインを作ったらライバルだねとも言ってました。だからこの煮込みの名前も『オールインの味、ヘイホーの煮込み』っていうんですよ。可笑しいですよね。お父さんがそれだけは譲らないって」


「「キザだねー、あの男は」」


 なんと同じ宿だったのか。しかしオールインと言えば、最近私と同じ理事候補のバリー男爵が、訪れて酷評して来た宿では無いか。

 気になるなー。話を聞きたいなー。


「なんでも……バリー……ヤドラ」


 酒場に来る人が増えて来て、行商人の声が聞こえなくなって来たがとても気になる言葉が聞こえてくる。

 えーい! 今は私も調査員として変装して来ている。話に興味がある一般人のフリして聞きに行こう。

 ちなみに話し過ぎた娘さんは、お母さんの拳骨をもらい仕事に戻っている。悲しいけど減点だな。


「あの、私は……俺も宿に興味があるんだけど、さっき話してた話が聞こえちまって。良かったら同席しても?」


「商人からただで情報を得ようとはふてえ旦那だな」


「これはすまない。お嬢さん、このお二人に一杯ずつ飲み物と適当なつまみを」


「話がわかるじゃねぇか。しかし随分丁寧な喋り方をするねえ」


 危ない危ない。まだまだ私も未熟者だ。

 しかしこれでどうにか話が聞ける。


「まぁ俺もその時泊まってた、商人仲間から聞いたから大した話じゃねえんだけどよ。兄さんが知ってるか知らねえが、ヤドランっていうのは非公表で調査をするんだ。だがサーズの街の奴らはみんなヤドランが来たって知ってる」


「へぇ。それはなんで?」


「私はヤドランのゴウツク=バリー男爵だ。この宿は調査対象に選ばれた。スイートルームを開けろ! 他の客を追い出せ! 特別扱いしろー! って喚いてたらしいぜ」


「なっ?」


 そんな事がサーズの様な、他の街に話が回りやすい街で回っているのも由々しき自体だが、バリー氏の言動が本当なら問題だぞ。


「更に! 他のお客様が予約してるから一般の部屋なら案内出来ると言ったオーナーに、理事選で金がいるからといって裏メニューを渡して来たらしいんだ」


「裏メニュー?」


「あぁ、☆1つ金貨何枚、2つで金貨何枚ってな。金額までは知らねえがな。そうすればいちいちこんな宿に泊まる必要もないし、お前も☆が貰えて他の客を追い出すこともないし、お互いのためにどうだって、言ったんだと。」


「信じられん」


 バリー男爵はいささか過激な所と権力欲はあったが、そこまでの事をしてると言うのか? しかし非公開な理事選の事を一介の行商人が知っているなら信憑性が湧いてしまう。


「まぁ、それを断ったオールインには泊まらずバリー男爵はそのまま帰ったと言うわけだが、その後にあの酷評記事が出たので、今オールインは大変らしいがな」


「調査せずに書いた記事だと。あの酷評が? 色々ありがとう。これは追加の情報料だ」


 そう言って私はテーブルに金貨を2枚置き、明日の朝イチでサーズの街に行こうと決めた。

 ヤドランの影響力は大変なものだ。すぐに正しい調査をせねば。

 部屋に帰ろうとする、私に商人の片割れが耳打ちする。


「ありがとね。貴族の旦那。次からはもう少し上手く変装するんだよ」


「?!!」


 バレていたのか? 不謹慎だが余計にオールインに行くのが楽しみになった。鋭い洞察力を持つ商人が他人に対価を受けとって話せる情報など信憑性しか無いからな。



「これでうまくいったのかい、スミスさん?」


「あぁ。僕らはもう少し飲んでから帰ろうか」


 立ち去る子爵を見てから2人は依頼成功の祝杯をあげる。

 

 時を同じくしてバリー男爵の家に1通の手紙が届く。


 メニュー表(・・・・)のお忘れ物がございます。ものがものですので、ヤドラン本部に送ろうか迷っていて、ただいま取り置きしております。 オールイン総支配人

            タツヤ=ニノミヤ

お読みいただきありがとうございます。

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