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別視点 ディーノ

8/2に2話分を1話にくっつけました。

イケメンで品もあるけど、少し……かなり思い込みの激しい時もある獣人の話です。

別視点 ディーノ


 私はディーノ。獣人のハーフだ。ハーフという事で獣人の国ではキツイ差別にあい、国からは出て来た。

 王国では純粋な獣人よりは差別はされにくいが、それでもあるにはあった。そんな中で、全く亜人差別をしない貴族の主人に出会い、執事として長く使えていた。


 私の他にも亜人を雇うご主人様はゲテモノ食いなどと他の貴族から揶揄されていたが、私達を解雇する事を進言すると、いつもおどけてみせた。


「今の国王は人種の差別を否としている。私は王命に従っているだけだよ。それともお前達は大恩ある私を捨てるのかい」


 そう言われれば益々私達もご主人様が好きになった。とても充実した毎日が続いていたが、そんな幸せな日々は突然に終わりを告げる。

 お人好しのご主人様は、亜人排除派の貴族から疎まれホイホイ呼び出され付いて行き、嵌められて、一族ごと殺された。


 エルフや、若い獣人などは奴隷として売られた。私は速度に優れる獣人だったので逃げ切ることが出来た。

 ご主人様が嵌められた事を他の貴族に話しても、たかが獣人もどきのいう事と相手にされなかった。


 腹が減った。金も無く、ただ死んでいくだけなのかと虚しくなった。死に切れずにプライドを捨て、ゴミを漁って生き延びた。サーズは飲食店が多い事も幸いした。


 そんなある日、手提げの巾着を振り回している子供を見つけた。あれは金が入っているんじゃないか? しかし盗みなど……葛藤の末、私はひったくりをした。袋には少年の名前であろうか、大きくロキと刺繍がしてある。


「すまない、すまない、すまない」


 自分の心を軽くするためだけの謝罪を、独り言のように呟きながら、走った。


「ねぇ、そんなに謝るなら、俺の財布返してよ」


「!!」


 何だこの子供は? 黒豹の獣人の速度について来るだと? いくら私が純血では無いとはいえ子供に追い付かれるほどに落ちぶれてはいない筈だ。


「止まらないなら、止めるからね。痛いよ。俺知らないからね」


「はっ?」


 少年は速度を落とす事なく抜剣して、剣で私を斬り付ける。数回の斬撃を私は避けた。  

 避けた。そう思わされた。私が避けた先は逃げ道などない背中に壁を背負った場所だった。


 剣の腹で殴られる。腹に激痛が走る。逃げに徹してたとはいえ、獣人の身体能力を色濃く受け継いでいる、私をこんなにあっさり組み伏せるとは。


「人の物を盗っちゃいけないんだぞ!」


 横倒しにされた私に少年は馬乗りになり上から、細かいパンチを顔に向かって浴びせ続けて来る。何と手慣れている事か。大振りでもすればすぐにひっくり返して逃げられた物を。

 そんな事を考えながら私は意識を手放した。


 冷たい水が全身に掛かったのを感じる。体に残る痛みと共に私は目を覚ました。


「うっ……ここは?」


「ここは宿だよ。お前はこの子の財布を盗ろうとして、返り討ちにあった。それで命乞いして連れて来られた、で間違いない?」


 誰だコイツは? それよりも私は命乞いまでしたのか? 殴打の弾幕の中で、覚えていないが、本当にプライドまで手放したのだな。

 まぁ強者に仕えるのは獣人としては問題の無い事だ。これからもロキ様に仕えさせてもらおう。


 そう思っていた時期が私にもあった。

 ロキ様は私を置いて違う街に行ってしまうという。そして、私に与えられたのは、この弱そうな男の経営する宿の護衛。

 私は拒否した勿論拒否をした。


「ならば、私と立ち会え! 貴様がロキ様の言うような人物なら、従ってやってもいい。さぁ何処からでもかかってこい」


「にいちゃんは不遇職の支援術師(・・・・)だからあんまりやり過ぎるなよ」


 獣人国でも、その職業を授かればスポットライトを浴びることなど出来ないと言われる不遇職だ。

 


「支援術師ぃ! それならば戦うまでも無い。大方もっと小さい頃のロキ様相手に適当な事を教えて、師匠ヅラしてたんだろう。私はやはりロキ様についていきっ⁉︎」


 私が喋っている刹那、鉄杖が私の頭があった場所を横切る。間一髪、やられる所だった。後衛の動きでは無い。


「貴様、不意打ちとは卑怯だぞ!」


 かかってこいと? うん、私は確かに言った。そして男は宣言する。今から攻撃すると。馬鹿め、不意打ちで攻撃を当てられなかったものが、当てられるわけがって、速い!


 ギリギリで私は、攻撃を受け止める。

 認めよう。思い込みの悪いのは私の悪い癖だ。この男は戦士だ。深呼吸をして構える。


 次に私が目を覚ましたのは宿のベッドの上で体の痛みに加え、後頭部の痛みが追加された状態だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ましてすぐに、私を倒した男が来た。

 私はどのくらい眠っていたのだろうか?   

 私は結局殺されるのだろうか? 

 

「起きたって聞いたから、お前、2日も寝てたんだぜ。ほら飲めよ」


「あぁ……」


意図がわからない。恐らくこれはポーションだろう。一瞬毒を疑ったが、2日眠っていたならその間にいくらでも殺せる。そうして勢い込んで飲むと、顔の腫れが引いていき痛みが和らいだ。やはりポーションか。


「お前……その顔」


「あぁ、珍しいか? 私はハーフだからな……顔は人間とほとんど変わらん。いや失礼しましたご主人様、主人に向かって何という口の聞き方を」


「まず主人じゃ無いし、っていうか何で俺の周りは俺の事をそう呼びたがる。顔は人間っぽいのは気付いてたよ。そうじゃなくてお前イケメンだな」


「イケメン?」


「まぁそれはいい。お前に聞きたいことがある。立ち姿勢や、ロキに対しての敬語、それに流暢な王国の言葉、お前は何処で働いていた?」


 あの騒乱の中で随分と観察されたものだ。

しかしそんな事を聞いてどうするのだろう?

奴隷に売る時にでも、プラス材料にでもするのだろうか。


「とある貴族家の執事を長年やっていました。お家の騒動により仕事は無くなりましたが」


「そうか。次の質問だ正直に答えて欲しい。場合によっては俺にも考えがあるからね。盗みは何回やった?」


「初めてだ。それまではゴミを漁って凌いでいた」


「まぁ、お前の言う事を信じるしか無いんだが、良かったよ。盗みを沢山していたら、お金返しに行ったり、衛兵のところに行ったり面倒だったからな」


「は?」


 思わず間抜けな声が出た。

 考えがあるって、俺の罪への補償のこと? 

何言ってるんだこの人は? 私は我慢が出来なくなって聞いた。


「私はどうなるのでしょう?」


「あぁ。うちで働いてもらうよ。獣人のルールのこと言ってたし、俺の方が強いうちは、俺の宿や従業員に手を出さ無いだろう? 出したら殺すから」


 男から急に溢れ出た殺気を受けて、ブルリとしたが、それよりも働く? この男は正気なのか? 宿屋なんて人の多く来るところで、私を雇うなんて。

 それも含めての罰なのか? 差別されろと。

 どんな事があるにしろ仕事が貰えるというまた路上でゴミ漁りに戻るよりはと思うし、もとより武力で負けて、従うしか他に道は無い私は頷き、この宿で働く事になった。


ーー2日後


「いらっしゃいませ」


「うん、あなたは教えがいが無かったわ。良い方のもとで仕えてたのね」


 マリアさんに合格をもらい、バーに配属された。他の人が着るバーの、制服では無く執事服を仕立てられ、私はそれを着ている。


「うん、執事の動きって、バーにも活かされるね。後は飲み物とか覚えていって。接客はマリアに習ったものは残しつつ、お客様一人一人を旦那様、奥様だと思って、接客してみて。この世界でも執事カフェ的な感じは受けるのかな?」


「はぁ?」


 訳の分からない事を言われたが、指示通りにやってみた。男性客は「ウム」とか言って満更でも無い感じだ。問題は女性客だった。


「きゃー! お嬢様ですって。ディーノ貴方の作ったお酒が飲みたいわ、作って!」


「申し訳ありません。なにぶん見習いなもので、まだ?」


 私が困惑していると、タツヤ様が作ったカクテルを私に渡して来て、出す様にいう。うん、遊ばれてるなこれ。

 私がカクテルを置くと、また黄色い声援が上がる。


「執事カフェか……真剣に考えようかな? でも僕は宿屋だけで……このままだといろんなことに手を出す青年実業家になってしまう。そろそろ諦めるか……」


 またも訳のわからない事を呟いていたが、何か考えがあるのだろう。

 それにしても、獣人の私がこんなに差別なく受入れられるなんて。これも含めての執事? タツヤ様の策なのだろうか。


4日目


「着いたぜー! おい、そこのあんた、タツヤさんはいるかい。モンとキーが来たと伝えてくれないか?」


 山賊の様な、服装の男が後ろに全身甲冑姿の男を従えて来た。怪しい。

 私はこの宿の護衛も任されている、この様な悪人面した奴等をそのままタツヤ様に合わせていいものか? いや、もう少し聞いてからにしよう。


「失礼ですが、どう言ったご用件でした? タツヤ様は多忙な方なので。お約束はおありでしょうか?」


「あん? 手紙は出してるが、会う約束ってほどのもんはしてねぇな。まあ来れば会えると思ってたしな。なんたってあの人と俺らの仲だからよう」


 下卑た笑い(モンの普通の笑い方)を浮かべながら、言う文言は執事時代、旦那様にゆすり、たかりに来る輩と全く同じモノだ。

 こいつらを通しては行けない。


「申し訳ございませんが、あなた方を通す訳には行きません。お引き取りください」


「なんだよお前! 良いよ。勝手に探させてもらうぜ」


 二人組が、宿に入ろうとしたので私が通せんぼをすると、怒気を出して顔を真っ赤にします。


「何しやがる⁉︎」


「あなた方は、当宿に相応しくありません。お帰りください」


「てめえ! おいキー、この獣人やろうをやっちまうぞ」


 鎧の男も頷き、臨戦体制へ入りました。

 何があってもこの宿だけは、守ってみせる。それが私に与えられた仕事だから。


「宿の入口で、何をしてるんだ!! ん? モンと……キーか? お帰り。どうしたの?」


「あぁ聞いてくれよ、タツヤの兄さん、この獣人野郎が、俺たちがここに相応しく無いから、入れてくれ無いしあんたのことも呼んでくれなかったんだよ」


「ディーノ? どう言うこと?」


 底冷えする様な声で私の名前を呼ぶタツヤ様に恐怖を感じます。説明したところで、私の失態なのは確定ですが、一応説明しておきましょう。


「申し訳ございません。お二人の外見や言動が余りにも執事の時に見た、ゆすりたかりの輩と酷似していたモノで、そう言ったものと勘違いしてしまいまして」


「ブフッ! ンンッ。思い込みの激しいのは初対面から、思っていたけど本当に気を付けてね。まぁ、モンとキーも、これからうちで働いてもらうし、服装とか言動を変えて行こうか」


 吹き出した後、咳払いしてタツヤ様が言うと、被害者であるモンさんとキーさんは府に落ちない顔をしていた。

 私も前の仕事でも言われていた欠点の改善に早めに努めようと思う。

 次の日からモンさんとキーさんの悲鳴の様な声が聞こえたが、気にしないことにした。


「「いらっしゃいませ!」」


「「ありがとうございます」」


働き始めて5日目、ここに来てから丁度1週間が立った。ロキ様が旅立つ日が来た。


「ディーノもみんなの言う事聞いて、俺の代わりにここを守ってね、ついでにモンとキーも」


「ついでとは何だ! お前もオウルさんの地獄のトレーニングで苦しむがいい。ベルドラは甘くねーぞ!」


「はい、お任せ下さいロキ様。タツヤ様や、皆様のお役に立てるようにこのディーノ、粉骨砕身に努めます」


 そうロキ様に誓い、一通りの挨拶をして、ロキ様は旅立って行った。


「ディーノ様こっち向いて!」


「私のディーノ、私にオレンジジュースを持って来て」


 最近の悩みは、女性客が増えすぎていることによりタツヤ様の提唱する、静かなバーが出来ていないこと。

 私が手渡しできる様に、その女性客たちは、私がまだあまり作れないカクテルを頼まず、注ぐのみで出来る、単価の低いものばかりが選ばれる事だ。


 私はディーノ、獣人と人間のハーフ。

 オールインの護衛にして、タツヤ様とロキ様の忠実な部下である。夢は今まで無かったが、今は人の心に寄り添うバーテンダーになりたいと思っている。


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