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ヘイホーとマリア6

3章は遅くて7月5日までに開始予定です。


どこに行くのかしら?馬車まで借りてるわ。とりあえず、エスコートされてみましょう。彼がこんな事をするのは初めてなのだから。


どこに行くのかと思えば、私達はファストの町を観光するように周りました。あぁ、この町ともお別れなのかしら?そうよね。貴族関係は来なかったけど、きっと彼の求める料理の道はここには無い。それでも、長く住んだ町だし、こうやって周ってくれているのでしょう。


「いっそここに残ろうかしら」


「ん?何か言ったか?退屈じゃないか?」


「なんでも無いわ。改めて色々見て、良い町だったなぁと思っただけよ」


「そうかぁ!」


彼の顔が明るくなる。何故かしら?この町を離れるのにそこを褒めて明るくなるなんて。何も無い田舎の町だけど、騎士も来ないし、しがらみもない、本当に心を落ち着かせて過ごせる町だったわ。


小さな町なので昼食をとり、夕方には大体の思い出の場所は回り終えてしまいました。ヘイホーはムズムズとしてます。旅から旅の生活だって嫌いじゃないから、早く言ってくれればいいのに。いつ離れるのかしら?明後日パン屋のオバさんに、パンの焼き方を教わるはずだったのよね。その後でもいいかしら?


「着いたぞマリアここで、降りよう」


「着いた?あら、こんな所に新しい建物が立つのね。何が出来るのかしら?普通の家にしては大きいわよね?」


「……宿屋だ」


「へぇ、よく知ってるわね。ってヘイホー、なんで入っていくの?工事中できっと入ったら怒られちゃうわよ」


工事中の幕の中に入って行くと扉がありガチャリと音を立ててヘイホーが鍵を開ける。ランプに灯りをつけて中に入ると綺麗な厨房が姿を表した。


「ちょっと待っててくれ」


「えっ?あなた?何をしているの?」


馬車の中から食材を取り出して、ヘイホーは何か料理を作り始めました。何処に何があるのか解ってるみたいにどんどんと料理を進めていく。彼の店?でも彼の店なら食事処にするはずよね?宿屋って言ってたし。


「あっ……」


そんな事を思っていると、懐かしい匂いが厨房から立ち込めてきました。これは、きっとあの時の匂い。


「ほい、串焼きだ。食ってくれ」


「久しぶりだわ。この味の串焼き。ある時から全然お店でも出さなくなったんだもの。私は店で出そうよって言うのに」


「これは、マリアと出会った時の特別な料理だからな。お前専用のスペシャリテ(特別な一皿)にしたかったんだよ。」


「えっ⁉︎」


柄にもない事を彼が言う。それで出さなくなったの?そんな事今まで一度も言わなかったのに。私は生娘のように顔が熱くなるのを感じる。


「なぁ、マリアこの町でずっと俺と宿をやらないか?俺が料理を作ってマリアが接客をすればきっと上手くいくと思うんだ。この町なら騎士も来ないと思うし、今迄貯めた金もあるしな。勝手に場所を決めたのは悪かったけど、宿の方はマリアの好きにして良いしそっちは工事も待ってもらってるんだそれで……」


「ヘイホー、それって……」


私が泣きそうな顔でいると彼はたじろぎ、それでも背筋を伸ばし言ってくれました。


「俺と一緒になってくれ。この町で幸せに暮らそう」


「私は訳ありの面倒くさい女ですよ。貴方に迷惑をかけるかも知れないわ」


「構わない。マリア以外の女と一緒になる事はこの先無いから。俺を一生独身にするつもりか?」


「もう!大好きよ!ヘイホー」


そう言った瞬間キツく強く抱き締められて、私も彼を抱き締め返しました。あの日、絶望したあの日、こんな幸せが訪れるなんて想いもしなかった。この幸せを胸に生きていこうと思いました。


「そうだ!もう少し付き合ってくれ、見せたいものがあるんだ」


「えっ?なによ?」


私は馬車に戻り、ヘイホーが御者をする。少しして窓から顔を出すと、森の中をはしっている。ここは何処でしょう?これ以上何があるのかしら?私は彼にプロポーズされたんだよね。そんな事を思っていると馬車が止まった。


「お嬢様、お手をどうぞ」


「あら、ありがとう御者さん」


私達はそんなふうにふざけて、彼の手を取り馬車から降りた。そこには小さな川が流れ、その先には綺麗な池がある。月の光が差し込んでいて水辺には花も咲いている。何か光る小さな物が無数に空を舞い、とても幻想的な場所だ。


「ここは?」


「名付けてマリアガーデンだ。俺には高級な洋服も綺麗な宝石も買ってやれねえ。伯爵家のお嬢様に差し出すような庭じゃねえかも知れないが。俺の精一杯だ。受け取ってくれ」


「グスッ……こんな素敵なプレゼント貰ったことないよ。ありがとうヘイホー。この場所も貴方とのこれからも絶対に大切にします。愛してるわヘイホー。世界中の誰よりも。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ちゃん……父ちゃん、母ちゃん何、2人ともボーッとしてるんだよ」


「あらヘイポー。ちょっと昔を思い出しててね。きっと父ちゃんもそうよ」


「ふーん、ねぇ母ちゃん、なんで父ちゃんと結婚したの?おいらの友達もみんな言うんだ。母ちゃんは凄え美人なのになんであんな山賊と結婚したの?って」


あら、山賊なんてあだ名で呼ばれてるのね。確かにお腹は出たし、童顔だったから髭をはやしたら山賊みたいにはなってるわね。


「うーん、確かに今は山賊みたいだけど、昔は格好良かったのよ!私も父ちゃんがいなきゃ生きて行けないって位に」


「うっそだー」


「嘘じゃないわ。今でもふとした時に昔みたいにカッコよく見える時だってあるんだから。今でも私は父ちゃん……ヘイホーが大好きよ。ヘイポーも父ちゃんのこと好きでしょ?」


「好きだけど……格好良くは見えないよ。どんな時に格好良く見えるの?」


息子に散々に言われ、怒りそうなところを私に惚気られ、なんとも言えない表情になっている彼を見ながら私は言いました。


「そうね。沢山あるけれど……串焼きを焼いてる時なんかは特にね」


串焼き?とポカンとする息子と、顔を赤くするヘイホーを眺め、マリアは悪戯に笑うのであった。

「ねぇ、貴方なら料理屋でも良かったのに、何で宿屋にしたの?」


「料理屋だと俺1人でも出来るけど、宿屋はマリアがいないとできないだろ。」


入れ損ねた言葉入れておきます。



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