第二話 悪い人間はどこにでもいるもので。
ドワーフの職人に会い改装を依頼すると10日ほどで、完了すると言われた。うーん、流石異世界。
「さてと行こうか」
「人集めですねご主人様。しかし最初から改装なんてして良かったんですかい?」
鳥肌が立ち、俺はヘイホーの頭に拳骨を落とす。
「お前の尻拭いが先だよ。人集めは後からでも良い。それと本当に気持ち悪いから頼むからご主人様はやめて下さい」
ヘイホーがマリアさんの病気で半ば宿を閉めていた時、雇っていた3人の従業員をなんの保証もなしに放置した。ホールが1人、受付が1人、厨房が1人といった具合だ。3人とも新しく出来たこの今の町1番の宿で働いているという。
看板には狐狸とありそこからまさにぴったりな、狐顔の胡散臭い男が出て来た。
「これはヘイホーさんどうされました?もしかして奥方が亡くなりましたか?とても悲しいです。あぁそれでも貸したお金は返して下さいね」
「てめぇ!コンマン!っく‼︎」
コンマンという男に食ってかかろうとする、ヘイホーの首根っこを掴み、俺は自己紹介をする。って言うか金を借りたたんだな。言っておけよ。
「ヘイホー、失礼ですよ。貴方のことを助けてくれた方に。あぁ、申し遅れました。僕はタツヤ=ニノミヤと言うものでして、ヘイホーから宿を買い取ったものです。今日はご同業にご挨拶と、お詫びに来ました」
ヘイホーを見て、促すと。
「コンマンさん熱くなってすまなかった。それでオルテカとカイアとマシューに会わせて貰いたい。金も返す」
「宿を買った?私が使う気でいたんですがね。それと3人に今更何のようですか?返してくれと言われても返しませんよ。貴方が捨てて露頭に迷うところを私が拾ったんですから。3人ともうちの貴重な戦力ですから」
「そんなあからさまな引き抜きはしませんよよ。新しく宿をやるにあたって、お詫びをしたいとヘイホーが言いましてね
カットインして来た、達也に面白くなさそうな顔で達也を睨んだ後ニヤリと嫌らしい顔でコンマンが返事をする。
「わかりました。今呼んできましょう。借用書も持って来ますね」
3人は顔を出した。ヘイホーが頭を下げる。
「顔をあげて下さい。俺たちは大将のこと恨んだりしていません」
「いや、本当にすまなかった。いくらマリアが病気でも開店から一緒に働いてくれたお前らの事を考えるべきだった。これは少ないが」
ヘイホーが1人ずつに金貨を5枚ずつ渡した。田舎の街なので物価はかなり安く、退職金の概念がないこの世界ではやめた人に渡す金としては、かなりの大金と言える。
「今まで有難うな。これからはライバルになるけど俺の主人もなかなかな物だ。お互い頑張ろう」
3人は感謝し涙を浮かべて、頭を下げた。まぁ敵味方って言っても戦争じゃないんだから、暇を作って一緒に飲みにでも行けばいいんだ。
「それとコンマン、金貨30枚本当に助かった。この金がなければポーションも買えなかった。マリアが生き延びたのはあんたのおかげの部分もある。本当にありがとう。これからは良きライバルとしてこの町を盛り上げよう」
「はい、確かに。お役に立てて良かったですよ。しかし100枚ばかり金貨が足りませんねぇ。このままでは貴方の宿を貰わなければならない」
コンマンがニヤリとして、借用書の裏を見せてくる。
そこには『十日毎に金貨100枚の利子とし、払えない場合は宿をもらい受ける』といった内容が書かれていた。日付は7日前で、ヘイホーのサインも入っている。
「なっ、サインした時にはそんな事言ってなかったじゃねーか!念の為にって言うから裏にもサインしたが、そもそも裏には何も書いてなかったぞ」
「最初から書いてありましたよ。まぁ何も書いてない所にサインをするのも無用心ですね。払えないなら約束通り宿をもらいますよ。どこかの誰かが休んでいたから、うちは連日満室で部屋が足りなかったんですよ。あなたの宿じゃ金貨130枚には足りませんが、このコンマン涙を飲みましょう」
やられたな。前世でも見た。捨て印詐欺ってやつだ。俺は平和にただ宿屋をやりたかっただけなのに頭にくる。ヘイホーが狼狽えてこっちを見てくる。
ドサっと床に布袋が落ちる音がした。
「失礼、落としてしまいまして。コンマンさん拾っていただけますか?」
コンマンの足元に投げた布袋を彼は怪訝に思いながら拾った。ジャラジャラと音が鳴り、ずしっとして重みがある。
「受け取っていただけでよかったです。受け取っていないから宿を寄越せとでも言われたらどうしようかと思いましたよ。もちろんコンマンさんがそんな方とは思いませんが、改装も始まっていますしね」
「はぁ?」
訳のわからない事を言う達也が投げた、布袋を確認すると袋一杯に金貨が入っていた。
「しめて金貨130枚。同じ宿屋として仲良くやりたかったですが叶いそうにありませんので、失礼します」
「なっ!なにを部外者が勝手な……」
「オーナーは部外者ではありませんよ」
素早くコンマンの持つ借用書を抜き取り背中を向けて達也が立ち去る。慌てて申し訳なさそうにする、ヘイホーが付いてきた。
頭に来た、あの狐目絶対にぶっ潰す。そう誓いながら達也は近隣の村に向かった。
平和に理想の宿が作りたかったなー。




