あくまで遊び
処女作になります。
拙く見るに堪えない子達ですが 暖かく見守っていただけたら幸いです。
「わたしは幽霊である」
といっても体が透けて見える訳ではない。そう断言できるほど、頭の中で彼らと自分のイメージを重ねることに成功している、ということ。この通り筆を持つこともできるし、風の冷たさも感じることができる。
❔
椅子に座り目を閉じてから15分は経過しただろうか。30度を超える残暑と聞かされた際は思わず家を出るのを躊躇ったが、今日はそのおかげで邪魔者が現れる気配もない。閉じた目の前にある白いキャンパスが静寂と合わさり、自身も指の先まで薄れていく錯覚にまで陥った気がする。
「間違いなく今だ」
ベストコンディションを確信し ゆっくりと両目を見開いていく。
❔
左目が、次に右目が光を吸い込む。そして真っ先に映り込むであろう、白いキャンパス。などではなく横からのぞき込む顔。
「......................顔!!!?」
思わず叫んでしまった。バランスを崩し椅子から転げ落ちそうになるも、なんとかギリギリのところで踏ん張ることができた。端から見ればなんとも情けない光景だが今はどうでもいい。頭が回りだした。集中しすぎて本物の幽霊でも生み出してしまったのか!?
「..........っふ.......ん...ふふ...ふ..」
なにやら気持ちの悪い言語?を漏らし始めた。いや、違う。笑いを堪えているのか。そこまで解析を終えると、頭も理解が追いついた。
「こいつ......」
「あははははっははは!」
「今度は何の用ですか。返答次第では本日から出禁にしますよ」
「はぁー..まって.....ダメだ...クフ..ふふふ..ヒィイ..」
「相変わらず気持ち悪いですね。そもそもいつから居たんですか。全くもう」
一息のついでに少し乱れたシャツを直す。汗で少し濡れていた。
「いやぁ想像してごらん?可愛い後輩ちゃんがね、こんな暑い中今日も一人で精進してる。色々考えちゃうと思わない?いや、思わないわけわけがない。」
「何故に反語。お気遣いどうも」
「そんで来てみたらすごい濡れてるじゃん?拭いたげよっかなって思ったらお目覚めってワケ。」
「え、キモ。」
「拭いてほしい?やっぱり顔から?」
「出禁で。」
美術部の人員は2名。先輩と私、以上。こんな変人でも必然的に2年生のため部長。先ほどの発言をもって変態にすべきか検討する余地もあるが、これでも一つ年上なのだから摩訶不思議である。
それでも、心配して来てくれたのは事実なのだろう。多分。
「嘘うそウソだって。これでも部長なんだから、ここに来るのは当然だろ?」
「その様子じゃコンビニ寄ったついで、ってところでしょう。私は疲れたんで休みますよ。」
「そんな後輩ちゃんに速報です!良いニュースと悪いニュースとお高めのアイスがあります。」
❔
「やっぱりコンビニ帰りじゃないですか。抹茶で。」
?
先輩の頭上の「❔」が、半透明から緑に、ほんの少しだけ変化した。先輩は笑っている。
人の頭の上に現れる「!」と「?」は私にだけ見る事ができる。「驚く」や「何故」の情報が、感情を伴い最も分かりやすい形で可視化される。友人と会話を興じればお互いの「!」は優しく輝き、臨時の小テストで教室はブルーな「?」で溢れかえる。
今日も先輩は笑う。頭に半透明の「❔」を引っ提げて、明るく生気を振りまいている。何故だ、なにが不思議なんだ。何を考えているんだこの男は。
「先輩、いま何考えてます?」
「君のことだよ?」
ノータイムでの返答。やっぱりキモい。いっそピンクの「!」でも浮かべてくれればまだ安心するのに。不思議なのはこっちの方だ。口から出る言葉と行動、その全てと相反して頭上の「❔」は不気味に佇む。今日も、昨日も、多分明日も。
「アイスの好みってさ、なんとなくその人に似てる気がしてね」
「早くしないと溶けちゃうよ?」
抹茶に免じて今日のところは許してやろう。溶けかけの塊をプラスチック製スプーンで3度かき回してから、口に含む。甘すぎずバランスの取れたコク。やはり苦みあってこそのアイスである。口の中で味わう苦みが一番うまい。人生って感じがする。
ふと、先輩に目を向け、バッチリ目が合ってしまう。もしかしてずっと見られていたのか。だとしたら今日は体に穴が開いてそうだ。そうなったのはふと、先の言葉を思い出したからだ。『アイスの好みと人は似る』だったか?彼は、先輩は抹茶じゃない方のチョコ味を手にしていた。私は抹茶もチョコも好きだから、彼の趣向に合わせた物は恐らく入っていない。この場でこの男を推し量るのは無理そうだ。
「苦そうな人生で悪かったですね」
仕返しついでに毒づき、頭の上をちらっと伺う。
「君らしくて悪くない」
「?」は半透明に戻っていた。彼が一人で食べるアイスは何味なのだろうか。卒業までに知る事ができれば。そんな考えがよぎり思わず頭を横に振った。私はただこの退屈を、胸に募る屈辱を晴らしたいだけ。水希は、何かを誤魔化すかの様に苦い最後の一口を放り込んだ。