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1-2

 数十分後、二人は映画館の中でスクリーンに映し出される映像に目を向けていた。

 薄暗い室内にたくさんの席が並ぶ光景はどこか現実味に欠ける光景でもあり、少しでも気を抜いてしまえば大迫力の音量も相まって映画の中へと引きずり込まれてしまいそうになるシチュエーションだった。

 二人のほかにもたくさんの人が熱を上げるように見上げているスクリーンだったが、そんな用意された作り物を楽しむ空間で恋愛映画を見ながらも、サラはどこか遠くの――、それこそ自分には関係ないであろう物を見るかのように見ていた。

 ――思ってたよりも単純な構成なのね。

 場面はそろそろ映画も終盤に差し掛かろうかという頃だろうか。主人公と思われる青年が少女の病気を知ってもなお、少女に寄り添う覚悟を決める、いわば山場のシーンだった。

『どんな時でも、君の傍に居るよ』

 サラの耳に、そんなヒロインを思う主人公の言葉が流れてきて、眉を寄せていぶかしむように見ていた。

 内容が退屈、というわけではなかった。

 ただ、あまり感情的になるほど感情移入が出来なかった、というのがサラにとっては大きかった。男性はなよなよとしているという印象があるサラにとって、作中では男性が格好良く映るはずの恋愛映画は、単純にどうしてそういう気持ちになることが出来るのかと疑問が先に浮かび上がってしまうのだ。

 隣の男性のことはさておいて。

 なによりも、サラ自身はこういった創作物に対してどういった作りをしていて、流れを意識しているかを重要視しているため、感情移入の有無に関してを言えば基本的に問うてないというのもある。

 面白いとは思うのだ。しっかりと構成もできていて、それこそ今の終盤の場面に至るまで、不自然さよりも主人公がどう思ったのかという感情表現が上手くて、演出家の気合いの入り方が分かる。安易にキャラクターを使うことなく、シチュエーションで盛り上げている場面も多々見られる。恋愛映画で語るのであればステレオを踏まえた良作と言えるだろう。

 それに加えて、サラとしては男性がどうしてそこまで格好良く思えるように描けるのかという単純な好奇心もあるのだ。格好良く描ける、ということは相応の理想を持っているという事だ。ならば、作成者の理想が、もしくは多くの人がそう思えるように作っているはず。その事実の方がサラとしては興味深かったし、なによりも人を引き付けるのが面白いとサラは感じていた。

 ――男性向けとは思えないけれど。

 サラはこれを誘った彼のことを思い出して笑いそうになっていることに気づいて、出来るだけ静かに口元を歪めた。

 もちろん、すべての男性が女性向けというジャンルが好きにならないということではないのは自覚していたし、隣に居る彼もまたそういう物が好きだと知っていたからだ。

 そう思っていた自分の内心につられたかのようにサラが横に視線を向け、映画の映像が光源になっている友人の顔を見ていた。

 彼女の視線を追うと、口元をきゅっと引き結びとても真剣に映画の内容に熱を向けている揺音の顔がそこにあった。

 実はこの映画が始まった時から、サラの視線はちょくちょく揺音の方を向いていた。

 より好奇心がわく対象に人は目移りする。映画は退屈ではない。そうは思うものの最初から隣でリアクションする彼の姿の方がサラにとっては面白く、自然とサラの瞳は彼の姿を追い始めていた。

 よほど真剣に内容を見ているのであろう、殆ど拳になっている手を膝の上に乗せてスカートの裾をほんの少し手繰り寄せていた。身を寄せ合うシーンでは目が丸くなり、濡れ場のシーンでははわはわとしてみたり、話がクライマックスに近くなればそうしてこの映画のお話しの中にのめり込んでいく。

 ――これでも男、なんだよね。

 意識をしてみると、とても不思議な気持ちがサラの中でもやもやと浮かんだ。

 彼の所作や服装はどこをとっても男性とは言い難い――否、むしろより大きく、目立つようにする癖でもついているのか、女性よりも女性らしさ、というものが目立っていた。テレビのコマーシャルで目にするような、そう言った女性らしさだ。

 もちろん、そんな恰好や所作をしていても、首元は男性特有の筋肉のつき方をしているし、手だって白魚のように綺麗な手をしているが、筋が張っていて確かに男性の手そのものなのだ。

 まつ毛は……、揺音がかけている伊達眼鏡のレンズに当たってしまうくらいには長い。瞳も……、女子に負けないくらいには大きい。

 確かによくよく見れば男性。……ではあるように見えなくもない。むしろ、本来の――生物学的な話をすれば彼は男性に違いないはずなのだ。

 映画を後目にサラはなんだかイライラしてきてしまう。

 ――なんか、腹立つ。

 どうしてこんなに女性の格好が似合っているのだろうか。どうしてこんなに違和感なく着こなせるのか。どうして……、私よりも。

 そこまで考えて自嘲で歪んだ唇に気が付いて、サラは映画に視線を戻した。

 ――私よりも、か。

 自分が自然とその思考をしていた事に怒りを覚え、サラは誰にも見えないように拳を握りしめた。

 どうしたって自分が女っぽくないというコンプレックスを感じてしまう。できるだけ学校ではそのような態度が出て来ないよう抑えているのだが、昔からサラの心の中にある自分の激情的な感情を抑えることが好きではないのだ。

 らしくあれ、という呪いの言葉にいつまでも従う事への怒りと、それすらも取っ払う事の出来ない自分の意思の弱さに。

 揺音のように女の子のような恰好をしてみたいというのは願望だ。家の事情もあるけれど、中途半端にコンプレックスを抱いてしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

 それを目の前で簡単にされてしまう、それも男性にされてしまった日には腹が立たないわけがなかった。

 サラは頭を振って彼と映画から視線を外して背もたれに体重を預けた。

 ――勝手に腹を立てて、馬鹿みたいだ。

 これではせっかく誘ってくれた揺音に申し訳が立たないではないか。

 結局、映画の内容は頭に入らなかった。

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