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スキル『射撃管制』で異世界無双~ハズレの役立たずと追い出されたので隣の小国に寝返ります~  作者: スギタジュン
終章 ふたり

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第44話 すれちがい

 祝賀会への参加者は多い。

 会場がいくつも設けられていた。


 俺はシャンテルたちに引かれて、あっちこっちを回っている。

 酒飲みコンビのシャンテルとデラは相変わらずだ。

 これまで直接話をしたことがなかった人たちにもいろいろと声をかけられて、たくさん食べさせられ、飲まされた。


 少し疲れてしまった俺は、会場の隅の方に寄る。

 冷たい水を口に含み、ふうっと息をついた。


「ナオヤ殿、こんなところで一人か」

「あれ、シャンテルと一緒だったんじゃ?」


 ダークエルフのデラがいつの間にかそばに寄っていた。


「シャンテル隊長につきあってると身が持たないのでな。少し休憩だ」

「はは、そうか……俺もだ」

「どうしたのだ? なにかしんみりしてないか? 戦勝の宴なんだからもっと笑って喜べばいい」


 たしかにそうなんだけど……

 酔いが回るにつれて戦いのことを思い返してしまった。

 勝つには勝ったけど、犠牲も少なくなかった。


「思うんだ。もっとましな作戦はなかったか? 準備は十分だったか? 不手際が多すぎやしなかったかって」

「ナオヤ殿、落ち込む必要はないぞ。そんな顔をしないでほしい。下を向かないでほしい。あなたがいなかったら、死んだ者の数と生き残った者の数が入れ替わっていたはずだ。あなたはよくやった、もっと胸をはってくれ」

「そ、そうか」


 デラに慰められるとは思いもしなかったけど、そう言ってもらえて少し気が楽になった。


「さあ、姫様があそこで待っているぞ。行ってくるがいい」


 デラの指さす方向にアリッサの姿を捉えた。

 アリッサもこちらを認めたようで、少し困惑した顔をしている。

 が、俺は意を決してアリッサに近づく。


「あ、あのアリッサ、今晩はいい月だよ。ちょっとそこまで出てみない?」


 アリッサがコクッと頷いた。


 空中回廊に出ると、ひんやりした風があたる。火照った体に心地いい。

 灯火があたりを幻想的に照らしている。

 俺は空中回廊の手すりに寄りかかった。


「ナオヤさん……なにかお話があるとブリアナから聞いています」

「う、うん。最近じっくり話す機会もなくて……アリッサに避けられているのは分かっているんだけど、お別れのまえにこれを渡しておきたくて……」

「……お別れ……やっぱり……」


 俯くアリッサの表情はよく見えないけど、なんだか泣きそうな感じだ。

 俺は瑠璃色るりいろに輝く宝玉ほうぎょくめられた指輪をすっと差し出す。


「ナオヤさん、こ、これは?」

「知り合いの職人さんに作ってもらったんだ」

「そうじゃなくて、これは、もしかして……結晶核では?」

「そうだよ。よく分かったね」


 アリッサの顔が驚愕に染まる。


「ど、どうして、そんなことを……取り出してしまったんですか? なんでそんなことしたんですか!? わたしはナオヤさんが元の世界に帰りたいのだと思っていましたよ」

「ええ? 帰りたいなんて、そんなこと一言もいった覚えはないけど?」

「何も言わないから……黙っているからいけないんです!」

「うっ、は、はい、ごめんなさい」


 アリッサのこんなに怒った顔は初めて見るかもしれない……

 どうしよう……


「ナオヤさん、いつですか? 結晶核はいつから、ないんですか?」

「遠征の前日かな……ブリアナに頼んで取り出してもらったんだよ」

「そんな前から……あっ、あの時ですね。ブリアナの部屋から出てきたとき……どうして一言もいってくれなかったのです?」

「ご、ごめん、心配かけたくなくて」

「バカ!」


 想像以上に取り乱したアリッサが俺の胸を叩き続けた。


「うぐっ……全然知りませんでした。わたしたちのために帰還の手段を失っていただなんて……ナオヤさんのバカ。わたしはナオヤさんとお別れするのがつらくて、ずっと顔をあわせられなかったのに……」


 彼女に避けられてたわけじゃなかったのか……。

 それならよかった。


「あのう……ええと、アリッサ。それで、俺は明日、この国を発とうと思っている」

「えっ? どうして? そんなこと聞いてませんよ!?」

「さっき、ブリアナに話したばかりなので……王室入りも断った。ごめん、もっと早く言えばよかったね」

「…………」


 アリッサが考え込むように黙り込んでしまった。

 でも、仕方ないじゃないか……

 話そうにも俺を遠ざけていたのはアリッサの方だ。

 そうだ、俺は悪くない。


「ナオヤさん!」

「は、はい。すみません」


 つい謝ってしまった。


「それは指輪ですよね」

「う、うん、みたとおり、そうだよ」


 なにか気になることでもあるのかな?


「この瑠璃色の指輪を渡す相手はわたしで間違いないですね?」

「そ、そうだよ。機嫌を直してくれると嬉しいかな……はは」


 アリッサの瑠璃色の瞳にじっと見つめられる。


「もう一度確認しますよ。ブリアナではなく、このわたしに贈ってくれるということで合ってますよね?」

「う、うん、はじめからアリッサにあげるつもりだったよ。」

「そ、そうですか……」


 アリッサは言葉を切ってから大きな声で後をつづけた。


「わたしはナオヤさんの心よりの贈り物をお受けします。嵌めていただけますか?」

「は、はい」


 俺は、アリッサが差し出した指に指輪をそっと嵌めた。


「ありがとう、ナオヤさん、終生大事にします」


 なんだかよく分からないけど、アリッサは嬉しそうにしている。

 一応は仲直りできたのかもしれない。


「じゃあ、ナオヤさん。わたしは急ぎ片付けなくてはならないことがありますので、これで失礼します。宴は続きますのでどうか飲みすぎないように……おやすみなさい!」

「えっ? あの……」


 彼女は俺の言葉など聞かずに、風のように去っていった。

 一度だけ振り向いて何か叫んだ。バカとかなんとか聞こえた。


 うん、わけがわからない。

 仲直りできたと思ったんだけど……

 酔いの回った頭でいくら考えてみても、彼女の行動は分からなかった。


 夜の樹海に、宴の声がいつまでも響く。


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