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スキル『射撃管制』で異世界無双~ハズレの役立たずと追い出されたので隣の小国に寝返ります~  作者: スギタジュン
第四章 帝国

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第39話 総攻撃(1)

 突如、敵の交渉団が牙をむく。

 団員の一人が俺を目掛けて鋭い暗器あんきを投げつけた。


 カキン!


 しかし……針型暗器は命中しない。

 俺が振るった短剣で弾かれた暗器は足元の地面に突き刺さった。


 やはり、奴らの狙いは俺の結晶核。

 転移エネルギーを強制解放するのが目的だった。


 初撃の失敗で焦る敵。二投目、三投目も失敗に終わる。

 スキルを使うまでもなく、針型暗器の軌道は初めから見当がついていた。奴らが狙っているのは俺の太腿の内側。


 業を煮やしたローブの男がなりふり構わず叫ぶ。


「何をしている! さっさと核を破壊しろ! 手を止めるな!」


 敵は結晶核を刺突しようと懸命だ。

 しかし、シャンテルが果敢に飛びかかり、剣を振って応戦する。

 こちらの護衛たちも前に出て防御を固めた。

 ローブの男がせっつくが、狙いが読まれているのだからうまくいくはずがない。


 少し横に外れて立ち尽くす敵交渉団の責任者をじっとみつめる俺。


「宰相殿、これはどういうことですか? 停戦協定はどこへ? 破棄するにしてもそれなりの手続きが必要でしょう?」

「サ、サイカ殿、どうか気を静めて下さい」

「俺は落ち着いていますよ……帝国の回答、確かに受け取りました……では――」


 意気消沈する帝国宰相。

 しかし、もう彼に構っている暇はない。


 ローブの男が自軍に何か合図を送っている。

 城壁上に弓兵がズラリと並んだ。

 二千に近い敵弓兵が矢をつがえたのが見え、背筋が寒くなった。


「ナオヤ、弓兵の斉射が来るぞ」

「下手だといいな」

「そんなわけなかろう、帝国の最精鋭だ」

「わ、わかってる。言ってみただけだよ」


 敵交渉団が後退をはじめて遠のいていく。

 宰相、織田、磯野も味方に腕を引かれて離れていった。


 交渉は物別れに終わり、王国帝国の双方は再び交戦状態に突入。

 敵弓兵が射撃を開始する。矢の束が宙を駆けた。

 さすがにうまい。


「ナオヤ、来たぞ!」

「シャンテル、味方の援護射撃がもうすぐ届く。それまでしのぐぞ」


 射撃管制スキルの効果で矢の軌道が見えるので、仲間に当たりそうなのだけをシャンテルと俺とで叩き落した。


「カン、カン」


 数秒後、王国射撃部隊からの矢玉が飛来した。

 迎撃成功。空中で敵の矢玉を叩き落した。


 チラと植物使いたちを見遣ると、彼女たちは大きくうなづいた。

 どうやら間に合ったみたいだ。

 足元近くの地面から伝導ヅタの若い枝蔓がはい出ている。俺はそれを足に絡みつけた。


 このツタの先は城壁上に連なる敵弓兵に接している。

 あとは、敵弓兵と俺との間に伝導ヅタに沿った経路パスをつくればいい。


連接リンクスキル起動!」


 植物使いのみんなも魔力を送り、経路パスを拡げるのを手伝ってくれた。


 よおし!


 敵弓兵の神経細胞を掴み取り、制御をもぎ取った感触があった。敵弓兵まで経路パスつながる。


 やられっぱなしはしゃくにさわる。

 これはお返しだ。


「外乱因子注入、強制下方修正!」


 認識できない外乱を受けて敵弓兵の弓射姿勢がわずかに変わる。

 目には見えないほど小さな変化だ。彼らは、本来の狙いよりも射線がずっと下がっていることに気が付いていない。


 敵の矢の束がヒュン、ヒュンと風を切る。

 そして、弓射攻撃の一部が命中した。


「カン」「キン」「ブスッ!」

「ちっ」「くそっ! どこ狙ってやがる!」

「きゃあ」「真莉菜ー!」


 矢を受けたのは退避中の帝国交渉団だ。

 女の悲鳴もあがった。運悪く(・・・)織田真莉菜にも命中している。

 肩を抑えながら、遠くの方から絶叫する彼女。


「いたぁーい。雑賀ー! よくもやったなぁ。警察に訴えてやる!!」

「いや、射ったのは俺じゃないだろー」

「うるさい! 全部アンタのせいだ!」

「だから違うって、それより、救急車呼んだ方がいいぞー!」

「雑賀ー! 覚えてなさいよ!! 十倍にして返してやるから!」

「あー、はいはい、お大事にー!」


 織田真莉菜は受傷したものの、結構元気みたいだ。

 でも彼女、妙なところで勘がいい。

 半分、俺の仕業しわざだから、彼女の怒りの矛先ほこさきは当たっているといえば当たっていた。


 矢の雨が降るなか、磯野香織いそのかおり織田真莉菜おだまりなに寄り添う。

 そして、磯野香織いそのかおりは大きく手を掲げ、赤い光の幕を展開させた。薄っすらとあわく輝くその幕は退避中の交渉団を覆った。


「へぇー、あれが『障壁展開シールド』か……」


 初めてみる磯野香織いそのかおりの魔法の障壁にちょっと見惚みとれてしまった。

 でも、それ、出すの遅すぎ。

 団員は味方射ちに合って傷だらけだ。気の毒に宰相も足を引き摺っている。


 一方、城壁上では敵指揮官が誤射を激しく叱責しっせきしていた。

 敵弓兵たちは訳が分からず混乱におちいる。攻撃が一時止まった。


「いまのうちだ。後退、急げ!」


 逃げながらも、植物使いたちは地面に魔力を注ぐのを怠らない。俺たちの跡を追って伝導ヅタの地下根も伸びた。


 王国軍の方も、一気に前進しながら、敵との距離を詰めていたので、俺たちはすぐに王国軍に合流できた。

 アリッサが駆け寄ってきる。


「ナオヤさん! 無事ですか!?」

「大丈夫、かすり傷一つないよ」


 彼女がほっと安堵の胸をなでおろす。でも再会を喜んでいる暇はない。

 すぐさま王国射撃部隊に命じる。


「弓射隊は城壁上の弓兵を射て、魔法隊は敵の火炎攻撃に備えよ!」


 射ち下しとなる敵弓兵に比べて、こちらは射ち上げの形になる。通常なら若干不利だ。

 しかし、いまのところは敵の射撃を好き勝手に狂わすことができる。

 俺は、足元まで伸びた伝導ヅタを経由して、敵弓兵に外乱因子を送出した。


 それともうひとつ――


「光電班、こっちへ!」

「はい!」


 部隊の前衛に進み出たのは狐狸獣人の少年少女たちだ。

 そのなかの光魔法使いが地面に高収束光の基準線(レーザーマーカー)を照射する。

 △型の基準線マーカーに沿って、魚鱗の陣形が整えられた。


「みんな、この基準線からはみ出るなよ。内側にいれば基本的に安全だ。敵の矢は飛んでこない」


 敵弓兵部隊が混乱から立ち直り、こちらに向けて猛射をはじめた。

 しかし、外乱の影響でどの射撃もわずかに逸れる。

 怪訝けげん顔の敵弓兵。一部の者たちは異変に気が付いたみたいだけど、原因までは分からない。

 それに、なぜだか知らないけど、敵の火魔法使いはまだ投入されない。こちらにとっては好都合だ。


 仕掛けがバレるまではずっと俺たちのターン

 弓射隊の隊長ジーンがげきを飛ばす。


「射て、射て、射て! 残弾気にするな!」


 弓射隊の猛攻が始まり、敵弓兵を次々と射ち抜く。

 俺も指揮をとりながら、敵弓兵に外乱因子を送り続けた。


「射撃部隊、ゆっくり進め! 光電班は基準線マーカーを追随させろ。手空きは矢玉を拾え。拾って、拾って、集めまくれ!」


 城壁までの距離が詰まるにつれて自軍の命中率は跳ね上がり、敵軍からは矢玉がどんどん供給された。

 もはや、射ち合いは王国側の一方的なボコ殴り(ワンサイドゲーム)となった。

 敵弓兵がどんどんその数を減らしていく。


 ただ、そんななか、奇妙なことも起こっていた。

 デラが首をかしげる。


「ナオヤ殿、ときどき敵の弓射が基準線マーカー内にも飛び込んでくるぞ。なんでだ?」

「おかしいな、外乱は間違いなく届いているんだけど」


 シャンテルが器用に速射を続けながら視線だけをこちらに向ける。


「ナオヤ、どうかしたか?」

「いや、敵側に一人当ててくるヤツがいるんだよ。ソイツにも外乱を入れてるんだけど、思ったようにれてくれない」


 俺も不思議に思ったけど、デラには心当たりがあったようだ。


「ああ、そうか、ナオヤ殿、もともと狂っていた軌道が外乱で正しくなったのかもしれないな。きっとソイツは昔のシャンテル殿みたいに想像を絶するヘボなんだ」

「うん、なるほど。バラバラの外乱を入れてるのに一点に収束するなんて普通はありえない。アイツは並外れてド下手っていうわけか……」


 デラと俺の二人で納得し合っていると、射抜くような視線を感じ、寒気がした。

 静かな怒りをたたえる弓士のシャンテルがそこにいた。


「二人とも、たとえ敵であっても弓使いに対しては相応の敬意を払ってほしいものだな」

「は、はい。すみません」


 ちょっと前までシャンテルが不憫ふびんな子だったのを忘れていた。


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